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09 国王からの呼び出し

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 ここ最近は外は雨模様だ。
 まるで私の心のようにと、詩人っぽい事を言ってみる。
 別に詩人では無いので本当に口にはださない。
 それに心の中に雨も降ってないし。

「暇ね」
「…………」

 『もっと魔よけの香』が出来たのが一昨日、もちろん受け取りにはノエ一人で行かせた。
 小さい小瓶に入っており、それが十二本。
 代金は金貨三枚を渡せてきた、そしてその日のうちに城で寝泊りしているパパへ届けさせる。
 やる事が終わった。

 錬金術師を極めたいとも思わないし、かといって領地に帰ってもなぁ迷っている所である。

「暇ね」
「あの、何かゲームか、もしくは本を持ってきましょうか?」

 二度目の呟きに反応してくれたのはノエである。
 ゲーム、この世界にゲームが無いわけではない。
 トランプからリバーシなどもあるけど、相手はノエしかいないしノエは手加減をするだろうし。

「辞めとくわ」

 新しい趣味でも見つけないといけない。
 もしくは恋人作り? リュートの顔が浮かんだけど首を振る、次に浮かんだのがディーオの顔だ。

 もっとないわー。

 多分未来はもう変わったはず。
 ここから本格的に進路を決めないとだめだろう。
 帰るか残るか。


「ま、ここは脇役らしく舞台から撤退しますか」


 深くは考えないでそう決めた。

 ノエが不思議そうな顔をして聞いているが、意味はわからないだろう。
 あとは、パパにどんな言い訳をするかを考える。
 外を眺めていると、一台の馬車が進んでいるのが見えた、雨の中ご苦労様な事だ。

 そのまま私の家の門前へと止まった。
 白髪(はくはつ)で長い白髭を生やした老人が馬車から降りると門番と何か話している。

 ノアも確認したのか玄関へと走っていくと、直ぐに私を呼びに来た。
 よっこらしょっと、自然に口にだして玄関へと向かう。
 既に玄関にいる白髪で白髭の長い老人は私をみると笑顔になる。

「エルン・カリュラーヌ殿ですかな?」
「そうですけど?」
「王より出頭命令が出ておりますな」
「はい?」

 エルン・カリューラヌを直ちに城へ連れてくる事と書かれた紙を見せられる。
 紙に竜の模様が書かれており、王家の紋章だ。
 玄関の外側には一緒に乗ってきたのだろう、透き通る赤毛で腰には剣を持った男性もいつの間にかいた。
 どこかで見たような、そして私の動きを見ている。

 どうみても私の逃亡防止とこの老人の護衛だ。
 ……それよりも悪い事なんてしてないですけど!

「あのっ」
「なんですかな?」
「断る事は?」

 白髭の長いお爺さんは、背後に居る赤毛男性へと顔を向けた。
 赤毛の男性は黙って首を振る。

「なんせ王の命令ですらかのう」

 とぼけたようなお爺さんの口調にイラっとしたけど、この人に言っても無駄だろう。
 死刑……? いや、私はまだ何もしていない。
 留置所? だからまだ何もしていない。

「あわわわ、エルンおじょうさまっ、どどどうしましょう。
 すぐに、マイトさまを呼びに」

 ノエが慌て始めると、お爺さんはポンっと手を叩いて微笑む。

「これは失礼、父上であるマイト・カリューラヌ殿は既に領地へと帰っている途中ですのう」
「パパが!? いいえ父はもう帰ったの!?」

 流石に外でパパと呼ぶのは恥ずかしい。

「そうなりますなぁ」

 あくまでとぼけたお爺さんである。
 ノアの頭を軽くなでる。

「じゃ、留守番お願いね成るべく早く帰ってくるから」
「おじょうさま……」

 最近やっと懐いてきたノアを落ち着かせ馬車へと乗り込んだ。
 誰も座っていない馬車に乗り込むと、老人と赤毛の男性が真向かいに座る。

 私が黙っていると、誰も喋らない。
 赤毛の男性が私の事を時おりチラチラとみる、視線を返すと直ぐに横を向いた。

 これから何かしらの罰を受ける私を見て面白いのかっ、何か文句を言おうか迷っていると白髭のお爺さんが話しかけてくる。


「時に……エルン殿は錬金科の学生ですな」
「一応そうなりますわね」

 もう辞めるけど。

「賢者の石というのは知ってますかな?」
「まぁ一応」
「どんな物なんでしょうなぁ」

 錬金術師の求める最高のアイテムだ。
 全知のモノリス、始祖の竜の心臓、真実の瞳などレア素材を虹の中和剤で作れたような……。

「なんでも作れる石なんじゃないんです? 賢者の石っていう名前なんですし」
「なるほどなるほど」


 白髭が長いお爺さんは、何が面白いのか笑みを浮かべる。

 馬車に揺られる事、多分二十分ぐらい私は城へと着いた。
 白髪の老人の後ろを歩く、逃げられないように背後には赤毛の男性が私の後をついてきていた。

 すれ違う兵士は敬礼をする事から白髭の老人は偉い人なんだろう。
 大人が十人ぐらいはいれそうな大きな扉をくぐった。

 赤い絨毯が敷かれており左右には兵士が直立不動で立っている。
 誰かみても王が座るとわかる玉座の横には褐色の女性騎士が立っていた。
 確か、ナナの錬金術師では酒場『熊の手』の常連客の酒好きのアマンダさんだ。

 っと、今はそんな事はどうでもいい。
 私の前には頭を下げて膝をつく男性がいる。
 その黒いローブとグレーの髪で誰だがわかる、ディーオだ。

「王の間である、そのほうも中央へいき頭を下げよ!」

 リンとしたアマンダさんの声が響く、私はディーオの隣に行くと同じように頭を下げた。
 私を連れてきた白髪のお爺ちゃんと、赤毛の男性も私の横に……いなかった。
 頭を下げたままでわからないけど、私より前をどんどんと歩いていく。

「余がグランの王、ヒュンケル・グランおもてをあげよ」

 私は顔を上げる。
 先ほどまで一緒に馬車に乗っていた白髪の老人が王と名乗り、その横にある一回り小さい椅子には赤毛の男性が少し窮屈そうに座っている。

「は?」

 間の抜けた声が口から出ていたと思う。
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