98 / 117
第三章
第97話 巷で話題のアレと、伝説のアレ②
しおりを挟む
『君だったのか、近所のヤスモトさんって……。でも、なんでヤスモト?』
まさかの展開に私はおろか、サブロウでさえも仮面越しに驚く。
「さあ? それに関しては私もよく分かりません。名前が勝手に独り歩きしているようです。ま、所詮噂ですからね。『近所のヤスモトさん』辺りが分相応なのでしょう」
まるで他人事のように肩を竦めてみせるアリス。そのリアルな感想がまた、本物っぽい。
『ふ~ん……それで? 近所のヤスモトさんである君は、『鴉羽の暗殺者』を引きずり出すために、どんな噂を流したのかな?』
「サブロウ様は隙の無いお方。崩すには外から攻めたてるのが得策と考え、リリス様の気に入りそうな情報を流させていただきました。例えば……奴隷がどうとかね?」
自慢げに語るアリスに対しサブロウは、『余計なことを……』と小言交じりに溜息を漏らす。
「その甲斐もあってかサブロウ様は大きく動かれました。運も味方し、結果的には裏代興業のブリッツ様との繋がりが露呈したというわけです」
『……その分だと、その後の行動も筒抜けってことかな?』
「ええ。予め『滑遁会』に流しておいたサブロウ様の情報も功を奏し、勇者様方と接触することになりましたよね? 後は説明しなくても、お判りいただけるかと」
『ああ。レベッカの前でチェンジコードしたのは、ちょっとやりすぎだったかな。ビスマルク家の騎士団長が手を引くってのはよっぽどのこと。もうその時点で認めてるようなもんだからね……僕が『鴉羽の暗殺者』であることを』
アリスは悦に浸ったまま小刻みに拍手してみせる。若干煽るかのように。
そんな彼女に対しても、サブロウは冷静に話を進めようとする。
『で? わざわざ引きずり出した君は、一体僕に……いや、『鴉羽の暗殺者』に何の用があるのかな?』
「言ったでしょう? あの時言えなかった、お礼が言いたいと」
『それだけかい? まだ、あるんじゃないの……やりたいことがさ?』
どうやらサブロウは彼女の目的に気付いている様子。
その察しの良さにアリスも、クスクスと笑みを零していた。
「お話しが早くて助かります。では、そろそろ本題と参りましょう……」
するとアリスは一転、真顔で手の平を差し出し、こう続ける。
「サブロウ様……『鴉羽の暗殺者』の力、私に譲っていただけませんか?」
なっ……なんだってええええええええ⁉
『うるさっ⁉』
「……うるさかったですか?」
『あぁ、君じゃなくて後ろの奴がね……。凄い驚いちゃっててさ』
「ふふっ……お可愛らしい」
……可愛いって言われちゃった。
『お前さ……ちょっと黙ってろよ』
「……やっぱり、うるさかったですか?」
『いやいや、違うって! 君じゃなくて『N』が――って何なんだよ、この無駄なやり取りは⁉ 君も一々、乗らなくていいから……』
「申し訳ありません、つい……。では、『鴉羽の暗殺者』の力は、頂けるということで宜しいですね?」
『いや、宜しくないでしょ。何、どさくさに紛れて掻っ攫おうとしてんの? っていうかさ……そもそも何で欲しいわけ? 要らないでしょ、こんな力?』
そのサブロウの言動はアリスの何かに触れたようで、大時化どころではない冷め切った真顔へと逆戻りさせてしまう。
「なら、頂いても問題ないのでは? もう必要ないのでしょう?」
『君は何……? ひょっとして『鴉羽の暗殺者』の力にでも魅せられちゃった口かい?』
「そんな安易な理由ではありません。それはサブロウ様ご自身が、よく存じているはずです。『鴉羽の暗殺者』の力なんて葬られた者以外、誰も見ていないのですから」
確かに。サブロウは情報が洩れぬよう、そこら辺は徹底してたからな。まあ、元々表立って動くような奴でもないし、助けてきたであろう者たちにも、当然力をひけらかしてはこなかった。
『じゃあ……なんで?』
流石にサブロウもその先は察せぬようで、恐る恐るアリスへと尋ねる。
「私はね、サブロウ様……本当に『鴉羽の暗殺者』様へお礼を言いたかったんですよ? 命を助けていただいた、あの格好良かった『英雄』にね」
『格好良かった』……その強調された台詞で、サブロウは漸く理解に至る。
『あぁ、そういうことね……。今の僕じゃ不釣り合いだと?』
「ええ。だから、私が代わりになって差し上げますよ。あの格好良かった『鴉羽の暗殺者』――その三代目にねッ!」
アリスはフッと愛想笑いを浮かべると、徐にその華奢な腕を掲げた。
まさかの展開に私はおろか、サブロウでさえも仮面越しに驚く。
「さあ? それに関しては私もよく分かりません。名前が勝手に独り歩きしているようです。ま、所詮噂ですからね。『近所のヤスモトさん』辺りが分相応なのでしょう」
まるで他人事のように肩を竦めてみせるアリス。そのリアルな感想がまた、本物っぽい。
『ふ~ん……それで? 近所のヤスモトさんである君は、『鴉羽の暗殺者』を引きずり出すために、どんな噂を流したのかな?』
「サブロウ様は隙の無いお方。崩すには外から攻めたてるのが得策と考え、リリス様の気に入りそうな情報を流させていただきました。例えば……奴隷がどうとかね?」
自慢げに語るアリスに対しサブロウは、『余計なことを……』と小言交じりに溜息を漏らす。
「その甲斐もあってかサブロウ様は大きく動かれました。運も味方し、結果的には裏代興業のブリッツ様との繋がりが露呈したというわけです」
『……その分だと、その後の行動も筒抜けってことかな?』
「ええ。予め『滑遁会』に流しておいたサブロウ様の情報も功を奏し、勇者様方と接触することになりましたよね? 後は説明しなくても、お判りいただけるかと」
『ああ。レベッカの前でチェンジコードしたのは、ちょっとやりすぎだったかな。ビスマルク家の騎士団長が手を引くってのはよっぽどのこと。もうその時点で認めてるようなもんだからね……僕が『鴉羽の暗殺者』であることを』
アリスは悦に浸ったまま小刻みに拍手してみせる。若干煽るかのように。
そんな彼女に対しても、サブロウは冷静に話を進めようとする。
『で? わざわざ引きずり出した君は、一体僕に……いや、『鴉羽の暗殺者』に何の用があるのかな?』
「言ったでしょう? あの時言えなかった、お礼が言いたいと」
『それだけかい? まだ、あるんじゃないの……やりたいことがさ?』
どうやらサブロウは彼女の目的に気付いている様子。
その察しの良さにアリスも、クスクスと笑みを零していた。
「お話しが早くて助かります。では、そろそろ本題と参りましょう……」
するとアリスは一転、真顔で手の平を差し出し、こう続ける。
「サブロウ様……『鴉羽の暗殺者』の力、私に譲っていただけませんか?」
なっ……なんだってええええええええ⁉
『うるさっ⁉』
「……うるさかったですか?」
『あぁ、君じゃなくて後ろの奴がね……。凄い驚いちゃっててさ』
「ふふっ……お可愛らしい」
……可愛いって言われちゃった。
『お前さ……ちょっと黙ってろよ』
「……やっぱり、うるさかったですか?」
『いやいや、違うって! 君じゃなくて『N』が――って何なんだよ、この無駄なやり取りは⁉ 君も一々、乗らなくていいから……』
「申し訳ありません、つい……。では、『鴉羽の暗殺者』の力は、頂けるということで宜しいですね?」
『いや、宜しくないでしょ。何、どさくさに紛れて掻っ攫おうとしてんの? っていうかさ……そもそも何で欲しいわけ? 要らないでしょ、こんな力?』
そのサブロウの言動はアリスの何かに触れたようで、大時化どころではない冷め切った真顔へと逆戻りさせてしまう。
「なら、頂いても問題ないのでは? もう必要ないのでしょう?」
『君は何……? ひょっとして『鴉羽の暗殺者』の力にでも魅せられちゃった口かい?』
「そんな安易な理由ではありません。それはサブロウ様ご自身が、よく存じているはずです。『鴉羽の暗殺者』の力なんて葬られた者以外、誰も見ていないのですから」
確かに。サブロウは情報が洩れぬよう、そこら辺は徹底してたからな。まあ、元々表立って動くような奴でもないし、助けてきたであろう者たちにも、当然力をひけらかしてはこなかった。
『じゃあ……なんで?』
流石にサブロウもその先は察せぬようで、恐る恐るアリスへと尋ねる。
「私はね、サブロウ様……本当に『鴉羽の暗殺者』様へお礼を言いたかったんですよ? 命を助けていただいた、あの格好良かった『英雄』にね」
『格好良かった』……その強調された台詞で、サブロウは漸く理解に至る。
『あぁ、そういうことね……。今の僕じゃ不釣り合いだと?』
「ええ。だから、私が代わりになって差し上げますよ。あの格好良かった『鴉羽の暗殺者』――その三代目にねッ!」
アリスはフッと愛想笑いを浮かべると、徐にその華奢な腕を掲げた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる