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第3部
act.2-翠春
しおりを挟む代わり映えのしない画面を眺め、手にしたスマホをテーブルに放り投げると、翠春は整った眉を顰める。
つい先日、約束通り自宅に来てくれた晶に、勢いで自分の気持ちを告げてしまったこと。
それはいまさら後悔しても仕方ない。
だが当の相手は、あれから電話に出ないのはもちろん、メッセージの返信すら寄越さないのだ。
おそらくはしばらく連絡を断って、冷却期間を置こうなどと考えているのだろう。
優しい兄のことだから、愚かな弟を傷つけないために気を遣ってくれているのだ。
それくらい、翠春にだってわかる。
どうせこんなことになるのなら、遠慮せずにいっそ最後までしてしまえば良かったかな、などと考えてしまい、慌てて頭を振って邪念を追い払った。
生き物の気配にふと足元を見ると、心配そうな顔をした愛犬が擦り寄ってきている。
「ダイ……オレ、どうしたらいいんだろ」
ふわふわした身体を抱き寄せると、ダイレクトに体温や鼓動が伝わった。するとなぜだか、鼻の奥がつんとしてくる。
たとえば自分もこの子のように、無条件に愛されるだけの存在であったなら。
家族として注がれる愛情だけで、満足することができていたなら。
こんな風に、身を焦がすほど思い悩むこともなかったのだろうか。
それでも――どうしたって、求めずにはいられないのだ。
やわらかなくちびるに触れてしまったとき。
そして、ぎこちない指に触れられたとき。
あの瞬間を知ってしまったら、もう後戻りなんてできるはずがない。
だいたい、晶にしたって悪いところはある、と翠春は思う。
自分を含め、周囲の連中からどういう目で見られているのか、あまりにも自覚がなさすぎるのだ。
きっと晴斗やあの打ち上げで会った高校生なんかにも、無防備に色気を振りまいているのだろう。
もちろん、それが理不尽な八つ当たりであり、醜い嫉妬からくる感情であることは重々承知していた。
まぶたを閉じれば、いまだ鮮明に浮かぶ晶の姿。
自分を見あげてきた顔からは、嫌悪感だとか、そういったものは一切読み取れなかった。
戸惑ったように揺れるあの瞳を思い出すだけで、胸が締め付けられるように痛くなる。
「うわっ、なに?」
生温かい感触に驚いて目を見開く。いつの間にか流れていた涙を、大福に舌で舐め取られていた。
「ありがと。慰めてくれて」
そっとちいさな身体を床に下ろし、頭を撫でてやる。
重力に従った雫が床に落ちたのと、テーブルに置いたスマホが振動したのは、ほぼ同時だった。
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