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第三章
第98話 巷で話題のアレと、伝説のアレ③
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「執行――【素戔嗚身叓】!」
執行するや否や、アリスの身体はサブロウと同様、装甲を纏い始める。
その姿はまさに影の如き漆黒。初めて邂逅した際の特撮スーツとは違い、余計な装甲のないシンプルで未来感溢れる出で立ちだった。
しかも既に『時限申請』済みという徹底ぶり。【廻天之理】によるアクセスコードの無効化対策は万全のようだ。
『へえ、凄いね……。僕なんかよりよっぽど『鴉羽の暗殺者』じゃないか』
「お褒めに預かり光栄です。ですが、私が欲しいのは代々受け継がれてきた、そちらのスーツなんです。擬い物じゃなくてね」
そう言いながらアリスは、サブロウの装甲を指差す。
『【素戔嗚身叓】だって充分過ぎるほどの力だ。それに英雄にとって大事なのはスーツじゃなくて中身でしょ? 教科書の1ページ目に書いてあることだ』
「その点には同意しますが、こと『鴉羽の暗殺者』に関しては例外です。その姿がもう既に、一つの象徴となってしまっているのですから」
『……どうやっても諦める気はないと?』
「ええ。英雄とは、最後まで諦めない者のこと。ですから、その象徴を錆びつかせたままにするわけにはいかないんですよ」
最早このままでは水掛け論。となれば、ファンタジックな世界の住人として、やるべきことは一つだ。
『じゃあもう……好きにしたらいい』
「では、ここは鴉羽らしく――決闘といきましょう?」
ま、そうなるわな。
『いいよ、わかった。僕が負けたらコードごと継がせてあげる。約束するよ』
「感謝いたします。私が負けたら潔く身を引きましょう。誓います」
『そうかい……。今、言ったこと聞いたよね、『N』?』
ああ。聞いた。
「……なんです?」
『君、今言ったよね? 負けたら身を引くって』
「ええ、まあ……」
『残念ながら君はもう……既に何回か死んでいる』
「――ッ⁉ どういうことです……?」
アリスの顔色は仮面によって判別できないが、後退る身体は正直であった。
『アウト。察せてない時点で、もうダメだ。諦めてくれ』
踵を返し、月光差し込むバルコニーへ向かうサブロウ。だが当然、アリスは納得いってないようで……
「待って下さいっ! そんなの納得できません! せめて……せめて理由を……!」
それに対しサブロウは歩を止め、振り向かずにこう答える。
『君の負けた敗因は三つ。一つ、君が『鴉羽の暗殺者』の真の力を知らないから。相手の力が判明してないのに突っ込むなんて愚策中の愚策。それが伝説の暗殺者となれば尚更だ』
アリスはぐうの音も出ないのか、悔し気に俯いていく。
『二つ、僕の前で【素戔嗚身叓】を執行してしまったから。レベル5の魔術が使えること自体は素晴らしい。でも、相手は魔法を管理する代行者だ。どんな弱点があるのかなんてのはお見通し。使うなら僕が見てないところでするべきだったね』
「……ッ!」
『三つ、『鴉羽の暗殺者』の力がアクセスコードに紐づけられているから』
サブロウの雰囲気に呑まれた結果、アリスは「アクセスコードに……?」と当初のように小声でおどつく。
『そう。つまり、『鴉羽の暗殺者』の力は管理者権限ってことさ。権限と魔法では明確な差がある。天と地ほどのね。だから、やるだけ時間の無駄なんだよ。埋めるためには途方もない努力が必要だ』
「努力……それなら私だって……」
もはや反論は体を成しておらず、その声も今にも消え入りそう。
だが、サブロウはその声を汲み取る。彼女の下へと戻り、優しく肩に手を置いて。
『わかってる。でも、努力ってのは呪いみたいなもんだ。誰かに認めてもらって初めて価値が見出される』
「なら、この十年は……無駄だったということですね……」
『諦めるのかい?』
その言葉にアリスは「……え?」と、だらりと落としていた顔を上げる。
『『英雄』は諦めない者のことを言うんじゃなかったっけ?』
「でも……私は負けて……」
『目の前で大事な人が狙われても、君はそう言うのかい?』
「――っ⁉」
そこで漸くアリスは気付かされた……
『相手に言われたからやめるんじゃない。例え一人になっても立ち向かうのが『英雄』だ。大事なのがスーツじゃなく、中身だと分かってる君なら……理解できるよね?』
錆びついていたのが自分の方だったことに。
「……そうでしたね。私としたことが、とんだ醜態を晒してしまいました。訂正します。私は……諦めません! 嘗て助けていただいた、サブロウ様のような格好いい――『英雄』になりたいから!」
アリスは今一度、改めて『英雄』としての自覚を取り戻す。
『そうか。じゃあ……』
そんな彼女に対しサブロウは、両の肩を交互に軽く叩き――
『今日から君が――三代目『鴉羽の暗殺者』だ』
アリスを鴉羽に任命した。
執行するや否や、アリスの身体はサブロウと同様、装甲を纏い始める。
その姿はまさに影の如き漆黒。初めて邂逅した際の特撮スーツとは違い、余計な装甲のないシンプルで未来感溢れる出で立ちだった。
しかも既に『時限申請』済みという徹底ぶり。【廻天之理】によるアクセスコードの無効化対策は万全のようだ。
『へえ、凄いね……。僕なんかよりよっぽど『鴉羽の暗殺者』じゃないか』
「お褒めに預かり光栄です。ですが、私が欲しいのは代々受け継がれてきた、そちらのスーツなんです。擬い物じゃなくてね」
そう言いながらアリスは、サブロウの装甲を指差す。
『【素戔嗚身叓】だって充分過ぎるほどの力だ。それに英雄にとって大事なのはスーツじゃなくて中身でしょ? 教科書の1ページ目に書いてあることだ』
「その点には同意しますが、こと『鴉羽の暗殺者』に関しては例外です。その姿がもう既に、一つの象徴となってしまっているのですから」
『……どうやっても諦める気はないと?』
「ええ。英雄とは、最後まで諦めない者のこと。ですから、その象徴を錆びつかせたままにするわけにはいかないんですよ」
最早このままでは水掛け論。となれば、ファンタジックな世界の住人として、やるべきことは一つだ。
『じゃあもう……好きにしたらいい』
「では、ここは鴉羽らしく――決闘といきましょう?」
ま、そうなるわな。
『いいよ、わかった。僕が負けたらコードごと継がせてあげる。約束するよ』
「感謝いたします。私が負けたら潔く身を引きましょう。誓います」
『そうかい……。今、言ったこと聞いたよね、『N』?』
ああ。聞いた。
「……なんです?」
『君、今言ったよね? 負けたら身を引くって』
「ええ、まあ……」
『残念ながら君はもう……既に何回か死んでいる』
「――ッ⁉ どういうことです……?」
アリスの顔色は仮面によって判別できないが、後退る身体は正直であった。
『アウト。察せてない時点で、もうダメだ。諦めてくれ』
踵を返し、月光差し込むバルコニーへ向かうサブロウ。だが当然、アリスは納得いってないようで……
「待って下さいっ! そんなの納得できません! せめて……せめて理由を……!」
それに対しサブロウは歩を止め、振り向かずにこう答える。
『君の負けた敗因は三つ。一つ、君が『鴉羽の暗殺者』の真の力を知らないから。相手の力が判明してないのに突っ込むなんて愚策中の愚策。それが伝説の暗殺者となれば尚更だ』
アリスはぐうの音も出ないのか、悔し気に俯いていく。
『二つ、僕の前で【素戔嗚身叓】を執行してしまったから。レベル5の魔術が使えること自体は素晴らしい。でも、相手は魔法を管理する代行者だ。どんな弱点があるのかなんてのはお見通し。使うなら僕が見てないところでするべきだったね』
「……ッ!」
『三つ、『鴉羽の暗殺者』の力がアクセスコードに紐づけられているから』
サブロウの雰囲気に呑まれた結果、アリスは「アクセスコードに……?」と当初のように小声でおどつく。
『そう。つまり、『鴉羽の暗殺者』の力は管理者権限ってことさ。権限と魔法では明確な差がある。天と地ほどのね。だから、やるだけ時間の無駄なんだよ。埋めるためには途方もない努力が必要だ』
「努力……それなら私だって……」
もはや反論は体を成しておらず、その声も今にも消え入りそう。
だが、サブロウはその声を汲み取る。彼女の下へと戻り、優しく肩に手を置いて。
『わかってる。でも、努力ってのは呪いみたいなもんだ。誰かに認めてもらって初めて価値が見出される』
「なら、この十年は……無駄だったということですね……」
『諦めるのかい?』
その言葉にアリスは「……え?」と、だらりと落としていた顔を上げる。
『『英雄』は諦めない者のことを言うんじゃなかったっけ?』
「でも……私は負けて……」
『目の前で大事な人が狙われても、君はそう言うのかい?』
「――っ⁉」
そこで漸くアリスは気付かされた……
『相手に言われたからやめるんじゃない。例え一人になっても立ち向かうのが『英雄』だ。大事なのがスーツじゃなく、中身だと分かってる君なら……理解できるよね?』
錆びついていたのが自分の方だったことに。
「……そうでしたね。私としたことが、とんだ醜態を晒してしまいました。訂正します。私は……諦めません! 嘗て助けていただいた、サブロウ様のような格好いい――『英雄』になりたいから!」
アリスは今一度、改めて『英雄』としての自覚を取り戻す。
『そうか。じゃあ……』
そんな彼女に対しサブロウは、両の肩を交互に軽く叩き――
『今日から君が――三代目『鴉羽の暗殺者』だ』
アリスを鴉羽に任命した。
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