16 / 117
序章
第15話 お姫様が悪漢から逃げてるらしいけど、そもそもそんな都合よく出会わない⑤
しおりを挟む
「006……七つある議席の一つか……。ふっ……長生きするもんじゃわい……」
死の間際に出会えた代行者に、ベルベットは微かな笑みを浮かべる。まあ、別に弟子たちは死んでないんだけれども。
さあ、そんなことを言っている間に執行の時間だ。
「執行――【ラトビルスの空】」
サブロウは構えていた掌を返し、転輪する金文字を一気に開放。
辺り一面に広がる金の波動は、瞬く間にベルベットを空へと打ち上げた。
「………………」
サブロウは暫し空を見上げ、何処かに思いを馳せる。
久方ぶりに師匠にでも会いたくなったのかな?
「ねえ、サブロウくん。あの、おじいちゃんたちって……死んだの?」
傍観を決め込んでいたリリスはサブロウの後方から、そう問いかける。
「いや、死んじゃいないよ。遥か上空で停滞中さ。格好から察するに王宮魔術師だろうし、あの師匠が居ればきっと助かると思うよ?」
「ハァ……また無駄なことを……。そういう慈悲は、目の前でお姫様を助けた時にやるものよ。そうすれば好感度だって上がるのに……」
呆れた声色と共に視線を逸らすリリス。
それに対しサブロウは、いつも通りの流れと振り返り、笑みを零す。
「結果的には助かったんだ。間接的で結構さ」
「お人好しねぇ。そこにもう少し向上心が加われば、立派な主人公になれるんだけど?」
「そっちの方も結構さ。主人公ってのは言わばヒーローだからね。ヒーローに休みはないし、大いなる力にはどうたらこうたらと大変なことばかりだ。僕には荷が重いよ」
サブロウはリリスの肩をポンと叩くと、一仕事終えたと言わんばかりに首を回しながら、我が家へと戻っていった。
「ハァ……先が思いやられるわね……」
リリスは溜息と共に頭を振る。
肩は重石を乗せられたかの如き見事な落ちっぷりで、とぼとぼと去っていく背中には、『どんより』という文字が張りついていた。
今回の話は、これでお終い。
結局お姫様と偶然出会って、そこからロマンスに発展するなんていう展開は、サブロウには無いのである。
因みにお姫様がどうなったかと言うと……
◆
後日――
「ちょっとサブロウくん! 起きなさいよ、サブロウくん!」
ベッドでスヤスヤ寝ていたサブロウは、リリスのラブコールによって開眼する。
「なんだよ……こんな早くからぁ……。もう少し寝させてよ……」
カーテンの隙間から差し込む朝日。そう、今は早朝である。
だから、こんな対応になるのも仕方のないこと。背を向けて再び目を閉じてしまうのも致し方ない。
「こら! 寝るんじゃないわよ! 私が直々にさすってあげてるんだから早くおっきしなさいよ! おっきおっき!」
「おい……それ以上、下品な口を開くな……。引き千切るぞ……何かを」
わりかしキレ気味のサブロウはリリスをギロリと睨む。
「寝起き悪いわねぇ、サブロウくん。そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうわよ?」
――ブチっ!
「サブロウは思った……『ほんまこの女、いてこましたろうかなぁ』と。だが、サブロウは言わなかった。女の子相手にそんなこと言っちゃあ、男が廃るどころか人間として最低だからだ。だから、蓋をした。まさに布団を被るように……その卑劣な想いを」
「あの……聞こえてるんですけど? 全部、筒抜けなんですけど? 通気性抜群じゃない、その布団……」
リリスのドン引きで漸く静かになる寝室。
サブロウは仕方なしにと、布団からひょっこり顔を出す。
「……で? 何の用?」
「あ、あぁ……お姫様の件よ。サブロウくん、知ってる?」
「知らないし、興味もない」
「だと思った。実はお姫様が逃げてたこの森に、何故かは知らないけど、あの新人勇者ちゃんが来てたらしいのよ! そしたら偶然出会っちゃったとか何とかで? 匿ったら街中大騒ぎ! 『勇者が姫様を救ったぞー!』って崇められてるのよ⁉ ひどいと思わない⁉」
ヒートアップするリリスにサブロウは溜息をつき、此方に向かって指でバツ印を送ってくる。
どうやら、これ以上の後日談には興味が無いらしい。なので、この辺りで締めさせていただこう。
という訳で今回も結局、サブロウは主人公になれず。
死の間際に出会えた代行者に、ベルベットは微かな笑みを浮かべる。まあ、別に弟子たちは死んでないんだけれども。
さあ、そんなことを言っている間に執行の時間だ。
「執行――【ラトビルスの空】」
サブロウは構えていた掌を返し、転輪する金文字を一気に開放。
辺り一面に広がる金の波動は、瞬く間にベルベットを空へと打ち上げた。
「………………」
サブロウは暫し空を見上げ、何処かに思いを馳せる。
久方ぶりに師匠にでも会いたくなったのかな?
「ねえ、サブロウくん。あの、おじいちゃんたちって……死んだの?」
傍観を決め込んでいたリリスはサブロウの後方から、そう問いかける。
「いや、死んじゃいないよ。遥か上空で停滞中さ。格好から察するに王宮魔術師だろうし、あの師匠が居ればきっと助かると思うよ?」
「ハァ……また無駄なことを……。そういう慈悲は、目の前でお姫様を助けた時にやるものよ。そうすれば好感度だって上がるのに……」
呆れた声色と共に視線を逸らすリリス。
それに対しサブロウは、いつも通りの流れと振り返り、笑みを零す。
「結果的には助かったんだ。間接的で結構さ」
「お人好しねぇ。そこにもう少し向上心が加われば、立派な主人公になれるんだけど?」
「そっちの方も結構さ。主人公ってのは言わばヒーローだからね。ヒーローに休みはないし、大いなる力にはどうたらこうたらと大変なことばかりだ。僕には荷が重いよ」
サブロウはリリスの肩をポンと叩くと、一仕事終えたと言わんばかりに首を回しながら、我が家へと戻っていった。
「ハァ……先が思いやられるわね……」
リリスは溜息と共に頭を振る。
肩は重石を乗せられたかの如き見事な落ちっぷりで、とぼとぼと去っていく背中には、『どんより』という文字が張りついていた。
今回の話は、これでお終い。
結局お姫様と偶然出会って、そこからロマンスに発展するなんていう展開は、サブロウには無いのである。
因みにお姫様がどうなったかと言うと……
◆
後日――
「ちょっとサブロウくん! 起きなさいよ、サブロウくん!」
ベッドでスヤスヤ寝ていたサブロウは、リリスのラブコールによって開眼する。
「なんだよ……こんな早くからぁ……。もう少し寝させてよ……」
カーテンの隙間から差し込む朝日。そう、今は早朝である。
だから、こんな対応になるのも仕方のないこと。背を向けて再び目を閉じてしまうのも致し方ない。
「こら! 寝るんじゃないわよ! 私が直々にさすってあげてるんだから早くおっきしなさいよ! おっきおっき!」
「おい……それ以上、下品な口を開くな……。引き千切るぞ……何かを」
わりかしキレ気味のサブロウはリリスをギロリと睨む。
「寝起き悪いわねぇ、サブロウくん。そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうわよ?」
――ブチっ!
「サブロウは思った……『ほんまこの女、いてこましたろうかなぁ』と。だが、サブロウは言わなかった。女の子相手にそんなこと言っちゃあ、男が廃るどころか人間として最低だからだ。だから、蓋をした。まさに布団を被るように……その卑劣な想いを」
「あの……聞こえてるんですけど? 全部、筒抜けなんですけど? 通気性抜群じゃない、その布団……」
リリスのドン引きで漸く静かになる寝室。
サブロウは仕方なしにと、布団からひょっこり顔を出す。
「……で? 何の用?」
「あ、あぁ……お姫様の件よ。サブロウくん、知ってる?」
「知らないし、興味もない」
「だと思った。実はお姫様が逃げてたこの森に、何故かは知らないけど、あの新人勇者ちゃんが来てたらしいのよ! そしたら偶然出会っちゃったとか何とかで? 匿ったら街中大騒ぎ! 『勇者が姫様を救ったぞー!』って崇められてるのよ⁉ ひどいと思わない⁉」
ヒートアップするリリスにサブロウは溜息をつき、此方に向かって指でバツ印を送ってくる。
どうやら、これ以上の後日談には興味が無いらしい。なので、この辺りで締めさせていただこう。
という訳で今回も結局、サブロウは主人公になれず。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
大根王子 ~Wizard royal family~
外道 はぐれメタル
ファンタジー
世界で唯一、女神から魔法を授かり繁栄してきた王家の一族ファルブル家。その十六代目の長男アルベルトが授かった魔法はなんと大根を刃に変える能力だった!
「これはただ剣を作るだけの魔法じゃない……!」
大根魔法の無限の可能性に気付いたアルベルトは大根の桂剥きを手にし、最強の魔法剣士として国家を揺るがす悪党達と激突する!
大根、ぬいぐるみ、味変……。今、魔法使いの一族による長い戦いが始まる。
ウェブトーン原作シナリオ大賞最終選考作品
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
【完結】異世界に召喚されて勇者だと思ったのに【改訂版】
七地潮
ファンタジー
インターハイで敗退し、その帰宅途中、
「異世界に行って無双とかしてみたいよ」
などと考えながら帰宅しようとしたところ、トラックに跳ねられ本当に異世界へ召喚される。
勇者か?と思ったのに、魔王になってくれだと?
王様に頼まれ、顕現して間もない子供女神様に泣き落とされ、魔族を統べる魔王になる事に。
残念女神が作った残念世界で、何度も何度も凹みながら、何とかやって行ってる、男子高校生の異世界残念ファンタジー。
**********
この作品は、2018年に小説家になろうさんでアップしたお話を、加筆修正したものです。
それまで二次制作しかした事なかった作者の、初めてのオリジナル作品で、ノリと勢いだけで書き上げた物です。
拙すぎて、辻褄の合わないことや、説明不足が多く、今回沢山修正したり、書き足したりしていますけど、修正しても分かりづらいところや、なんか変、ってところもあるでしょうが、生暖かい目で見逃してやってください。
ご都合主義のゆるふわ設定です。
誤字脱字は気をつけて推敲していますが、出てくると思います。すみません。
毎日0時に一話ずつアップしていきますので、宜しくお願いします。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる