11 / 117
序章
第10話 おじさんよりも女の子同士の話がいい④
しおりを挟む
「大丈夫だよ。私たちはずっと友達……。これからもずっと」
「レッド……」
エミリアは目を閉じ、その温もりに浸るように抱きしめ返す。
「明芽って呼んで? レッドはリングネームだから」
「明芽……。じゃあ、エミィのこともエミィって呼んで? もしくはお嫁さん」
「うん……。それはちょっと飛躍し過ぎかな」
二人の抱きしめ合う姿に、男たちは再び涙を流す。
本来ならスタンディングオベーションする程の尊さだったが、この二人の空間を邪魔するわけにはいかぬと皆一様に口元を押えていた。まさにプロの所業だった。
代わりに受付のお姉さんが、皆の想いを背負って拍手を送る。
「素晴らしいです、お二人とも。その尊さを表し、今回のアカウント登録の件、無料にさせていただきます」
「あ、お金取るつもりだったんですね……」
エミリアから離れたレッドは、どこぞのおかっぱ少女ばりの黒い線を、おでこに宿していた。
「お手間を取らせた代わりと言っては何ですが、私から一人、魔法のスペシャリストを推薦したく思います」
「スペシャリスト⁉ 誰なんですか、それって?」
スペシャリストという単語に惹かれ、レッドは目をらんらんに輝かせる。かなり、向上心のある子のようだ。
「その方はサブロウ様というお名前で、この街から南東の方角にある鬱蒼とした森の中に、一人でお住みになっているとか。たまに自家栽培したものをお売りに来たり、滑遁会の任務を請け負ってくれたりする正体不明のおじさまですが、その強さは折り紙付き……と、近所のヤスモトさんが言っておりました」
「へえ~、凄い人なんですね~。じゃあ、早速行ってみようかな! 教えてくれてありがとうございます、受付のお姉さん!」
ぺこりと頭を下げる腰の低いレッドは、思い立ったが吉日を地で行くかの如く、「行こう! エミィちゃん!」とエミリアの手を握る。
「え、ちょっ――今から⁉」
対するエミリアはさらりとした感触に頬を染め、どぎまぎしつつも何処か嬉し気に引っ張られていく。
「そう! 今から魔法を教わりに! それで一緒に任務を受けて達成しよ!」
太陽のように輝くレッドの笑顔に、エミリアの鼓動は原子のドラム並みに高鳴る。
刻むビートは走っているからではなく、レッドに……いや、これ以上言うのは野暮ってなものだろう。
「……うん! 一緒に行くわ! エミィの方が、たくさん魔法覚えちゃうんだから!」
笑みを交わし合う二人は肩を並べ、穏やかに笑う男客たちに見守られながら、滑遁会を後にした。
一転して静けさに包まれた滑遁会。
男たちはここぞとばかりに感想戦を始める。
「はぁぁ……百合の波動で危うく逝きかけたよ……」
「ああ……寧ろもう逝ってると言っても過言じゃない。天国のような時間だったからね」
「確かにな。でも、あの子たちの為なら……俺ぁ、命張れる気がするんだよ」
「ふっ、俺もさ」
「私も」
「ワシも」
「おいらも」
「うぬも」
「自分も」
「ワイも」
「朕も」
「某も」
「バーティカル・スペニッシュ・ゼフェグラフィティも」
――おっと、この辺りで割愛させていただく。ここから数十人体制で行われた『俺も』合戦を、全てお届けするわけにもいかないのでね。
という訳で、締めの一言は……受付のお姉さんだ。
「ふぅ……今日も滑遁会は平和ですね~」
「レッド……」
エミリアは目を閉じ、その温もりに浸るように抱きしめ返す。
「明芽って呼んで? レッドはリングネームだから」
「明芽……。じゃあ、エミィのこともエミィって呼んで? もしくはお嫁さん」
「うん……。それはちょっと飛躍し過ぎかな」
二人の抱きしめ合う姿に、男たちは再び涙を流す。
本来ならスタンディングオベーションする程の尊さだったが、この二人の空間を邪魔するわけにはいかぬと皆一様に口元を押えていた。まさにプロの所業だった。
代わりに受付のお姉さんが、皆の想いを背負って拍手を送る。
「素晴らしいです、お二人とも。その尊さを表し、今回のアカウント登録の件、無料にさせていただきます」
「あ、お金取るつもりだったんですね……」
エミリアから離れたレッドは、どこぞのおかっぱ少女ばりの黒い線を、おでこに宿していた。
「お手間を取らせた代わりと言っては何ですが、私から一人、魔法のスペシャリストを推薦したく思います」
「スペシャリスト⁉ 誰なんですか、それって?」
スペシャリストという単語に惹かれ、レッドは目をらんらんに輝かせる。かなり、向上心のある子のようだ。
「その方はサブロウ様というお名前で、この街から南東の方角にある鬱蒼とした森の中に、一人でお住みになっているとか。たまに自家栽培したものをお売りに来たり、滑遁会の任務を請け負ってくれたりする正体不明のおじさまですが、その強さは折り紙付き……と、近所のヤスモトさんが言っておりました」
「へえ~、凄い人なんですね~。じゃあ、早速行ってみようかな! 教えてくれてありがとうございます、受付のお姉さん!」
ぺこりと頭を下げる腰の低いレッドは、思い立ったが吉日を地で行くかの如く、「行こう! エミィちゃん!」とエミリアの手を握る。
「え、ちょっ――今から⁉」
対するエミリアはさらりとした感触に頬を染め、どぎまぎしつつも何処か嬉し気に引っ張られていく。
「そう! 今から魔法を教わりに! それで一緒に任務を受けて達成しよ!」
太陽のように輝くレッドの笑顔に、エミリアの鼓動は原子のドラム並みに高鳴る。
刻むビートは走っているからではなく、レッドに……いや、これ以上言うのは野暮ってなものだろう。
「……うん! 一緒に行くわ! エミィの方が、たくさん魔法覚えちゃうんだから!」
笑みを交わし合う二人は肩を並べ、穏やかに笑う男客たちに見守られながら、滑遁会を後にした。
一転して静けさに包まれた滑遁会。
男たちはここぞとばかりに感想戦を始める。
「はぁぁ……百合の波動で危うく逝きかけたよ……」
「ああ……寧ろもう逝ってると言っても過言じゃない。天国のような時間だったからね」
「確かにな。でも、あの子たちの為なら……俺ぁ、命張れる気がするんだよ」
「ふっ、俺もさ」
「私も」
「ワシも」
「おいらも」
「うぬも」
「自分も」
「ワイも」
「朕も」
「某も」
「バーティカル・スペニッシュ・ゼフェグラフィティも」
――おっと、この辺りで割愛させていただく。ここから数十人体制で行われた『俺も』合戦を、全てお届けするわけにもいかないのでね。
という訳で、締めの一言は……受付のお姉さんだ。
「ふぅ……今日も滑遁会は平和ですね~」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界はモフモフチートでモフモフパラダイス!
マイきぃ
ファンタジー
池波柔人は中学2年生。14歳の誕生日を迎える直前に交通事故に遭遇し、モフモフだらけの異世界へと転生してしまった。柔人は転生先で【モフった相手の能力を手に入れることのできる】特殊能力を手に入れた。柔人は、この能力を使ってモフモフハーレムを作ることができるのだろうか!
※主人公が突然モヒカンにされたり(一時的)、毛を刈られる表現があります。苦手な方はご注意ください。
モフモフな時に更新します。(更新不定期)
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
カバーイラストのキャラクターは
萌えキャラアバター作成サービス「きゃらふと」で作成しています。
きゃらふとhttp://charaft.com/
背景 つくx2工房
多重投稿有
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
大根王子 ~Wizard royal family~
外道 はぐれメタル
ファンタジー
世界で唯一、女神から魔法を授かり繁栄してきた王家の一族ファルブル家。その十六代目の長男アルベルトが授かった魔法はなんと大根を刃に変える能力だった!
「これはただ剣を作るだけの魔法じゃない……!」
大根魔法の無限の可能性に気付いたアルベルトは大根の桂剥きを手にし、最強の魔法剣士として国家を揺るがす悪党達と激突する!
大根、ぬいぐるみ、味変……。今、魔法使いの一族による長い戦いが始まる。
ウェブトーン原作シナリオ大賞最終選考作品
【完結】異世界に召喚されて勇者だと思ったのに【改訂版】
七地潮
ファンタジー
インターハイで敗退し、その帰宅途中、
「異世界に行って無双とかしてみたいよ」
などと考えながら帰宅しようとしたところ、トラックに跳ねられ本当に異世界へ召喚される。
勇者か?と思ったのに、魔王になってくれだと?
王様に頼まれ、顕現して間もない子供女神様に泣き落とされ、魔族を統べる魔王になる事に。
残念女神が作った残念世界で、何度も何度も凹みながら、何とかやって行ってる、男子高校生の異世界残念ファンタジー。
**********
この作品は、2018年に小説家になろうさんでアップしたお話を、加筆修正したものです。
それまで二次制作しかした事なかった作者の、初めてのオリジナル作品で、ノリと勢いだけで書き上げた物です。
拙すぎて、辻褄の合わないことや、説明不足が多く、今回沢山修正したり、書き足したりしていますけど、修正しても分かりづらいところや、なんか変、ってところもあるでしょうが、生暖かい目で見逃してやってください。
ご都合主義のゆるふわ設定です。
誤字脱字は気をつけて推敲していますが、出てくると思います。すみません。
毎日0時に一話ずつアップしていきますので、宜しくお願いします。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる