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序章
第7話 おじさんよりも女の子同士の話がいい①
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セイターンの街、中央街――
先日、魔王軍が攻め込んできたこの場所は、早くも勇者レッドの銅像が立てられるほどのフットワークの軽い街である。
そんなこともあってか、街は連日お祭り騒ぎ。
勇者フィーバーも相まって、そこらかしこで男女が盛りあっていた。
歩けども歩けども淫靡な光景を前に、両手で顔を隠すは勇者レッドの姿。
なんちゃって魔王軍を撃退した少女は耳まで真っ赤にしながら、任務斡旋場である『滑遁会』の扉に頭をぶつけつつ、そそくさと中へ入っていく。
「う~、緊張したぁ~。あんなの初めて見たよぉ~……。街のみんな、アグレッシブだなぁ……」
レッドはこの手の話に疎いのか、火照った顔を手でパタパタ仰ぎつつ、男客が酒を飲み交わす光景を横目に、奥にあるバーカウンターを目指す。
「お? これはこれは、今を時めく勇者のレッドちゃんじゃないか。任務受付なら右奥のカウンターだよ?」
カウンターの下からひょっこり顔を出したのは、この酒場エリアを任されている小太りのマスター。
人の好さそうな雰囲気が内から溢れ出す柔和なおじさんは、蓄えた口髭に触れながら右奥の方へと指を差している。
「あ、マスターさん。こんにちはです。今日は任務を受けに来たわけじゃ……」
「あぁ、そうだったそうだった。魔王軍を退けたっつって、街から報奨金が出てるんだっけ? そりゃあ、暫く任務受ける必要もねえわな!」
気風よく笑うマスターに、レッドも「……恐縮です」とにへら顔で返す。
「じゃあ、今日は何かい? 酒でも飲みにきたのかい? つってもレッドちゃんは、まだ十七歳だろ? さすがに勇者の肩書があっても、酒の提供はできないぜ?」
「いやいや、違いますって~。ほら、私この世界に来て日が浅いじゃないですか? お恥ずかしながら魔法についてはからっきしで……。だから、余裕があるうちに魔法を学びたいんです。誰か詳しい人を知りませんか?」
「ほう……レッドちゃんは真面目だね~。しかし、詳しい奴か。となると……」
マスターが顎髭に触れながら、脳内の連絡先をスクロールしていると……
「ふん! まさか魔王軍を退けた勇者が、エミィと同い年の女の子だったなんてね!」
腕を組むその姿は、まさしく威張り暴娘。赤髪ツインテールの目が吊り上がった少女がリングインだ。
「えっと、あなたは……?」
「私の名はエミリア! この街で魔法を知りたいのなら、エミィに聞くといいわ! 別に友達が欲しいから、こんなこと言ってるんじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」
へそ出しルックのショートパンツガールは、猫の手足を模ったグローブを身に着けつつ、ちょこんと出た指でビシッとレッドを差す。
「相変わらず目敏いなエミリア。でも、友達が欲しいなら欲しいって素直に言った方がいいぞ?」
「うるさいわね! 違うって言ってるでしょ! エミィは目がいいから、ちょっと目についちゃっただけ! でも、どうしてもって言うなら……もう少し抑えめでいってあげなくもないんだからね……」
マスターからの指摘に徐々にペースダウンするエミリア。
見ての通りこの少女、まるでツンデレを使いこなせていないのである。
「じゃあ、友達になろうよ! 私も同年代の女の子が居れば心強いしさ!」
そんな落ち込むエミリアを見かね、レッドは覗き込むように微笑みかける。
この子はいい子だ。もう、こっちが主人公でいいんじゃないかな。
「え、いいの……? ふ……ふん! まあ、そこまで言うなら友達になってあげなくもないんだから! 勘違いしないでよね! でも、どうしてもって言うなら、今夜うちに来るといいわ! お泊り会をセッティングしてあげるから!」
「悪いね、レッドちゃん。見ての通りエミリアは距離の詰め方がへたっぴだ。できる限りでいいから仲良くしてやってくれ」
下手に出るマスターからの提案にもレッドは嫌な顔一つせず、「はい! おかげでお友達ができました!」と天使の笑顔。
そう。こういうのでいいんだよ、こういうので……
先日、魔王軍が攻め込んできたこの場所は、早くも勇者レッドの銅像が立てられるほどのフットワークの軽い街である。
そんなこともあってか、街は連日お祭り騒ぎ。
勇者フィーバーも相まって、そこらかしこで男女が盛りあっていた。
歩けども歩けども淫靡な光景を前に、両手で顔を隠すは勇者レッドの姿。
なんちゃって魔王軍を撃退した少女は耳まで真っ赤にしながら、任務斡旋場である『滑遁会』の扉に頭をぶつけつつ、そそくさと中へ入っていく。
「う~、緊張したぁ~。あんなの初めて見たよぉ~……。街のみんな、アグレッシブだなぁ……」
レッドはこの手の話に疎いのか、火照った顔を手でパタパタ仰ぎつつ、男客が酒を飲み交わす光景を横目に、奥にあるバーカウンターを目指す。
「お? これはこれは、今を時めく勇者のレッドちゃんじゃないか。任務受付なら右奥のカウンターだよ?」
カウンターの下からひょっこり顔を出したのは、この酒場エリアを任されている小太りのマスター。
人の好さそうな雰囲気が内から溢れ出す柔和なおじさんは、蓄えた口髭に触れながら右奥の方へと指を差している。
「あ、マスターさん。こんにちはです。今日は任務を受けに来たわけじゃ……」
「あぁ、そうだったそうだった。魔王軍を退けたっつって、街から報奨金が出てるんだっけ? そりゃあ、暫く任務受ける必要もねえわな!」
気風よく笑うマスターに、レッドも「……恐縮です」とにへら顔で返す。
「じゃあ、今日は何かい? 酒でも飲みにきたのかい? つってもレッドちゃんは、まだ十七歳だろ? さすがに勇者の肩書があっても、酒の提供はできないぜ?」
「いやいや、違いますって~。ほら、私この世界に来て日が浅いじゃないですか? お恥ずかしながら魔法についてはからっきしで……。だから、余裕があるうちに魔法を学びたいんです。誰か詳しい人を知りませんか?」
「ほう……レッドちゃんは真面目だね~。しかし、詳しい奴か。となると……」
マスターが顎髭に触れながら、脳内の連絡先をスクロールしていると……
「ふん! まさか魔王軍を退けた勇者が、エミィと同い年の女の子だったなんてね!」
腕を組むその姿は、まさしく威張り暴娘。赤髪ツインテールの目が吊り上がった少女がリングインだ。
「えっと、あなたは……?」
「私の名はエミリア! この街で魔法を知りたいのなら、エミィに聞くといいわ! 別に友達が欲しいから、こんなこと言ってるんじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」
へそ出しルックのショートパンツガールは、猫の手足を模ったグローブを身に着けつつ、ちょこんと出た指でビシッとレッドを差す。
「相変わらず目敏いなエミリア。でも、友達が欲しいなら欲しいって素直に言った方がいいぞ?」
「うるさいわね! 違うって言ってるでしょ! エミィは目がいいから、ちょっと目についちゃっただけ! でも、どうしてもって言うなら……もう少し抑えめでいってあげなくもないんだからね……」
マスターからの指摘に徐々にペースダウンするエミリア。
見ての通りこの少女、まるでツンデレを使いこなせていないのである。
「じゃあ、友達になろうよ! 私も同年代の女の子が居れば心強いしさ!」
そんな落ち込むエミリアを見かね、レッドは覗き込むように微笑みかける。
この子はいい子だ。もう、こっちが主人公でいいんじゃないかな。
「え、いいの……? ふ……ふん! まあ、そこまで言うなら友達になってあげなくもないんだから! 勘違いしないでよね! でも、どうしてもって言うなら、今夜うちに来るといいわ! お泊り会をセッティングしてあげるから!」
「悪いね、レッドちゃん。見ての通りエミリアは距離の詰め方がへたっぴだ。できる限りでいいから仲良くしてやってくれ」
下手に出るマスターからの提案にもレッドは嫌な顔一つせず、「はい! おかげでお友達ができました!」と天使の笑顔。
そう。こういうのでいいんだよ、こういうので……
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