59 / 117
第二章
第58話 前作主人公おじさん、勇者の女の子に魔法を教える④
しおりを挟む
「エミィちゃん……。師匠、5って……?」
明芽は泣いて蹲るエミリアの背をさすりながら、神妙な面持ちでサブロウへと問う。それはまるで同じ高校を受験したら一人だけ落ちたみたいな……何かそんな感じの雰囲気だった。
「う~ん……言いにくいんだけど、レベル1の魔法でも最低、10の魔力保有量が必要になるんだよね。それが一桁ってことは詰まる所、魔法の才能がないってことかな?」
そのサブロウの無慈悲な一言は、エミリアのガラスのハートを砕くには充分だった。
エミリアは直ぐさま立ち上がり、この場から逃げるように出て行ってしまう。瞳から溢れ出る雫を宙に漂わせながら。
「エミィちゃんっ……⁉」
「エミィ様……!」
明芽とハルフリーダは追いかけんと直ぐに立ち上がるが、
「あぁ、いいよ。僕が行くから」
サブロウが手の平を構え、それを制止した。
明芽が「でも、エミィちゃんは――」と告げようとしたところで、サブロウがその言葉を遮る。
「君たちは何しに此処に来たんだい? 魔法の勉強だろ? だったら勉強してなさい。エミリアくんもきっと、君たちの邪魔をしたくなくて出て行ったんだと思う。なら尚更、滞らせちゃダメじゃないかな?」
ハルフリーダも「ですが……」と俯き、心配気に眉間に皺を寄せる。
「大丈夫さ。だって彼女は君たちの中で一番――」
そんな二人にサブロウは微笑み――嘘偽りのない事実を告げた。
◆
小川の流れるほとり……大きな岩場の上で一人、エミリアは黄昏ていた。
大自然の中、川のせせらぎに耳を澄ます……。マイナスイオンもバンバン出てて、物思いに耽るには打って付けの場所と言えよう。
「ハァ……何やってるんだろ、エミィ……」
美少女が溜息をつく姿だって絵になる光景。
そんな風情のあるこの場所に、全く絵にならないおじさんが参上する。
「いい場所だよね、ここ」
後方の木々から現れたサブロウに、エミリアは若干驚いたように振り返る。
「アンタ、何でここが……?」
「僕も一人になりたい時は、よくここに来るからね。ってまあ、いつも一人なんだけど……」
サブロウは自虐を交じえつつ、岩場へと飛び乗る。
視線を外すエミリアに「隣、いいかい?」と尋ねると、彼女は無言で頷いた。
「明芽たちは、どうしてる……?」
エミリアはばつが悪いのか視線を合わさず、そう問う。
「君の気持ちを汲んで勉強中さ。帰りを待ってるよ」
それを聞いたエミリアは落ち着いた様子を見せ、数拍おいたのち、重くなった口を開く。
「戻ったって意味ないでしょ……? エミィ、才能ないんだから……」
「無くても何とかなるさ。僕がそうだったしね」
エミリアは「アンタが……?」と得心のいかぬ面持ちで、再びサブロウへと視線を移す。
「うん。実は僕、明芽くんと同じで別の世界から来たんだ」
「え? じゃあ、アンタも転生者なの?」
「肩書き上はね。三十年位前だったかなぁ。その時の僕は言葉も分からなければ、知り合いもいなかったし、おまけに……才能もなかった」
エミリアは黙ったまま、サブロウを見つめている。
「でも、幸か不幸か拾ってくれた人が結構凄い人でね。その人たちに色々教えてもらったおかげで、今こうして君たちの師匠を請け負うことができてる。僕がここまでできたんだから、この世界の住人である君なら、もっとできるはずさ。なんたって僕より5も魔力保有量があるんだからね」
その瞳をサブロウは真っ直ぐに受け止め、笑みを浮かべながら見つめ返す。
「エミィに……できる……?」
「できるさ。確かに魔法の才は無いかもしれないけど、君はもっといいものを持ってる」
「……いいもの?」
サブロウはエミリアの混じり気のない目を指差し、先ほど明芽たちに告げた言葉を贈る。
「その目さ。相手の動きを見切り、仲間の策を瞬時に察せるその瞳力は、きっと君たち三人の財産になる。そう言った意味じゃ、三人の中で君が一番――才能があると思うよ?」
愛ある言葉にエミリアは自然と瞳を潤ませる。
しかし、すぐに気付き、悟られぬよう頬を染めながら顔を背けた。
「ふ、ふん……! エミィ、魔法の学校にも通ったことないからっ……友達できたことなかったし……誰からも認められたことなかったけどっ……アンタがそこまで言うならぁ……仕方ないからやってあげても……うぅ……いいでゃかりゃねぇぇ……!」
エミリアは嗚咽交じりで決意を新たにし、
「ああ。善処するよ」
そしてどうやら、この男の覚悟も漸く……決まったようだ。
明芽は泣いて蹲るエミリアの背をさすりながら、神妙な面持ちでサブロウへと問う。それはまるで同じ高校を受験したら一人だけ落ちたみたいな……何かそんな感じの雰囲気だった。
「う~ん……言いにくいんだけど、レベル1の魔法でも最低、10の魔力保有量が必要になるんだよね。それが一桁ってことは詰まる所、魔法の才能がないってことかな?」
そのサブロウの無慈悲な一言は、エミリアのガラスのハートを砕くには充分だった。
エミリアは直ぐさま立ち上がり、この場から逃げるように出て行ってしまう。瞳から溢れ出る雫を宙に漂わせながら。
「エミィちゃんっ……⁉」
「エミィ様……!」
明芽とハルフリーダは追いかけんと直ぐに立ち上がるが、
「あぁ、いいよ。僕が行くから」
サブロウが手の平を構え、それを制止した。
明芽が「でも、エミィちゃんは――」と告げようとしたところで、サブロウがその言葉を遮る。
「君たちは何しに此処に来たんだい? 魔法の勉強だろ? だったら勉強してなさい。エミリアくんもきっと、君たちの邪魔をしたくなくて出て行ったんだと思う。なら尚更、滞らせちゃダメじゃないかな?」
ハルフリーダも「ですが……」と俯き、心配気に眉間に皺を寄せる。
「大丈夫さ。だって彼女は君たちの中で一番――」
そんな二人にサブロウは微笑み――嘘偽りのない事実を告げた。
◆
小川の流れるほとり……大きな岩場の上で一人、エミリアは黄昏ていた。
大自然の中、川のせせらぎに耳を澄ます……。マイナスイオンもバンバン出てて、物思いに耽るには打って付けの場所と言えよう。
「ハァ……何やってるんだろ、エミィ……」
美少女が溜息をつく姿だって絵になる光景。
そんな風情のあるこの場所に、全く絵にならないおじさんが参上する。
「いい場所だよね、ここ」
後方の木々から現れたサブロウに、エミリアは若干驚いたように振り返る。
「アンタ、何でここが……?」
「僕も一人になりたい時は、よくここに来るからね。ってまあ、いつも一人なんだけど……」
サブロウは自虐を交じえつつ、岩場へと飛び乗る。
視線を外すエミリアに「隣、いいかい?」と尋ねると、彼女は無言で頷いた。
「明芽たちは、どうしてる……?」
エミリアはばつが悪いのか視線を合わさず、そう問う。
「君の気持ちを汲んで勉強中さ。帰りを待ってるよ」
それを聞いたエミリアは落ち着いた様子を見せ、数拍おいたのち、重くなった口を開く。
「戻ったって意味ないでしょ……? エミィ、才能ないんだから……」
「無くても何とかなるさ。僕がそうだったしね」
エミリアは「アンタが……?」と得心のいかぬ面持ちで、再びサブロウへと視線を移す。
「うん。実は僕、明芽くんと同じで別の世界から来たんだ」
「え? じゃあ、アンタも転生者なの?」
「肩書き上はね。三十年位前だったかなぁ。その時の僕は言葉も分からなければ、知り合いもいなかったし、おまけに……才能もなかった」
エミリアは黙ったまま、サブロウを見つめている。
「でも、幸か不幸か拾ってくれた人が結構凄い人でね。その人たちに色々教えてもらったおかげで、今こうして君たちの師匠を請け負うことができてる。僕がここまでできたんだから、この世界の住人である君なら、もっとできるはずさ。なんたって僕より5も魔力保有量があるんだからね」
その瞳をサブロウは真っ直ぐに受け止め、笑みを浮かべながら見つめ返す。
「エミィに……できる……?」
「できるさ。確かに魔法の才は無いかもしれないけど、君はもっといいものを持ってる」
「……いいもの?」
サブロウはエミリアの混じり気のない目を指差し、先ほど明芽たちに告げた言葉を贈る。
「その目さ。相手の動きを見切り、仲間の策を瞬時に察せるその瞳力は、きっと君たち三人の財産になる。そう言った意味じゃ、三人の中で君が一番――才能があると思うよ?」
愛ある言葉にエミリアは自然と瞳を潤ませる。
しかし、すぐに気付き、悟られぬよう頬を染めながら顔を背けた。
「ふ、ふん……! エミィ、魔法の学校にも通ったことないからっ……友達できたことなかったし……誰からも認められたことなかったけどっ……アンタがそこまで言うならぁ……仕方ないからやってあげても……うぅ……いいでゃかりゃねぇぇ……!」
エミリアは嗚咽交じりで決意を新たにし、
「ああ。善処するよ」
そしてどうやら、この男の覚悟も漸く……決まったようだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
大根王子 ~Wizard royal family~
外道 はぐれメタル
ファンタジー
世界で唯一、女神から魔法を授かり繁栄してきた王家の一族ファルブル家。その十六代目の長男アルベルトが授かった魔法はなんと大根を刃に変える能力だった!
「これはただ剣を作るだけの魔法じゃない……!」
大根魔法の無限の可能性に気付いたアルベルトは大根の桂剥きを手にし、最強の魔法剣士として国家を揺るがす悪党達と激突する!
大根、ぬいぐるみ、味変……。今、魔法使いの一族による長い戦いが始まる。
ウェブトーン原作シナリオ大賞最終選考作品
【完結】異世界に召喚されて勇者だと思ったのに【改訂版】
七地潮
ファンタジー
インターハイで敗退し、その帰宅途中、
「異世界に行って無双とかしてみたいよ」
などと考えながら帰宅しようとしたところ、トラックに跳ねられ本当に異世界へ召喚される。
勇者か?と思ったのに、魔王になってくれだと?
王様に頼まれ、顕現して間もない子供女神様に泣き落とされ、魔族を統べる魔王になる事に。
残念女神が作った残念世界で、何度も何度も凹みながら、何とかやって行ってる、男子高校生の異世界残念ファンタジー。
**********
この作品は、2018年に小説家になろうさんでアップしたお話を、加筆修正したものです。
それまで二次制作しかした事なかった作者の、初めてのオリジナル作品で、ノリと勢いだけで書き上げた物です。
拙すぎて、辻褄の合わないことや、説明不足が多く、今回沢山修正したり、書き足したりしていますけど、修正しても分かりづらいところや、なんか変、ってところもあるでしょうが、生暖かい目で見逃してやってください。
ご都合主義のゆるふわ設定です。
誤字脱字は気をつけて推敲していますが、出てくると思います。すみません。
毎日0時に一話ずつアップしていきますので、宜しくお願いします。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妖精の園
華周夏
ファンタジー
私はおばあちゃんと二人暮らし。金色の髪はこの世には、存在しない色。私の、髪の色。みんな邪悪だという。でも私には内緒の唄が歌える。植物に唄う大地の唄。花と会話したりもする。でも、私にはおばあちゃんだけ。お母さんもお父さんもいない。おばあちゃんがいなくなったら、私はどうしたらいいの?だから私は迷いの森を行く。お伽噺の中のおばあちゃんが語った妖精の国を目指して。
少しだけHなところも。。
ドキドキ度数は『*』マークで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる