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第16ワン 犬と蝮

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『まんまと貴様の策にはまってしまいましたが、策を弄していたのは私も同じ。そこに転がっている男はただの下級魔族で影武者。私が本物の魔獣遣いタモンなのですよ。もっとも、これは魔王様と私しか知らない事でしたがね』

「はは……策士策に溺れるってヤツだね。まさかキルバーンやヤグン将軍パターンだとは……じゃあ聖剣で心臓を突かれても生きてるのはどうしてさ」

 しのぶの問いにキマイラ─タモンは答える。

『キマイラは3本の首それぞれに命があるのですよ。その犬に奪われたのは獅子首の分です』

「へえ。じゃあ……『黙りなさい!!』

 しのぶの言葉をタモンは遮る。

 『色々と聞きながら時間を稼いでいるつもりでしょう。そしてその隙にまた次の策を練る……貴様はそういう小僧だ、め!』

 タモンが3本の首でぎろりと睨む。だが、しのぶは笑っていた。

「知恵の勇者…か。ちょっとはカッコイイ称号が手に入ったよ。 ズバリ、ボクは新しい作戦を練る為に時間を稼いでいた。だけど、もう充分さ。な?ジロー!」 
「わん!」

 しのぶの腕の中で虫の息だったはずのジローは起き上がった。顔は丸く腫れているが、それ以外全くの無傷でケロリとしているではないか。

『馬鹿な!なぜ我が毒牙を受けて平然としていられる!!?』

「お前、魔獣遣いとか名乗ってるくせに知らないのか?犬はマムシに咬まれても面白い顔になるくらいで死なないんだよ」

 しのぶの言う通り、健康な犬がハブやマムシ等の毒蛇に咬まれても、人間ならば死に至る程の出血毒を体内に注がれたとして滅多に死ぬ事はない。ましてやジローは勇者の力を得た事により耐毒性が大幅に向上している為、魔毒蛇《サーペント》の猛毒をもマムシ程度に抑える事が出来たのだ。

「いやあ、久しぶりにジローがマムシに咬まれた顔を見たけど、笑いを堪えるのに必死だったよ」

「わぅ!!」

「ああゴメンゴメン。その顔じゃ締まらないもんな……」

 しのぶはジローの膨れた顔を両手で包む様に手を当て、

「“我が生命の光、失われし力を呼び戻さん…ヒレロ!”」

 呪文を唱えるとしのぶの掌が淡く光り、ジローの顔から腫れが退いた。

「シノブ様が癒術を!?」

「私が教えたのですよ!女王様!」

 驚く女王と喜ぶナイーダ。

「あと二回殺せば、お前は今度こそ終わるんだったな?」

「ウゥゥゥ~ッ!!」

 しのぶは聖剣の鞘を、ジローは聖剣の切っ先をタモンに向ける。

「かかって来いよタモン。ボク達に負けて“奴は四天王の中でも最弱”って言われる覚悟が出来てるならね!」
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