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33 やっぱりこの人は優しい

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 城に呼ばれた朝も、何一つ変わりなくノエに起こされる。
 幸い筋肉痛にはなっていない。
 よかった、私はまだ若いんだ、窓の近くには昨日もらってきた『精霊ちゃんの素』が入った小瓶が置いてある。
 
 キラキラと輝き早く憑依させろと意思表示をしているようだ。
 憑依させる人形は手元にないので重要に考えたい。
 
 それにしても順調に駄目人間の道へと進んでいる気がする。
 一応、一応一般料理ぐらいは出来る。味噌汁や肉を焼くぐらいだけど。
 でも、私が厨房に入る事はないし、朝も目覚まし入らずで優しく起こしてくれるのだ。

 欠伸をすると、既にメイド服を着こなしているノエに挨拶をした。
 にしても、ノエはいつ寝てるのかしら。
 もう数人雇ったほうがいいようなきもするけど、ノエが虐められると嫌なのよね。


「おはおう。ノエ」
「おはようございます。あと二時間ほどでディーオ様がおむかえに来られます」
「そうね。これで私が用意出来てなかったら怒りそうだからちゃっちゃと用意しますか」
「おてつだいします!」

 ふんす! と鼻を鳴らして意気込むノエ。
 頭を優しく撫で、私も着替えを始めた。

 着替えをし顔を洗い食堂へと行く。
 パンとジャム、そして紅茶と鶏肉を焼いた物を口に詰め込んだ。
 その横ではノエが数日前から用意していた書類を小さな鞄へと綺麗に収納する。

 その書類は中身は浪花の商人なにわのあきんど……日本じゃないから浪花なにわも何もないか、ともあれ金の事なら信用の置けるナナの親友のミーティア。
 彼女に預けた宝石は四割が売れ、残りは商談中という証拠の紙である。
 
 これがあれば、近日中に金を持って来い! といわれても数日は待ってもらえるし、なんだったらミーティアのお店が立て替えるまでの署名が入っている。

 いやーパパにバレなくて良かったわ。
 私に怪我をさせたってばれたら、第二王子であれど何言うかわからないし。
 仮に変な注文して王や王子達が怒ってお家断絶、いや打ち首の可能性も高くなったし。

 私も、こう秘密裏に処理する事ができる大人の女性として生きていかなければ。

「そう心配そうな顔しなくても大丈夫よ」
「ですけど…………」

 ノエは何度も自分のせいで! と言うけど、ノエが教われなかったら私が襲われていた可能性は高いし、カイン一人じゃ結局は撃退できなかったのよと言いくるめる。
 最後は細かい事はいいのよと、慰めた。

 お腹も程よく膨れた所でびしっと用意をした。
 っても、普段と余り変わらない。
 
 化粧をする習慣が余り無いし別に服も今は着れればいい。
 前の記憶が戻る前の悪趣味な衣服はノエを通してゆっくりと売りに出している。
 クローゼットも今はすっきりだ。

 コンコンコンとドアノッカーの音が聞こえてきた。
 ディーオだろう。

 ノエが確認しにいくと、やはりディーオであり応接間へと入れてもらう。
 金の刺繍が入ったローブを手に取ると応接間へと迎えにいった。

「おはよう」
「…………おはよう。良く眠れたか?」
「おかげさまで、本日はよろしくお願いしますね」
「ただの調停式だ」

 貴族の令嬢らしく挨拶したのに、何時ものように私を小馬鹿にしたような顔で返事をしてくる。
 …………したような、じゃなくてたまに本当に小馬鹿にしてるわよね。
 いつかギャフンと言わせたい。

 っと。

「じゃぁノエよろしくね」
「はい、行ってらっしゃいませっ!」


 ◇◇◇

 王城から手配された豪華な馬車に乗り込む。
 狭い馬車で自然と向き合う形に座る事になった。

「そういえば」
「なんだ?」
「エレファントさんの事まだ聞いてないんですけど」
「…………何だ覚えていたのか。一向に学園に来ないから忘れてくれたと思っていた」

 実際忘れていた事は黙る。

「頻繁にディーオの部屋に行くと変な噂立ったら困るでしょ?」
「ボクが君みたいな小娘と噂になどなってたまるか」

 さらっとディスられた気がする。
 髪を軽く掻き揚げると私へと顔を向けた。 

「エレファント女史は度々王家を利用する魔物だ! と噂する人間がいる。
 種族や亜人など色々根深い問題だ」
「へえ」

 あ、あれよね。
 亜人は人じゃない人に似た種族。
 エルフとかもそれに入ったとゲームの中で教わった。
 ゲームの中では別に差別など無かったけど…………やっぱあるのか。
 それと、私のゲームの記憶ではエレファントさんは魔族だ。
 あれ? じゃぁリュートも魔族になるのかしら、うーん。


「おいっ聞いているのか?」
「え。はい、聞いていますわよ?」
「…………そんな噂が広がってみろ、ろくな事にならない。
 君は歴史は知らないかもしれないが、先々代の王の時代に魔女狩りがあった」


 日本に居た時にも習った。
 中世の魔女裁判。色々と諸説はあって不透明な部分があるらしいけど、すべてにおいて同じなのは、魔女と認定された女性が殺されていく。


「流行り病を広めたのは魔女。そして殺すのは流行り病を治すため。
 原因はわからんが、流行り病は治まったよ。
 その話を聞いて育った先代の王は、実は魔女はいなく殺された魔女とは無実の錬金術師だったのではないかと疑い始めた。
 王になってからは学園設立の為に動いたり今の学園の基礎を作った、その教えは現王にも受け継がれている。
 エレファント氏は錬金術科を作るにいたって貢献した人で、ボクも学園にいた時には生徒として、お世話になってるし、仮にそういう噂に巻き込まれてみろ。
 やっぱり錬金術師は人間ではないと広まり悪くて死刑、一生投獄可能性も出てくる」


 私はよれよれの囚人服を着て地下室に入れられるのを想像する。
 頭を振ってディーオに向き直った。


「嫌よね」
「当たり前だ。それでなくても錬金術師は好奇の目で見られる事が多い」
「もっと楽に考える人生を送りたいわね」
「………………どんなのだ?」
「そうねぇ、剣や魔法を操って魔王を退治しにいくんだけど、魔王がイケメンで私の美貌にひれ伏すって何でも言う事を聞いてもらって世界を旅するような」


 日本にいた時に流行った漫画の話だ。
 もっとも、漫画の中は転生したのは男で、魔王も女。
 露出度ギリギリの服を着てるのになぜか一線だけは越えなくて世界を回っては毎話異世界料理の紹介をする。


「あれ? 怒るかと思ったけど怒らない?」
「怒るというよりは呆れてる。全く同じ思考の人間を昔みたからだ」
「へえ、その人は?」
「夢を叶えるんだ! と出てったよ、元気にしていればいいが」
「あっ、もしかしてディーオそれってラーミさん!?」
「なぜボクが呼び捨てで、アレに敬称がついてる。
 質問に答えるなら正解だ。君と居ると疲れる、少し眠らせて貰うよ」
「それじゃ、着いたら起こすわよディーオ先生(・・)」
「何も出来ない君でもそれ位は出来るだろう。任せた」


 狭い馬車というのにディーオは本当に寝た。
 顔の部分はフードを深くかぶって見せないようにはしている。
 なんだかんだで、コイツおっと……ディーオは優しいのよね。
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