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第3部
act.22-祥太朗
しおりを挟む燈亜は届いたピザを黙々と食べると、肩を落として帰っていった。
結局レコーディングの件については言い出せないまま、祥太朗は現在、迎えの車に揺られて目的地に向かっているところだ。
隣に座っている晶は、イヤホンを付けて目を閉じ、窓に身を寄せるようにしてちいさくなっている。
窓枠の陰にいてもわかる青白い顔と、こころなしか腫れているように見えるまぶた。
腕組みをしたままぴくりとも動かない様は、全身で他人と関わることを拒んでいた。
それもそのはず、あんなことがあった後では、朗らかに振る舞うことなどできるはずもないだろう。
「晶さん、もうすぐ着きますよ」
「ん……」
気怠げな雰囲気になぜか色気を感じてしまい、ふと燈亜から聞いた話を思い出す。
不埒な想像が頭をもたげ、焦った祥太朗は持っていたカバンの中身を盛大にぶちまけたのだった。
***
いきなり大失態を演じたことが功を奏したのか、それとも開放的な場の雰囲気のせいか、晶の様子は車内にいたときより幾分リラックスしていた。
「すごいな。もっと山小屋的なところかと思ってました」
湖畔に建てられたコテージと、併設されているスタジオ。それらは、祥太朗が想像していたものよりもずっと近代的かつ豪華だった。
自然豊かな景色は確かにヒーリング効果抜群で、失恋の傷を癒やすにはもってこいだな、などと余計なことを考えてしまう。
部屋割は当然のように晶と隣室になっていたので、連れ立ってコテージに向かった。
「ここ全部貸し切りなんですよね? めちゃくちゃ待遇良いじゃないですか」
「それだけ会社も期待してるってことだろ。責任重大だな」
いつの間にか、こんな風に軽口を叩ける程度には親しい間柄になっていることに、祥太朗は浮足立っていることを自覚する。
昼食を兼ねたミーティングまでは時間があったので、荷物を片付けると外を散策してみることにした。
目の前に湖が広がる絶景に、祥太朗は言葉を失う。
ひんやりとした空気が全身を包み込み、耳を澄ませば小鳥の鳴き声が聴こえてきた。
かすかな足音に振り返ると、そこには、ポケットに手を突っ込んで眉を顰めた晶が立っている。
「さむ……」
ぶるっと身体を震わせて、いかにも大儀そうにしている仕草につい笑みが浮かんだ。
「だったら部屋にいたらいいじゃないですか」
「ここまでとは思わなかったんだよ。そういうお前もガタガタしてんじゃん」
肌寒いのは確かだったが、そこまで大袈裟に言うほどでもない。それでも晶は「ほら、風邪引くから帰るぞ」と踵を返した。
その様子に、自分を心配してわざわざ出てきてくれたのだろうことに気付く。
こんなときまで他人を気にかけるなんて、どこまでお人好しなんだか。
足早に戻っていく丸まった背中を追いかけながら、諦めきれない燈亜の気持ちもわかるな、と思った。
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