10 / 116
第1部
act.10-燈亜
しおりを挟むスクールに着いたまでは良かったが、まだ早いため前のクラスがレッスン中だった。
仕方なく、燈亜はロッカールームで時間を潰すことにする。
落ち着かない気持ちのまま着替えを済ませ、早速スマホの通知を確認した。
当たり前だが、メールはまだ届いていない。
つい何度も更新してしまい、そのたびにがっかりすることを何度か繰り返していると、誰かがロッカールームに入って来た。
「あれ~、トモじゃん。珍しいね」
おおげさに驚きながら近付いてくるのは、同じクラスでレッスンを受けている和弥だ。
普段の燈亜なら、集合時間ギリギリに滑り込むのがお約束なのである。
「今日は、ちょっと用事があったので……」
「ふうん?」
言い淀んだ燈亜に和弥は不思議そうな顔を向けたが、それ以上は追及してこなかった。
「今日は新曲の振付、初合わせするんだよね」
話題が変わったことにほっとして、燈亜は頷く。
「あの曲、すごく好きです」
つい先日、次のダンスコンクールに使用する曲が発表されたばかりなのだ。
燈亜は最初に聴いたときからすっかり気に入って、このところずっとヘビロテしている。
「作曲したひと、帆南先生の知り合いらしいよ」
「そうなんですか」
ふたりが所属するクラスの担当である帆南は、staysailという名前で活動する有名なダンサーだった。
当然、音楽業界にも知り合いが多い。
「あ、終わったみたい」
気付くと、レッスンが終わったのだろう、練習室のざわめきがロッカールームまで届いてきている。
燈亜は最後にもう一度だけ通知を確認し、溜め息をつきながらマナーモードに切り替えた。
***
「この時間に末っ子組が揃ってるなんて、今日は雪でも降るのか?」
同じクラスのレッスン生たちが、燈亜と和弥のふたりを見て笑い合った。
燈亜の所属するクラスは上級向けで、働きながらプロを目指しているような者ばかりだ。必然的に、比較的時間の自由がきくフリーターが多い。
まだ学生のふたりは、セット扱いで年上の皆から可愛がられているのだった。
からかわれてむっとした顔の燈亜に、和弥が耳打ちしてくる。
「みんな、トモが元気ないって心配してたんだよ」
「ぼくのこと、コドモ扱いし過ぎですよ……もう、ブラックのアメリカーノだって飲めるのに」
燈亜のつぶやきを聞いた和弥も、くすくすと笑い出した。
「大人の基準がそれなの?」
「そういうわけじゃないですけど……」
こんな時でさえも、やっぱり思い浮かぶのは晶の声と笑顔で。
燈亜は期待と不安がないまぜになった気持ちのまま、しぶしぶウォーミングアップを始めるのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる