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第二章
第68話 国宝人
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「カ、カタリベ様っ⁈」
「やあ、レイ。また会ったね」
レイは先程までの鬼気迫る表情から一転し、オレの襟を離すと急にしおらしくなり、カタリベが優しく微笑みかけては、頬を染めながら粛々と頭を下げていた。
「何だ? お前ら知り合いか?」
「は、はい。昔、お世話になったことが……」
「ほ~ん……相変わらず知り合い多いな、お前。しかし、カタリベよぉ。アンタがこんなとこに来るなんて意外だな」
オレは視線を戻すとカタリベは、表情を変えずに顔を横に振る。
「お前の想像しているようなことでは決してない。此処へはダン……お前に会いに来たのだ」
「オレに? 今度は何の用だってんだ?」
「それより場所を変えないか? 此処には正直いたくないのだが……」
周囲を見渡すカタリベは、何処か表情を険しくしていたが――
「いや、断る」
――そんなこと気にも留めず、オレは速攻で断ってやった。
「……理由を聞いても?」
「理由は二つある。一つ目は此処に女の子が、いっぱいいるということ。二つ目は……おっぱいが、いっぱいあるということだ!」
「「「「……………………」」」」
オレの一言はレイと氷人をドン引きさせ、眼前のカタリベの顔をも引きつらせると、ただでさえ静かだった宿屋内を更に静まらせた――かに思えたが……
「いいぞぉー、坊主! よく言ったぁー!」
「当たり前だっ! ここ以外、何処に行くってんだ⁉」
「違ぇねえ! 違ぇねえ!」
スーさん、ゲンさん、トクさん、ジジイ三人衆が同調した瞬間――宿屋内の客たちが一斉に歓声を上げ、一気に活気を取り戻すや否や、より一層の盛り上がりを見せた。フッ……何だか心強いぜ。
「わかった……もう私の負けでいい。此処で済まそう」
頭を抱えたカタリベが席へ移動しようとすると――
「待ってください! ミサは反対しますっ‼」
――その後方から白シャツと黒ジャケットを羽織りつつ、黒いタイトなミニスカと黒の透け感のあるタイツを履く、いかにも秘書でございますって格好の美女が止めに入った。
「いや……いいんだ、ミサ。これがこの男の平常なんだ。一々ツッコんでいては話が先に進まない」
「ですが、このような不埒な男がカタリベ様と同称なんて……」
ミサと呼ばれた美女はキリっとした目でオレを睨む。
黒い前髪をセンター分けにしつつ後ろは団子状に束ね、黒縁メガネを掛けていたかと思えば片手に電子ボード……う~ん、これは例えるならエロ家庭教師といったところか。秘書なのに家庭教師とは、これ如何に……まあ、つまり何が言いたいかと言うと、めちゃめちゃエロいということだ!
「視線が不埒ですっ! やはり、このような下賤な輩を認める訳にはっ――⁉」
カタリベは捲し立てるミサの頬を行き成り撫でると、まるで少女漫画のイケメンキャラの如きスマイルで遮った。
「ダンは確かにモラルに欠ける奴だが、それ以上に男気のある奴だと私は思う。だから、それ以上悪く言わないでやってくれ。いいね?」
するとミサは先程の剣幕から一転、蕩けたよう表情で頬を赤く染める。
「は、はぃ……カタリベ様の言いつけとあらば、ミサはどんなプレイでも受け入れます……」
「………………」
「この身も心も貴方様のもの……今すぐにでも愛の契りを結んでも構いません……」
「………………」
「それでは早速、子作りをいたしま――」
「いや、アンタの方が不埒じゃねえかああああッ⁉」
オレはツッコんだ。思いっ切りツッコんでやった。ツッコむまいと思っていたが……我慢できずにツッコんだ。オレのエロ家庭教師という例えは……言い得て妙だった。
◆
「先程は失礼を……取り乱しました」
あの後、興奮冷めやらぬミサをカタリベは若干引き気味の様子で席まで引っ張っていき、座るや否や全くオレたちのことなど眼中にないといった感じでイチャつき始めた。
そんな絵面を死んだような眼で見させられるという懲役六百年クラスの拷問受けたのち、やっとこさ落ち着きを取り戻したミサが頬を赤らめつつ今し方謝罪の台詞を吐いたのだった。
「悪かったな、ダン。彼女は時折――いや……結構――いや……毎日こんな感じなんだ。決して悪気がある訳じゃない。ただ……嘘がつけない子なんだ。許してやってくれ」
「ま、別にいいけどさ~……イチャつくならホテルにでも行けば? ここはドエーロ街なんて名前だし、そういう場所には事欠かねえだろ? オレら帰るからよぉ?」
オレはテーブルに頬杖しながら、対面に座っているカタリベに、嫌味ったらしくガンを飛ばす。理由はただ一つ……ムカついたからだ。
「と、仰っていることですし……近くのホテルを予約しておきますね、カタリベ様。大丈夫です……知識だけですが、ミサが手取り足取り――」
「頼むからちょっと黙っててくれ、ミサ。話が先に進まない」
何やら電子ボードを操作し始めたミサをカタリベが止めると、自分の暴走に気付いたのかコホンと咳払いをしつつ秘書らしく黙った。
「何だか旦那に似てますね……」
「ああ。今、小生も同様のものを感じた」
両隣りに座っているレイと氷人の小声のやり取りに――
「冗談言うな。オレはあんなに……変態じゃねえ」
――オレは真顔で言い放ってやった。
二人からツッコミの視線を浴びせられたが、オレは又もや強き心で華麗にスルーする。いい加減、話を先に進めないとな。
「で? 話ってのは何なんだ? ここまで引っ張って下らねえ用件だったら流石に許せねえぞ?」
「ああ。実は皇帝から、ある言伝を頼まれてな。今からその内容を話させてもらうが、予め言っておくことが一つある。それは、この話があくまでも皇帝からの『願い』であり、決して『命令』するものではないということだ。それを踏まえたうえで聞いてほしい」
随分と念入りに強調するカタリベは、いつもの真面目な顔つきに戻ると、その醸し出すオーラが緊張感を漂わせ、思わず固唾を呑んで聞き入ってしまう。
「ダン・カーディナレ……皇帝から『国宝人』への推薦が来ている。それを伝える為に私は此処まで来た」
そのカタリベの一言に宿屋内は再度、水を打ったように静まり返った。
「国宝人……⁈ 旦那がっ……⁈」
「フッ……小生を負かせたんだ。当然か……」
レイはあまりの衝撃からか瞠目するように固まり、氷人も言葉とは裏腹に額からは汗が滴り落ちていた。
そして、当のオレはと言うと――
「国宝人……って何?」
――一人だけ置いてけぼりを食らっていた。
その発言に宿屋内が一斉に爆笑に包まれると、周囲からは「知らねえのかよ、こいつ!」だの、「こんな反応する奴、始めて見たぜ!」だの、「おっぱいしか見てねえのか、てめえは!」だの、散々な言われようで……僕ちんのメンタルはズタボロになり、流石に今回はスルーできなかった。
「レイ、教えてなかったのかい……?」
「すみません……話すタイミングがなくて……」
又もや引きつった顔を見せるカタリベに、レイは申し訳なさそうに顔を逸らした為、代わりに氷人が溜息交じりに口を開く。
「ダンよ……皇帝が治める帝国とは本来、どの国とも同盟しないことで知られている。何故なら帝国には広大な領地と圧倒的な軍事力があるからだ。故にそこにあるのは支配だけ。同盟なんて以ての外だ。しかし、そんな帝国にも一つだけ同盟を認めるシステムがある……それが『国宝人』だ」
氷人は一呼吸置くと此方を向き、閉じた瞳で見据えながら告げる――
「つまり貴公は皇帝に同盟を持ち掛けられている。一個人に対し……『国家を超える存在』として」
「やあ、レイ。また会ったね」
レイは先程までの鬼気迫る表情から一転し、オレの襟を離すと急にしおらしくなり、カタリベが優しく微笑みかけては、頬を染めながら粛々と頭を下げていた。
「何だ? お前ら知り合いか?」
「は、はい。昔、お世話になったことが……」
「ほ~ん……相変わらず知り合い多いな、お前。しかし、カタリベよぉ。アンタがこんなとこに来るなんて意外だな」
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「それより場所を変えないか? 此処には正直いたくないのだが……」
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「いや、断る」
――そんなこと気にも留めず、オレは速攻で断ってやった。
「……理由を聞いても?」
「理由は二つある。一つ目は此処に女の子が、いっぱいいるということ。二つ目は……おっぱいが、いっぱいあるということだ!」
「「「「……………………」」」」
オレの一言はレイと氷人をドン引きさせ、眼前のカタリベの顔をも引きつらせると、ただでさえ静かだった宿屋内を更に静まらせた――かに思えたが……
「いいぞぉー、坊主! よく言ったぁー!」
「当たり前だっ! ここ以外、何処に行くってんだ⁉」
「違ぇねえ! 違ぇねえ!」
スーさん、ゲンさん、トクさん、ジジイ三人衆が同調した瞬間――宿屋内の客たちが一斉に歓声を上げ、一気に活気を取り戻すや否や、より一層の盛り上がりを見せた。フッ……何だか心強いぜ。
「わかった……もう私の負けでいい。此処で済まそう」
頭を抱えたカタリベが席へ移動しようとすると――
「待ってください! ミサは反対しますっ‼」
――その後方から白シャツと黒ジャケットを羽織りつつ、黒いタイトなミニスカと黒の透け感のあるタイツを履く、いかにも秘書でございますって格好の美女が止めに入った。
「いや……いいんだ、ミサ。これがこの男の平常なんだ。一々ツッコんでいては話が先に進まない」
「ですが、このような不埒な男がカタリベ様と同称なんて……」
ミサと呼ばれた美女はキリっとした目でオレを睨む。
黒い前髪をセンター分けにしつつ後ろは団子状に束ね、黒縁メガネを掛けていたかと思えば片手に電子ボード……う~ん、これは例えるならエロ家庭教師といったところか。秘書なのに家庭教師とは、これ如何に……まあ、つまり何が言いたいかと言うと、めちゃめちゃエロいということだ!
「視線が不埒ですっ! やはり、このような下賤な輩を認める訳にはっ――⁉」
カタリベは捲し立てるミサの頬を行き成り撫でると、まるで少女漫画のイケメンキャラの如きスマイルで遮った。
「ダンは確かにモラルに欠ける奴だが、それ以上に男気のある奴だと私は思う。だから、それ以上悪く言わないでやってくれ。いいね?」
するとミサは先程の剣幕から一転、蕩けたよう表情で頬を赤く染める。
「は、はぃ……カタリベ様の言いつけとあらば、ミサはどんなプレイでも受け入れます……」
「………………」
「この身も心も貴方様のもの……今すぐにでも愛の契りを結んでも構いません……」
「………………」
「それでは早速、子作りをいたしま――」
「いや、アンタの方が不埒じゃねえかああああッ⁉」
オレはツッコんだ。思いっ切りツッコんでやった。ツッコむまいと思っていたが……我慢できずにツッコんだ。オレのエロ家庭教師という例えは……言い得て妙だった。
◆
「先程は失礼を……取り乱しました」
あの後、興奮冷めやらぬミサをカタリベは若干引き気味の様子で席まで引っ張っていき、座るや否や全くオレたちのことなど眼中にないといった感じでイチャつき始めた。
そんな絵面を死んだような眼で見させられるという懲役六百年クラスの拷問受けたのち、やっとこさ落ち着きを取り戻したミサが頬を赤らめつつ今し方謝罪の台詞を吐いたのだった。
「悪かったな、ダン。彼女は時折――いや……結構――いや……毎日こんな感じなんだ。決して悪気がある訳じゃない。ただ……嘘がつけない子なんだ。許してやってくれ」
「ま、別にいいけどさ~……イチャつくならホテルにでも行けば? ここはドエーロ街なんて名前だし、そういう場所には事欠かねえだろ? オレら帰るからよぉ?」
オレはテーブルに頬杖しながら、対面に座っているカタリベに、嫌味ったらしくガンを飛ばす。理由はただ一つ……ムカついたからだ。
「と、仰っていることですし……近くのホテルを予約しておきますね、カタリベ様。大丈夫です……知識だけですが、ミサが手取り足取り――」
「頼むからちょっと黙っててくれ、ミサ。話が先に進まない」
何やら電子ボードを操作し始めたミサをカタリベが止めると、自分の暴走に気付いたのかコホンと咳払いをしつつ秘書らしく黙った。
「何だか旦那に似てますね……」
「ああ。今、小生も同様のものを感じた」
両隣りに座っているレイと氷人の小声のやり取りに――
「冗談言うな。オレはあんなに……変態じゃねえ」
――オレは真顔で言い放ってやった。
二人からツッコミの視線を浴びせられたが、オレは又もや強き心で華麗にスルーする。いい加減、話を先に進めないとな。
「で? 話ってのは何なんだ? ここまで引っ張って下らねえ用件だったら流石に許せねえぞ?」
「ああ。実は皇帝から、ある言伝を頼まれてな。今からその内容を話させてもらうが、予め言っておくことが一つある。それは、この話があくまでも皇帝からの『願い』であり、決して『命令』するものではないということだ。それを踏まえたうえで聞いてほしい」
随分と念入りに強調するカタリベは、いつもの真面目な顔つきに戻ると、その醸し出すオーラが緊張感を漂わせ、思わず固唾を呑んで聞き入ってしまう。
「ダン・カーディナレ……皇帝から『国宝人』への推薦が来ている。それを伝える為に私は此処まで来た」
そのカタリベの一言に宿屋内は再度、水を打ったように静まり返った。
「国宝人……⁈ 旦那がっ……⁈」
「フッ……小生を負かせたんだ。当然か……」
レイはあまりの衝撃からか瞠目するように固まり、氷人も言葉とは裏腹に額からは汗が滴り落ちていた。
そして、当のオレはと言うと――
「国宝人……って何?」
――一人だけ置いてけぼりを食らっていた。
その発言に宿屋内が一斉に爆笑に包まれると、周囲からは「知らねえのかよ、こいつ!」だの、「こんな反応する奴、始めて見たぜ!」だの、「おっぱいしか見てねえのか、てめえは!」だの、散々な言われようで……僕ちんのメンタルはズタボロになり、流石に今回はスルーできなかった。
「レイ、教えてなかったのかい……?」
「すみません……話すタイミングがなくて……」
又もや引きつった顔を見せるカタリベに、レイは申し訳なさそうに顔を逸らした為、代わりに氷人が溜息交じりに口を開く。
「ダンよ……皇帝が治める帝国とは本来、どの国とも同盟しないことで知られている。何故なら帝国には広大な領地と圧倒的な軍事力があるからだ。故にそこにあるのは支配だけ。同盟なんて以ての外だ。しかし、そんな帝国にも一つだけ同盟を認めるシステムがある……それが『国宝人』だ」
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