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第1部
act.15-晶
しおりを挟む晴斗のきまぐれのおかげで時間ができたので、晶は頼まれていた編曲作業をなんとか終わらせることが出来た。
データを送信し、ほうっと息をつく。
細かな修正は必要だろうが、それくらいならたいした手間でもない。
バイトがなければ、一日中籠もっていたいくらいだけど。
いま晶がいる場所は、作業室として借りている屋根裏部屋だった。
必要最低限の機材しか持ち込んでいないのだが、それでも場所を取るので晴斗の部屋では無理だったのだ。
買ってきてもらったアイスアメリカーノを飲みながら、今度は自身が所属するラップグループの曲に取りかかる。
作業に没頭していると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
ドアをノックする音に気付いて時計を見ると、すっかり夜になっていた。
ふらふらしながら部屋の外に出る。
待ち構えていた晴斗が、その身体を抱きとめた。
「放っておいたらいつまででもやってるんだから。もうご飯の時間だよ」
まるで母親のような物言いに、晶は思わず笑ってしまう。
見上げると、くちびるに軽くキスされた。
「ひかる、コーヒーの香りがする」
「あ……アメリカーノ、ごちそうさまでした」
そのセリフに、晴斗はどういたしまして、と微笑む。
「ぼくはお前が喜ぶことなら、なんだってしてあげるよ。その代わり、ちゃんとご褒美ちょーだい」
「いつもあげてるじゃないですか」
晶が呆れた顔で言うと、晴斗がくちびるをとがらせた。
いま以上を要求されたら、さすがに身がもたない、と思う。
「とりあえず、アメリカーノのぶんは返しましたよ」
「え、いまので?」
当然、といった感じで頷く。晴斗は不満そうだったが、この場は諦めたようだ。
「ほらほら、冷めちゃうから早く食べに行こう」
手を繋いでダイニングまで歩く。
多忙ということになっている彼の両親は、ほとんど家に寄り付かない。使用人をのぞけば、広い家にふたりきりのことが多かった。
食事を済ませてリビングのソファーでくつろいでいると、晶のスマホが鳴った。
画面に表示された名前は、義弟である翠春だ。
「もしもし? 珍しいな、電話してくるなんて」
種違いの弟である翠春は、大学に通うかたわらHughという芸名でモデルの仕事もしている。いまはマンションを借りて一人暮らし中だった。
多忙な彼とは、ここ半年ほど会っていない。
「あぁ、そのひとたちなら知ってるけど」
隣で晴斗が聞き耳を立てているのが気配でわかる。聞かれて困る話でもないので、晶はそのまま会話を続けた。
「途中からなら顔出せると思う……あとで場所だけ送っておいて」
用件だけの簡単な通話が終わると、晴斗がさっそく目で問いかけてきた。
「翠春が、おれの知り合いのミュージックビデオに出るから……撮影を見に来て欲しいって」
「あぁ、あのモデルのコね。それで、なんでお前が誘われるの?」
明らかに不満そうな顔に、おもわず笑みがこぼれてしまう。
「撮影場所がここから近いみたいで。差し入れ持ってこいって言われました」
「ふうん」
いまいち納得がいかない、といった態度の晴斗。おそらく、燈亜の件もあったので過敏になっているのだろう。
「父親が違うとはいえ、兄弟ですし。なにも心配するようなことはないですよ」
安心させるように言ってみたが、晴斗の顔は曇ったままだ。
「そんなに気になるなら、一緒に来たらいいじゃないですか」
妥協案を提示してみたが、首を振るばかり。どうしても晶に行って欲しくないらしい。
「差し入れ渡したらすぐ帰りますから……」
両手で優しく頬に触れ、ちゅ、とキスをしてやると、晴斗はようやくしぶしぶと頷いた。
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