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第二章 宝探し
第116話 裏切りニャンコ
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打ち上げを終え、自室のあるマンションへと帰宅する大和。
朝っぱらから頭と体を酷使した所為か、完全に疲労が顔に出ている。残業終わりのサラリーマンのよう。
「ふぁ~ぁ……」
エレベーターに乗るなり、大和は大きな欠伸をかます。
この時点でだいぶ気が抜けており、恥ずかしいかな自室前まで、その小さな存在に気付かなかった。
『ハ~イ、坊や。優勝おめでとう』
祝いの言葉をかけてきたのは、扉の前にちょこんと座る黒猫のカーポ。
もはや説明不要の喋れるお姉さんなのだが、当の大和は不意を突かれたように肩をビクつかせてしまう。
「カーポ……」
『ん? 何よそのリアクションは? 喋れる猫は初めてじゃないでしょう?』
器用に小首を傾げてみせるカーポは、傍から見れば非常に愛らしい猫だろう。
しかし、『内通者問題』の真実を知った今、その仕草の意味合いはコペルニクス的転回をもたらす。
「カーポ……お前、なんでオレに内通者がいると報告した?」
『え……? 何よいきなり……』
「あの策はオレと伍堂、そしてお前しか知らなかった。他の誰にも教えていない。となれば消去法で伍堂の線が濃厚になるが、あいつがやったとなると辻褄が合わなくなる。部外者って線も考えたが、正直思い当たる節がない。つまりだ。『内通者』として一番可能性があるのはもう……お前しかいないんだよ、カーポ」
大和がそう指摘すると、カーポはあからさまに動揺してみせる。
ただ、『慌てている』というよりも、『予想外』といった印象の方が強い。
『ちょっ……ちょっと待ってよ⁉ 私は報告してあげた側なのよ⁉ それで『内通者』っておかしくない? 普通、言わないと思うんだけど……』
「確かにそうだ。だがもし、奴に情報を流したこと自体を覚えていないとしたら?」
さらにカーポは耳を伏せると、『どういう意味よ、それ……?』と声を曇らす。
猫は本来、表情が乏しいと言われるものだが、こうも不安を前面に押し出されると、やはり自覚はなかったと判断せざるを得ない。大和もそう思い始めていた。
「葦原はレクリエーションの終盤、神田を操って手駒にしているようだった。お前もその例になぞらえるなら、情報を抜き取られていた可能性は充分に考えられる……という意味だ」
『そんな……』
「ま、なんにせよ葦原はお前が喋れることを知っていた。これが意味する最悪のケースは……」
視線を彷徨わせるとこと数瞬、目を見開いたカーポは恐る恐る、その答えを口に出す。
『あの葦原計都が……『異能狩り』ってこと……⁉』
「そういうことになる。あくまでも可能性の話だがな」
『じゃあ、今まで話した内容も全部……?』
「ああ」
『あの子……牧瀬友愛のことも……?」
「筒抜けだろうな」
言葉も出ず、暫し罪悪感に苛まれるカーポ。
だが、一つの疑問が頭をよぎると、どこかバツが悪そうにゆっくりと言葉を紡いでいく。
『でも、それだったらなんで彼女は無事なの? 『異能狩り』にとって牧瀬浩一の娘は復讐対象のはず。葦原計都が『異能狩り』であるなら、今ごろ消されてるんじゃ……?』
「そう。そこがずっと引っ掛かってるところだ。何故、奴は真相を知ってなお、牧瀬を生かしているのか……。単純に人違いだったって話なら楽なんだが、奴からは何かこう……異様なものを感じる。この一件から安易に外すことのできない、黒く輝く何かが……」
結局、大和も大した回答は持ち合わせていないようで、一人と一匹の間には嘗てないほどの重い空気だけが流れていた。が、しばらくすると……
『どちらにしても、もうここには来れないわね。坊やとももう……』
カーポは目を伏せるなり、暗澹たる面持ちで、とぼとぼと歩き出す。
「………………」
すり抜けていく彼女に対し、大和はただ無を貫くだけ。
カーポはというと寂しげに歩を止め、背を向けたまま最後のケジメへ……
『本当にごめんなさい。彼女を守ってと言っておきながら、その私が足を引っ張っちゃって……。この失態は必ず――』
「まあ、纏めると現状は問題ないということだ」
だが一転、大和から発せられた予想外の言葉に、『え……?』と素っ頓狂な声で振り返ってしまうカーポ。
「牧瀬に危害が加えられてない以上、お前が気に病む必要も汚名返上する必要もない。要は込み入った話をしなければいいだけのこと。だから……また、いつでも遊びに来い」
その見開いた目には顔を見せることなく、そそくさと自室へ姿を消す大和の後ろ姿が。
『ありがとう……坊や』
そんな恥ずかしがりやな坊やに、お姉さんは喉をゴロゴロと鳴らした。
◆
翌日、AM.7:30――
携帯のアラームが鳴るなり、即座に止めて起床する大和。
寝癖がぴょこぴょこ生えてる中、寝惚け眼で隣を見遣ると、ぐっすりと丸まるカーポの姿が。
「………………」
『スゥー……』
「………………」
『スゥー……』
「いや……遊びに来るの早すぎだろ……」
そんなどこからともなく入ってきた来訪者を撫でつつ、大和は今日も今日とて学園へ行くのだった。
朝っぱらから頭と体を酷使した所為か、完全に疲労が顔に出ている。残業終わりのサラリーマンのよう。
「ふぁ~ぁ……」
エレベーターに乗るなり、大和は大きな欠伸をかます。
この時点でだいぶ気が抜けており、恥ずかしいかな自室前まで、その小さな存在に気付かなかった。
『ハ~イ、坊や。優勝おめでとう』
祝いの言葉をかけてきたのは、扉の前にちょこんと座る黒猫のカーポ。
もはや説明不要の喋れるお姉さんなのだが、当の大和は不意を突かれたように肩をビクつかせてしまう。
「カーポ……」
『ん? 何よそのリアクションは? 喋れる猫は初めてじゃないでしょう?』
器用に小首を傾げてみせるカーポは、傍から見れば非常に愛らしい猫だろう。
しかし、『内通者問題』の真実を知った今、その仕草の意味合いはコペルニクス的転回をもたらす。
「カーポ……お前、なんでオレに内通者がいると報告した?」
『え……? 何よいきなり……』
「あの策はオレと伍堂、そしてお前しか知らなかった。他の誰にも教えていない。となれば消去法で伍堂の線が濃厚になるが、あいつがやったとなると辻褄が合わなくなる。部外者って線も考えたが、正直思い当たる節がない。つまりだ。『内通者』として一番可能性があるのはもう……お前しかいないんだよ、カーポ」
大和がそう指摘すると、カーポはあからさまに動揺してみせる。
ただ、『慌てている』というよりも、『予想外』といった印象の方が強い。
『ちょっ……ちょっと待ってよ⁉ 私は報告してあげた側なのよ⁉ それで『内通者』っておかしくない? 普通、言わないと思うんだけど……』
「確かにそうだ。だがもし、奴に情報を流したこと自体を覚えていないとしたら?」
さらにカーポは耳を伏せると、『どういう意味よ、それ……?』と声を曇らす。
猫は本来、表情が乏しいと言われるものだが、こうも不安を前面に押し出されると、やはり自覚はなかったと判断せざるを得ない。大和もそう思い始めていた。
「葦原はレクリエーションの終盤、神田を操って手駒にしているようだった。お前もその例になぞらえるなら、情報を抜き取られていた可能性は充分に考えられる……という意味だ」
『そんな……』
「ま、なんにせよ葦原はお前が喋れることを知っていた。これが意味する最悪のケースは……」
視線を彷徨わせるとこと数瞬、目を見開いたカーポは恐る恐る、その答えを口に出す。
『あの葦原計都が……『異能狩り』ってこと……⁉』
「そういうことになる。あくまでも可能性の話だがな」
『じゃあ、今まで話した内容も全部……?』
「ああ」
『あの子……牧瀬友愛のことも……?」
「筒抜けだろうな」
言葉も出ず、暫し罪悪感に苛まれるカーポ。
だが、一つの疑問が頭をよぎると、どこかバツが悪そうにゆっくりと言葉を紡いでいく。
『でも、それだったらなんで彼女は無事なの? 『異能狩り』にとって牧瀬浩一の娘は復讐対象のはず。葦原計都が『異能狩り』であるなら、今ごろ消されてるんじゃ……?』
「そう。そこがずっと引っ掛かってるところだ。何故、奴は真相を知ってなお、牧瀬を生かしているのか……。単純に人違いだったって話なら楽なんだが、奴からは何かこう……異様なものを感じる。この一件から安易に外すことのできない、黒く輝く何かが……」
結局、大和も大した回答は持ち合わせていないようで、一人と一匹の間には嘗てないほどの重い空気だけが流れていた。が、しばらくすると……
『どちらにしても、もうここには来れないわね。坊やとももう……』
カーポは目を伏せるなり、暗澹たる面持ちで、とぼとぼと歩き出す。
「………………」
すり抜けていく彼女に対し、大和はただ無を貫くだけ。
カーポはというと寂しげに歩を止め、背を向けたまま最後のケジメへ……
『本当にごめんなさい。彼女を守ってと言っておきながら、その私が足を引っ張っちゃって……。この失態は必ず――』
「まあ、纏めると現状は問題ないということだ」
だが一転、大和から発せられた予想外の言葉に、『え……?』と素っ頓狂な声で振り返ってしまうカーポ。
「牧瀬に危害が加えられてない以上、お前が気に病む必要も汚名返上する必要もない。要は込み入った話をしなければいいだけのこと。だから……また、いつでも遊びに来い」
その見開いた目には顔を見せることなく、そそくさと自室へ姿を消す大和の後ろ姿が。
『ありがとう……坊や』
そんな恥ずかしがりやな坊やに、お姉さんは喉をゴロゴロと鳴らした。
◆
翌日、AM.7:30――
携帯のアラームが鳴るなり、即座に止めて起床する大和。
寝癖がぴょこぴょこ生えてる中、寝惚け眼で隣を見遣ると、ぐっすりと丸まるカーポの姿が。
「………………」
『スゥー……』
「………………」
『スゥー……』
「いや……遊びに来るの早すぎだろ……」
そんなどこからともなく入ってきた来訪者を撫でつつ、大和は今日も今日とて学園へ行くのだった。
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