Fragaria

石蜜みかん

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第2部

act.3-晴斗

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 つい衝動的に晶の側を離れてしまったことを、晴斗は心底後悔していた。


 だいたい、ひかるが空気読めなさすぎなんだよ。自分が悪い虫から守ってやろうとしているのに、ちっともそんなことはお構いなしなんだから。


 一旦外に出た晴斗は、扉にへばりつくようにして中を覗き込む。
 燈亜たちと談笑している晶の姿が目に入り、ふと今朝の情事を思い出した。

 あのシャツの下に隠れているしろい肌には、晴斗が付けた刻印が華のように散っているはずで。
 そう考えると、ぞくぞくするような快感が押し寄せてくる。
 
「あれぇ、はるとサンだ。ヒカルにぃと一緒じゃないんですか?」

 いきなり背後から声をかけられ渋々振り向くと、目の前に立っていたのは、洗練された雰囲気のひとりの青年だった。

「お前……すばる?」

 晴斗が最後に会った時、まだ高校生だったはずの翠春。いまでは、落ち着いた大人の男性に成長している。

「お久し振りです。珍しいですね、ふたりセットじゃないなんて」

「……いいんだよ、離れていたって心は繋がってるんだから」

 先程まで死ぬほど後悔していたことなどおくびにも出さず、晴斗は真顔でそう言ってのけた。

 翠春は片眉をひゅっと上げ、軽く肩を竦める。そんな仕草ひとつも絵になるほどに整った容姿は、周囲の視線を独占していた。

「そろそろ、ヒカル兄のバイトも終わる頃ですよね。まぁ来年はお世話になることもないと思いますけど」

「……どういう意味だよ」

 翠春はそれには答えず、代わりに挑むような視線を送ってきた。
 晴斗は嫌な予感がしたが、これ以上追及するのはやぶ蛇になる気がするので黙っておく。

 この義弟が自分たちの仲を快く思っていないことはとっくに承知しているが、いよいよ実力行使に出るつもりなのだろうか。

 ふたりが睨み合っていると、スタッフらしき人物が駆け寄ってきた。

Hughヒューさん、控室までご案内します」

「はい、ありがとうございます……はるとサン、会えて良かったです。また今度、一緒に食事でも」

 あからさまな社交辞令を並べ立てて、翠春はにっこりと笑った。
 あまりにも完璧なその表情には、有無を言わさぬなにかがある。

 スタッフに促されて中に入っていく背中を見送りながら、晴斗は複雑な思いを抱いていた。

 昔の翠春は、ただ晶の後をついて歩くだけの子供だったはずだ。
 それがどうだろう。いつの間にか大人びた彼は、自分を牽制してくるまでになっている。

 ただ可愛いだけだった少年が、急に美しく成長して目の前に現れたら、晶はどう思うのか。

 恋人がモテることは誇らしくもあるが、自分を含め顔面偏差値が異常に高い連中ばかりなのは何なんだろう、と晴斗は妙なところに引っ掛かっていたのだった。
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