上 下
14 / 142
第一章

第14話 生などなく、死もない

しおりを挟む
 街へ戻ること数時間……ただ今の時刻、十七時を回ったところ。あれから右往左往と道を行き来し、ようやく時計台を見つけて時刻を確認できた。
 この国は自由をモットーにしているのかなんなのか知らないが、時計がない。いろんな店を回ったが本当にない。クソ不便。
 店を回ったついでに宿屋のことを聞いたら、『あそこはやめとけ』だの『お前じゃ荷が重い』だの散々な言われようだった。余計なお世話だ。取りあえず道は聞いたので、その通りに進んでいく。
 ちなみに地図はもう捨てた。ギャグとしては百点だが、地図としてはマイナス五億点をやるレベルだからな。

「確かこの裏道を真っ直ぐ進んで、その後に大通りを出て……あれ? 右だっけ? 左だっけ? ヤバい、どっちだっけ?」

 オレが思案に暮れていると、正面にイベント発生。

「すいません……お金はこれだけしかないんです……許してください……」
「チッ……これしか持ってないのか? これだけじゃあ、許すわけにはいかないなぁ……」

 チンピラ風の男が女の子をカツアゲしていた。せっかくだから、ブチのめすついでに道を聞こう。

「おいおい、女の子から金ふんだくろうなんて、何くだらねえことやってんだ?」
「あ? なんだテメエは、ブッ殺されてえのか? ちょうどいいや……お前も金、置いてけや」

 チンピラはニヤケ面のまま銃をオレの顎につけ、大して覇気もない脅しをしてくる。普通ならピンチな状態だが、オレはこれを逆に好機と捉える。

「へッ……こっちこそちょうどいい。オレも自分の体のこと理解したかったところだ。いいぜ……撃ちなよ」
「なんだと……? バカなのかテメエ?」
「いいから……それともビビってんのか? 人撃ったことあるか?」
「あ? 上等だ……! そんなに死に急ぎたいなら――」

 さあ……どうなる? 所詮ここで死ぬ様ならオレはそこまでの男。今一度この世に生を受けた意味……それがなんなのか、己の身体で確かめる! 男は度胸!

「殺してやるよッ‼」

 ――バンッッ‼

 引き金を引かれて飛び出した弾丸は振動と共に顎下から頭頂部にかけて撃ち抜かれ、その開けられた風穴の上下から大量の真っ赤な血が濁流のように噴き出していく。激しい痛みが全身を駆け巡り……オレはあの時と同じように倒れそうになる……が、今回はどうやら違ったようだ。

「痛ェェェェッ⁉――ッヘッヘッヘッ……あぁ……やっぱり痛えなぁオイッ‼ でも、意識ははっきりしてる……ハハッ……何だこの感覚は……?」
「何なんだコイツはッ⁈ なんで死なねえッ⁉ バケモンかッ⁈」

 チンピラは動揺しつつ追撃の弾を撃つ為に再度銃を構えるが――

「ちょい待ちィッ! これ以上は痛いから勘弁だッ!」

 ――それを遮るように銃口を手の平で包むと、轟音と共に稲妻を迸らせながら変形させて無力化した。

「なっ⁈ オレの銃がッ……⁉ クソッ!」

 チンピラは使い物にならなくなった銃を捨てると、今度は懐からナイフを取り出してオレの方へ向ける。

「イテテテ……おいおい、まだやんのかよ? どうやらオレは不死身みたいだぜ? 流石に諦めろよ……」
「『シーフズ』が舐められっぱなしで引けるわけねえだろッ! いいからさっさと金を出せやッ‼」

 不死身相手にまだ立ち向かう気があるとはな……やっぱり男は度胸か……いや、と言うよりも何かに怯えていてやらざるを得ないようにも見えるな。

「ハァ……シーフズだかシーフードだか知らないが、オレが金持ってるように見えるか?」
「そっ、そりゃあ確かめてから決めりゃあいいことだッ! オラァッ! 飛んでみなッ!」

 目の前のチンピラ君は怯えながらもナイフを構え、いつの時代からお越しになったのか分からんレベルのカツアゲスタイルを披露した。 

「オレよりも向こうにいる金持ちそうな奴から、カツアゲした方がいいんじゃないか?」

 オレはチンピラの後方を見ながら指をさし、助け舟という名の泥船に引きずり込もうと画策する。

「は? 何処に居んだ――ぐふェぇえッ⁉」

 チンピラが後ろを振り向いた瞬間、頭の部分に鋭い上段蹴りをお見舞いし、鈍い音と共に壁に叩きつけた。

「痛ェェェェッ⁉ いきなり何しやがるッ⁉」

 頭を押えながら地面をのたうち回るチンピラを、オレはお構いなしに襟の部分を掴んで強引に引き上げる。

「じゃあチンピラ君。持ってるお金、全部貸してくんない? オレ、全然持ってなくってさぁ」
「逆カツアゲすんのかよッ⁈ 嘘だろ……あの、ちょっと勘弁してもらえませんかね?」

 サクッと観念した哀れなチンピラ君は、タメ口だった言葉を敬語に変えて下手に出てきた。

「なんで?」
「なんでって……実は俺の親父も昔カツアゲされたことがありまして……俺はせめてカツアゲする側の人間になろう! っていう涙ぐましい話がありましてですね……」
「全然、涙ぐましい話じゃないけどね……まあ、そんなことどうでもいいから金を貸してくれ。ちゃんと返すから、オレが。いいか? オレがだぞ? ちゃんとオレのところに来いよ? わかったな?」
「わっ、わかりました……」

 奪われた金を徴収してチンピラ君が去った後、オレは受け取った金を一部始終を見てへたり込んでいた女の子に返却した。

「ほらっ……次は取られるんじゃねえぞ」
「あっ、ありがとうございます助けていただいて。その……お怪我の方は大丈夫なんですか? 血が沢山出ていますけど……」

 すっかり忘れていたオレは、思い出したかのように傷口を触ると、真っ赤な血がべっとりついていた。だがそれは先程噴き出したものであり、今はもう完全に傷口が塞がっていた。

「あぁ……大丈夫みたいだ。それにオレは目の前の気に入らない奴をぶちのめしただけ。アンタのことはついでさ」
「そういう訳には参りません。助けていただいたお礼に、このお金はお持ちください」
「いや、金はいらない。その代わりにおっぱ――じゃないや……『ア・プレスト』って宿屋の場所を教えてもらえないか? 実はオレ絶賛迷子中でな」
「それでしたら、そこの大通りを右に進んでいけば看板が見えてくるので、行けばわかると思いますが……本当にそれだけでよろしいんですか?」
「ああ、助かった。じゃあな、お嬢さん」
「はい! ありがとうございました!」

 女の子のお礼を背に受けながらオレは颯爽と立ち去った。
 
 今までは押せ押せで上手くいかなかったので、今度はカッコつけて引いてみたが……全然呼び止められなかった。助けたからと言って速攻で惚れられるとか、そんな展開はないのである。人生はそんなに甘くないのだ。
 
 取りあえず教えられた通りに道を進んでいくと、大通りには食事処が建ち並んでいるのか美味そうな匂いが立ち込めていて鼻腔をくすぐってくる。気づけばもう食事時の時間だ。

 よくよく考えたら朝から何も食べていないため、さっきから腹が救難信号を送ってきている……不死身の身体でも一応、腹はすくみたいだ。
 やっぱり少しくらい金を貰っておくべきだったか……そんな浅ましい考えが頭をよぎった辺りで、ようやく件の宿屋であるア・プレストに到着した。

 さて、着いたはいいのだが……緊急事態発生。

「電気ついてないんだけど……ハハッ……そんなまさかね」

 嫌な予感と共に扉を押し引きしてみるが、ガタガタと虚しい音が鳴るだけだった。

 嘘でしょ……ここまで来て空振りはシャレにならないぞ。そもそも人の気配が……ん? あれは……

 二階のカーテンの隙間から、誰かが覗いているような気配を感じたオレは、咄嗟に声をかける。

「おーい! 誰かいんのかー! いるなら入れてくれー!」

 しかし気のせいだったのか、カーテンが揺れているだけで何の反応もない。

「ハァ……アホくさ……やってらんねぇー……もう寝るわ」

 朝っぱらから動きっぱなしで、流石に疲れたオレはその場に寝転んだ。こちとら死ぬほどのダメージを二回も食らっているのに、飯の方はしばらくの間一向に食らっていない……そりゃあ眠くもなるさ。
 まあ、ここは宿屋らしいから寝たとしてもギリギリセーフ……住人が戻ってくれば……誰か……拾って……くれるだろう……


 オレは一日の疲れをドデカい欠伸に乗せながら……深い眠りについた。 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~

テツみン
ファンタジー
**救国編完結!** 『鑑定——』  エリオット・ラングレー  種族 悪霊  HP 測定不能  MP 測定不能  スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数  アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数 次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた! だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを! 彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ! これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...