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序章
第5話 モーニングルーティーン中にブチ切れ案件起こす堕天使①
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サブロウの家――
樹木が繁茂する中、周囲の環境と調和する木造の家屋がポツンと一軒。
茶色い木目の外観に自然と生えた蔓が絡まり、それが二階部分まで伸びては、屋根に美しき深緑の葉を宿らせる。
そう。ここがこの物語の主人公……になり損ねた男の家であった。
建ててから随分と経っているが、サブロウはこの家が好きだった。
建てた当初はただ小綺麗なだけの家で、何処か寂しそうな印象を受けていたが、今は長い時間をかけたことで自然が寄り添い、人工では生み出せない深みのようなものが出ていた。どうやら、そのあたりが好きらしい。
家の正面には石畳が敷かれていて、ちょっとした趣のある道ができており、その両隣には小さいながらも自給自足の為に広げた畑が二面。
その畑にしゃがみ込みながら、自分が育てた野菜を収穫する。サブロウにとってこの時間は、何物にも代えがたいものだった。
そんな満足感を胸に今日も収穫を終えたサブロウは、立ち上がると共に首に垂らしていたタオルで汗を拭う。
煌々と照らされる日の光に体力を奪われるが、我が家の作物に元気を与えてくれるなら一向に構わない。むしろ太陽すら愛おしいほどだ。
一頻り汗を拭いたサブロウは蔓かごを小脇に抱え、母屋へと歩く。
その道中、ふと右奥に視線を向ける。
右隅の区画は綺麗に手入れされた空白の土地が一坪。実はここも気に入ってるらしい。
今後、畑を拡大しようか? それとも他のこと……例えば部屋の増築でもしようか? そんなことを考えながら我が家へ帰るのが好きとのこと。
次いでサブロウは左奥へと視線を移す。
左隅の区画には近くの清流から水を引いてきた井戸があり、どんなに気温が高くて暑かろうと、常にキンキンの冷水を汲めるとかなんとか……って、もうこのくらいでいいか?
つまり、何が言いたいかと言うと、『充実している』ということを言いたいんだとさ。
だから、主人公になる必要もないし、なる気もない。今のままで十分だというのが、サブロウの主張だ。
そんなモーニングルーティーンの解説が終わったところで、サブロウは満足気な笑みで愛する我が家の扉を開ける。すると、そこには――
「お疲れィ、サブロウくん! お邪魔してるわよ!」
毎度お馴染み、チリ紙交換に出したい堕天使ランキング殿堂入りのリリスが座っていた。
「台無しだよ」
「え? どうしたのよ、急に?」
部屋の中心に置かれているテーブル席に座るリリスは、エロそうに足を組みながら怪訝な面持ちを見せる。
「いや、今さ。モーニングルーティーンをこう……いい感じにお届けしてたのよ。そんで今度は部屋の描写に移ろうと扉を開けたら目の前に君が居たわけさ。これって台無しになりませんか?」
「いや、そんなトリビアになりませんか? みたいなテンションで言われても……。っていうか誰に対して、お届けしてたのよ?」
サブロウは蔓かごを降ろし、「少なくとも君じゃないことは確かだ」と、リリスの対面へと腰かける。
「そんなの分かってるわよ。私は何回も来てるんだから。これはもう、通い妻と言っても過言ではないわね!」
「だったら少しは畑仕事でも手伝ってほしいね? 君のやることと言えば、寝るか食うか余計な話を持ってくるかの三択しかない。このままじゃ、通い妻の品位が下がる」
「嫌よ? 畑仕事なんて汚れるだけだし、私みたいな超絶美人には相応しくないわ。それこそ天使の品位が下がるってなものよ」
その瞬間――サブロウの額の血管がブチっ! と一人前。
眼球が異様な速さで不規則に運動を始め、その動作が完了する否や瞳は黒く輝き、暗闇の渦と共にリリスの座っていた椅子を変貌させた。
樹木が繁茂する中、周囲の環境と調和する木造の家屋がポツンと一軒。
茶色い木目の外観に自然と生えた蔓が絡まり、それが二階部分まで伸びては、屋根に美しき深緑の葉を宿らせる。
そう。ここがこの物語の主人公……になり損ねた男の家であった。
建ててから随分と経っているが、サブロウはこの家が好きだった。
建てた当初はただ小綺麗なだけの家で、何処か寂しそうな印象を受けていたが、今は長い時間をかけたことで自然が寄り添い、人工では生み出せない深みのようなものが出ていた。どうやら、そのあたりが好きらしい。
家の正面には石畳が敷かれていて、ちょっとした趣のある道ができており、その両隣には小さいながらも自給自足の為に広げた畑が二面。
その畑にしゃがみ込みながら、自分が育てた野菜を収穫する。サブロウにとってこの時間は、何物にも代えがたいものだった。
そんな満足感を胸に今日も収穫を終えたサブロウは、立ち上がると共に首に垂らしていたタオルで汗を拭う。
煌々と照らされる日の光に体力を奪われるが、我が家の作物に元気を与えてくれるなら一向に構わない。むしろ太陽すら愛おしいほどだ。
一頻り汗を拭いたサブロウは蔓かごを小脇に抱え、母屋へと歩く。
その道中、ふと右奥に視線を向ける。
右隅の区画は綺麗に手入れされた空白の土地が一坪。実はここも気に入ってるらしい。
今後、畑を拡大しようか? それとも他のこと……例えば部屋の増築でもしようか? そんなことを考えながら我が家へ帰るのが好きとのこと。
次いでサブロウは左奥へと視線を移す。
左隅の区画には近くの清流から水を引いてきた井戸があり、どんなに気温が高くて暑かろうと、常にキンキンの冷水を汲めるとかなんとか……って、もうこのくらいでいいか?
つまり、何が言いたいかと言うと、『充実している』ということを言いたいんだとさ。
だから、主人公になる必要もないし、なる気もない。今のままで十分だというのが、サブロウの主張だ。
そんなモーニングルーティーンの解説が終わったところで、サブロウは満足気な笑みで愛する我が家の扉を開ける。すると、そこには――
「お疲れィ、サブロウくん! お邪魔してるわよ!」
毎度お馴染み、チリ紙交換に出したい堕天使ランキング殿堂入りのリリスが座っていた。
「台無しだよ」
「え? どうしたのよ、急に?」
部屋の中心に置かれているテーブル席に座るリリスは、エロそうに足を組みながら怪訝な面持ちを見せる。
「いや、今さ。モーニングルーティーンをこう……いい感じにお届けしてたのよ。そんで今度は部屋の描写に移ろうと扉を開けたら目の前に君が居たわけさ。これって台無しになりませんか?」
「いや、そんなトリビアになりませんか? みたいなテンションで言われても……。っていうか誰に対して、お届けしてたのよ?」
サブロウは蔓かごを降ろし、「少なくとも君じゃないことは確かだ」と、リリスの対面へと腰かける。
「そんなの分かってるわよ。私は何回も来てるんだから。これはもう、通い妻と言っても過言ではないわね!」
「だったら少しは畑仕事でも手伝ってほしいね? 君のやることと言えば、寝るか食うか余計な話を持ってくるかの三択しかない。このままじゃ、通い妻の品位が下がる」
「嫌よ? 畑仕事なんて汚れるだけだし、私みたいな超絶美人には相応しくないわ。それこそ天使の品位が下がるってなものよ」
その瞬間――サブロウの額の血管がブチっ! と一人前。
眼球が異様な速さで不規則に運動を始め、その動作が完了する否や瞳は黒く輝き、暗闇の渦と共にリリスの座っていた椅子を変貌させた。
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