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第9話 さようなら彼氏
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藤ヶ谷 虎夏、16歳。
妄想、空想だけでなく、たまにはリアルに恋愛をしたいと思い、日頃からチャンスはないかと探していたりするのだ。
教室の窓から校庭を眺めていると、私の左肩にトンボが止まった。すぐにでも払いのけようとしたが、勝手に飛び立つだろうと静かにしておいた。
だが、一向に飛び立つ気配が無い。寿命は決して長くないから優しくしてやったが、このまま肩に止まっていてられても邪魔なので追い払うとするか。
『ガヤ』
「……まさかトンボなのか? 私に話しかけてきたのは」
『そうだよ。君のことが好きなんだ』
「まさか人間では無くトンボに告白されるとは思わなかった」
『君の傍から離れたくないから、僕の一生を君の肩で過ごさせて』
私はトンボのピュアな告白に負けた。
「トンボよ、私の肩で生きよ」
翌日から私とトンボは恋人同士のように毎日一緒に朝から晩まで過ごした。
彼氏なのだから十佳や湖乃佳、磯貝に紹介して自慢でもするか。そう言えば、磯貝の下の名前を聞いてなかった。
――放課後。
私は十佳や湖乃佳、磯貝を屋上に呼んだ。
「磯貝よ、下の名前は何て言うんだ?」
「……水奈緒だけど」
「そうか、水奈緒。そして十佳と湖乃佳、お前達に重大な発表がある」
「何? 今日は早く帰りたいから さっさと用件を伝えて」
相変わらずの十佳だが、これから私の彼氏を紹介するとともに表情が一変するぞ。自分よりも先に彼氏を作られるなんて、さぞ悔しがるだろうな。
「実はな、私に彼氏が出来た」
「……」
案の定、3人は言葉が出てこないようだ。
「嘘でしょ」
「嘘なものか。会わせてやる、と言うか既に面会しているがな」
「……」
「こちらが私の彼氏だ」
私は左肩を少し前に倒すように傾けて3人にトンボを紹介した。
「……何? 」
「私の彼氏だ」
「彼氏って、まさかトンボのこと。遂に人間と恋人になる妄想も出来なくなり、トンボと恋人ごっこする妄想をするなんて……このまま友達として付き合い続けていけるかしら私」
「十佳よ、失礼すぎるだろ。心と心が繋がっていれば、身分など関係ない」
「身分とかの話じゃないような気がしますけど……」
「湖乃佳まで そのような事を言うとは。水奈緒はどう思う? 」
「いや、ちょっと頭、おかしいよね」
「デフォルメされていて、尚且つ愛らしいつぶらな瞳、可愛くないか」
「全然デフォルメされてないし、目も含めてリアルで気持ち悪いんだけど……」
「お前達なんかに私の彼氏を紹介すべきでは無かった」
私はトンボと共に3人を置いて帰ることにした。
「待ちなさい。ちょっと気になってたんだけど、あんたそのトンボを肩に乗せてからお風呂入ってないでしょ」
「急にどうした十佳。お風呂に入っていないというか、服も着替えず生活しているし、潰さないように立ち寝してるが」
「そこまでするか? 」
「そりゃあ、彼氏なんだし」
「でも、そのトンボ既に乾燥して死んでね? 」
「し……」
恐ろしい言葉が十佳の口から発せられた「既に乾燥して死んでね?」……そんなはずがないじゃない。今も話しかければトンボは返事をしてくれる。
「トンボ、私のこと好きだよな」
『好きだよ、ガヤ』
「ほら見ろ。嘘は止めてもらいたいものだ」
「いい加減に現実逃避はやめなさい。ほら」
十佳は「ほら」と言うと左肩に居た私の彼氏を振り払った。
私の数日間の恋人生活が一瞬にして終わった。カスカスに乾燥した彼氏の姿に私は言葉を失った。例え人じゃなくても少しくらい恋人生活を満喫できて良かったよ。
その後、私はみんなと別れた後にお墓を作ってやろうと元彼の姿を確認しに戻った……屋上にも関わらず無残にもアリの群れに。苦笑している私のところに湖乃佳がやって来た。
「藤ヶ谷さん、彼氏なんてすぐに出来るよ」
「ああ、励ましてくれてありがとう」
私のことを心配してくれているのであろう湖乃佳だが、私の元彼を容赦なく踏みつけている光景が目に焼き付いたよ。悪気はない……そう信じたいものだ。
妄想、空想だけでなく、たまにはリアルに恋愛をしたいと思い、日頃からチャンスはないかと探していたりするのだ。
教室の窓から校庭を眺めていると、私の左肩にトンボが止まった。すぐにでも払いのけようとしたが、勝手に飛び立つだろうと静かにしておいた。
だが、一向に飛び立つ気配が無い。寿命は決して長くないから優しくしてやったが、このまま肩に止まっていてられても邪魔なので追い払うとするか。
『ガヤ』
「……まさかトンボなのか? 私に話しかけてきたのは」
『そうだよ。君のことが好きなんだ』
「まさか人間では無くトンボに告白されるとは思わなかった」
『君の傍から離れたくないから、僕の一生を君の肩で過ごさせて』
私はトンボのピュアな告白に負けた。
「トンボよ、私の肩で生きよ」
翌日から私とトンボは恋人同士のように毎日一緒に朝から晩まで過ごした。
彼氏なのだから十佳や湖乃佳、磯貝に紹介して自慢でもするか。そう言えば、磯貝の下の名前を聞いてなかった。
――放課後。
私は十佳や湖乃佳、磯貝を屋上に呼んだ。
「磯貝よ、下の名前は何て言うんだ?」
「……水奈緒だけど」
「そうか、水奈緒。そして十佳と湖乃佳、お前達に重大な発表がある」
「何? 今日は早く帰りたいから さっさと用件を伝えて」
相変わらずの十佳だが、これから私の彼氏を紹介するとともに表情が一変するぞ。自分よりも先に彼氏を作られるなんて、さぞ悔しがるだろうな。
「実はな、私に彼氏が出来た」
「……」
案の定、3人は言葉が出てこないようだ。
「嘘でしょ」
「嘘なものか。会わせてやる、と言うか既に面会しているがな」
「……」
「こちらが私の彼氏だ」
私は左肩を少し前に倒すように傾けて3人にトンボを紹介した。
「……何? 」
「私の彼氏だ」
「彼氏って、まさかトンボのこと。遂に人間と恋人になる妄想も出来なくなり、トンボと恋人ごっこする妄想をするなんて……このまま友達として付き合い続けていけるかしら私」
「十佳よ、失礼すぎるだろ。心と心が繋がっていれば、身分など関係ない」
「身分とかの話じゃないような気がしますけど……」
「湖乃佳まで そのような事を言うとは。水奈緒はどう思う? 」
「いや、ちょっと頭、おかしいよね」
「デフォルメされていて、尚且つ愛らしいつぶらな瞳、可愛くないか」
「全然デフォルメされてないし、目も含めてリアルで気持ち悪いんだけど……」
「お前達なんかに私の彼氏を紹介すべきでは無かった」
私はトンボと共に3人を置いて帰ることにした。
「待ちなさい。ちょっと気になってたんだけど、あんたそのトンボを肩に乗せてからお風呂入ってないでしょ」
「急にどうした十佳。お風呂に入っていないというか、服も着替えず生活しているし、潰さないように立ち寝してるが」
「そこまでするか? 」
「そりゃあ、彼氏なんだし」
「でも、そのトンボ既に乾燥して死んでね? 」
「し……」
恐ろしい言葉が十佳の口から発せられた「既に乾燥して死んでね?」……そんなはずがないじゃない。今も話しかければトンボは返事をしてくれる。
「トンボ、私のこと好きだよな」
『好きだよ、ガヤ』
「ほら見ろ。嘘は止めてもらいたいものだ」
「いい加減に現実逃避はやめなさい。ほら」
十佳は「ほら」と言うと左肩に居た私の彼氏を振り払った。
私の数日間の恋人生活が一瞬にして終わった。カスカスに乾燥した彼氏の姿に私は言葉を失った。例え人じゃなくても少しくらい恋人生活を満喫できて良かったよ。
その後、私はみんなと別れた後にお墓を作ってやろうと元彼の姿を確認しに戻った……屋上にも関わらず無残にもアリの群れに。苦笑している私のところに湖乃佳がやって来た。
「藤ヶ谷さん、彼氏なんてすぐに出来るよ」
「ああ、励ましてくれてありがとう」
私のことを心配してくれているのであろう湖乃佳だが、私の元彼を容赦なく踏みつけている光景が目に焼き付いたよ。悪気はない……そう信じたいものだ。
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