38 / 116
第2部
act.3-晴斗
しおりを挟むつい衝動的に晶の側を離れてしまったことを、晴斗は心底後悔していた。
だいたい、ひかるが空気読めなさすぎなんだよ。自分が悪い虫から守ってやろうとしているのに、ちっともそんなことはお構いなしなんだから。
一旦外に出た晴斗は、扉にへばりつくようにして中を覗き込む。
燈亜たちと談笑している晶の姿が目に入り、ふと今朝の情事を思い出した。
あのシャツの下に隠れているしろい肌には、晴斗が付けた刻印が華のように散っているはずで。
そう考えると、ぞくぞくするような快感が押し寄せてくる。
「あれぇ、はるとサンだ。ヒカル兄と一緒じゃないんですか?」
いきなり背後から声をかけられ渋々振り向くと、目の前に立っていたのは、洗練された雰囲気のひとりの青年だった。
「お前……すばる?」
晴斗が最後に会った時、まだ高校生だったはずの翠春。いまでは、落ち着いた大人の男性に成長している。
「お久し振りです。珍しいですね、ふたりセットじゃないなんて」
「……いいんだよ、離れていたって心は繋がってるんだから」
先程まで死ぬほど後悔していたことなどおくびにも出さず、晴斗は真顔でそう言ってのけた。
翠春は片眉をひゅっと上げ、軽く肩を竦める。そんな仕草ひとつも絵になるほどに整った容姿は、周囲の視線を独占していた。
「そろそろ、ヒカル兄のバイトも終わる頃ですよね。まぁ来年はお世話になることもないと思いますけど」
「……どういう意味だよ」
翠春はそれには答えず、代わりに挑むような視線を送ってきた。
晴斗は嫌な予感がしたが、これ以上追及するのはやぶ蛇になる気がするので黙っておく。
この義弟が自分たちの仲を快く思っていないことはとっくに承知しているが、いよいよ実力行使に出るつもりなのだろうか。
ふたりが睨み合っていると、スタッフらしき人物が駆け寄ってきた。
「Hughさん、控室までご案内します」
「はい、ありがとうございます……はるとサン、会えて良かったです。また今度、一緒に食事でも」
あからさまな社交辞令を並べ立てて、翠春はにっこりと笑った。
あまりにも完璧なその表情には、有無を言わさぬなにかがある。
スタッフに促されて中に入っていく背中を見送りながら、晴斗は複雑な思いを抱いていた。
昔の翠春は、ただ晶の後をついて歩くだけの子供だったはずだ。
それがどうだろう。いつの間にか大人びた彼は、自分を牽制してくるまでになっている。
ただ可愛いだけだった少年が、急に美しく成長して目の前に現れたら、晶はどう思うのか。
恋人がモテることは誇らしくもあるが、自分を含め顔面偏差値が異常に高い連中ばかりなのは何なんだろう、と晴斗は妙なところに引っ掛かっていたのだった。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる