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第一章

第31話 ねえ、サブ……? 来るの遅くない? 妾より、その女の方がいいの? ……もういい! 妾もう知らない! サブなんかもう知らない!

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 もはや拒み始めているサブタイの気など露知らず、吸い込まれたお二人さんは、これまた巨大な昇華サブリメーションから、乱雑に排出なされた。

「――ぶへぇあッ⁉」

 リリスは相変わらず転移に慣れてない所為か、再び顔面から大地へと熱い接吻をかます。

「よっと……」

 対するサブロウは当然慣れているため、以下省略。

「おいおい、大丈夫かい?」
「イテテテテ……私のカワユイお顔が……」

 心配気にかがむサブロウを余所に、リリスは顔をくしくしさせながら、己の置かれている状況を確認する為と視線を巡らす。
 左右には真っ直ぐと伸びる廊下が永遠に続き、奥まで解き放たれた暗闇は、その先の光景を決して映し出すことはなかった。

 眼前には漆黒の扉がボス部屋の如き様相で待ち構えており、扉枠の両サイドに飾られている蠟燭が金色の装飾を淡く輝かせていた。

「大丈夫そうなら、そろそろ行くよ。がお待ちだろうからさ?」
「師匠? サブロウくん、師匠なんていたの?」

 座り込んでいたリリスは頬を労わるようにマッサージし、サブロウの隣に並び立つ。

「そりゃあ、居るさ。この世界で生きてこれたのも半分その人のおかげ。生きていくための知識を授けてくれた僕の育ての親――『ソフィア師匠』さ」
「育ての親か……なんか結婚する為の挨拶しに来たみたいで、ちょっと緊張するわね」

 神妙な顔を見せるリリスに、要らぬ心配だと目配せするサブロウ。
 一通り説明も終わったので、サブロウは扉の取っ手を掴み、久方ぶりの再会の為と手前に引く。

 これまでヴェールに包まれていたサブロウの正体。遂にその謎の一端が今! 明かされ――

 ガタッ……ガタッガタッ……!

「あれ……」

 ガタッガタッ……ガタッガタッガタッ……!

 ――ようとしていたのだが……扉は施錠されており、御開帳の兆しを見せない。

「どうしたのサブロウくん? 開かないの?」
「うん。どうやらこれは……不貞腐れちゃったみたいだね」

 サブロウは苦笑いを浮かべつつ、取っ手から手を離す。

「何を不貞腐れることがあるのよ? サブロウくんの師匠なんでしょ?」
「そうなんだけど……やっぱり君を連れてくるべきじゃなかったかなぁ……」
「何よ? 私が結婚相手じゃ不服ってわけ⁉」
「いや、そもそも結婚の挨拶じゃないから! 何でちょっと乗り気なんだよ!」

 ってなわけで、サブタイからもお察しの通り、サブロウの師匠はせっかくの初登場にも関わらず、お拗ねになられてしまった。
 その証拠にサブロウとリリスが幾らノックで呼びかけようとも、

『マスター! もうサブロウ様が来ていらっしゃいます! 早くお返事を!』

 だの、

『嫌じゃ! 妾はもうサブとは会わん! えへぇぇえええんん‼ 妾の可愛いサブロウは何処に行ったんじゃぁああぁぁあ⁉』
『だからもう来てるんですって! いい年して泣かないでください!』

 などなど、扉越しから何とも気まずいやり取りが聞こえ、幾度かその問答が繰り返されたのち――

「というわけで、サブロウ様。我がマスターは諸事情により面会できませんゆえ、僭越ながらわたくし、メイド一号が代わりを務めさせていただきます……」

 ワンサイドショートボブの黒髪が似合う、クラシカルなメイド服を身に纏った褐色のメイドさんが、随分とお疲れなご様子で登場なさった。

「いや、ここまで引っ張っといて結局出ないんかぁあああいっ⁉」

 ――1カメ。

「出ないんかぁあああいっ⁉」

 ――2カメ。

「出ないんかぁあああいっ⁉」

 ――3カメ。

 リリスによる『キレのあるツッコミ3カメver.』が決まったところで、本題であるお話は次回へと持ち越し。
 せっかく積み上げてきた主人公っぽい雰囲気は結局台無しとなったので、いつものようなふわふわした感じと、ご覧のスポンサーの提供でお送りしていきます。

 各スポンサー様方のご紹介――

 隣の芝生を更地に! ――青井水栓のヨッシャアオラァッ。

 いつも貴方のお傍で極上の噂をご紹介! ――ヤスモト興業。

 地域でお困りの雑草やドブ掃除、承ります! ――魔王軍代行稼業有限会社。

「碌なスポンサーいないな……」
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