上 下
117 / 132
第二章 宝探し

第114話 別れの刻

しおりを挟む
 時刻は十五時を過ぎた頃……大和も再び合流し、一頻り打ち上げを堪能した二年B組は、そろそろお開きと解散ムードに。
 あとは各々、二次会に行くなり帰宅するなりとグループに分かれ、ぞろぞろとエントランスの方へと集っていく。

 すると後方の階段から、見送りの為と渡も顔を出す。
 そのことに気付いた神田は、いの一番に声を張り上げると、

「おう、渡っ! 今日は世話になった! また明日な!」

 手を振りながら他の者にも渡の存在を周知させる。

「ありがとねー、渡くん!」
「また今度なんかあったら頼むわー!」
「じゃあなー!」

 神田に続き、満面の笑みで手を振ってくるクラスメイト。
 渡は何処か気恥しそうに「うん……」と手を振り返すと、レストランを後にする彼らを微笑みながら見送った。

 そして最後はいつものメンバー……

「ふぅー……食った食った。せやったらワシらも帰るわ。じゃあの、渡!」

 伍堂は腹をさすったのち、渡を見上げては片手を上げ、

「疲れてるからって明日サボるんじゃないわよー、渡!」

 藤宮も今や自然な笑みで手をメガホン代わりに。

「今日は御馳走様でした。また明日、学園で……渡くん」

 対して牧瀬は親しき中にも礼儀ありと、丁寧にお辞儀をしていた。

「ああ……また明日」

 渡はこみ上げてくる気持ちを精一杯抑え、今できる最大限の笑みで友人たちへと返す。

 確かな友情を肌で感じ、まさに一つとなった一行。
 となれば当然、幕引きを担うのはこの男……

「じゃあ、な……渡」

 しかし、行く末を知っているはずの大和から出たのは『また』という言葉。
 渡はポケットの中に入れていた左手を握り締めると、先程交わした『最後の約束』を思い返す。



 二時間ほど前――

「それが……君の願い?」

 と、珍しいジト目で大和を睨む渡。

「ああ。もちろんお前ならできるよな、渡?」

 しかし大和は全く気に留めず、依然として『口撃』モードを崩さない。

「君は僕を神様かなんかと勘違いしてないかい? あんまりいいように使われるのも嫌なんだけど……」
「オレはできるのかできないのかを聞いてるんだ。で? 答えは?」

 ここで溜息を一つまみ。渡はガクンと首を落とすと、頬をポリポリ掻きながら、何とか己が意見を絞り出す。

「まあ、やってみないと何とも――」
「じゃあ出来るな? は任せたぞ……渡」

 結果、渡は完全にペースを掴まれてしまい、口から出るのは「はい……」という白旗だけ。
 その姿を見て満足げに頷いた大和は、いきなり『永遠とわの指輪』を外すと、渡に向かって指で弾いてみせた。

「おっと……! これは……どう受け取ったらいいのかな?」

 渡は一応受け取るも、その真意が読めず、眉を顰めている。

「それは『永遠の指輪』だ。別に皆まで言わなくても分かるだろう?」
「……え? 愛の告白?」

 大和は珍しくズッコケつつ、「違うわアホ」と若干目に角を立てる。

「だって手に入れた経緯を考えたら、そう捉えるのも無理ないだろう? トレヴィの泉の言い伝えになぞらえるなら、『永遠』は大切な人とずっと一緒に居るってことなんだからね」
「そこをいい感じで受け取れって言ってんだよ。例えばその……オレらの友情は『永遠』だとか、離れててもずっと一緒だとか……」

 と、照れ隠しなのか、俯き加減で視線をそらす大和。
 そんな似合わぬもまっすぐな姿に、あの渡も思わず顔が綻んでしまっていた。

「君も案外、ロマンチストな奴だね」
「……ほっとけ」

 渡は口をすぼめた友の想いに頷くと、『永遠の指輪』を左中指にはめては、その隙間なく敷き詰められたダイヤを眺め遣る。
 黄金のアームは不思議と己が指にフィットしており、まるでオーダーメイドでもしたかのような付け心地だった。

「『永遠』、『別れ』、そして『再訪』か……。意味は違うけど確かに今の僕にはピッタリかもね」
「ああ。だが、やったわけじゃないぞ? 一旦、預けただけだ。だから必ず返しに来い……オレらのところに」



 現在――

 渡は交わした約束を胸に、ポケットの中に入れていた左手を今一度握り締め、空いていたもう片方の手で真なる友を見送る。

「ああ。ね……大和くん」

 大和は数瞬間を置いたのち、ゆっくり微笑んでみせると……小さく頷いた。

 もうこれ以上、言葉はいらない。振り返る必要も……
 大和はそう決意すると踵を返し、他のメンバーを引き連れ、まっすぐ新たな一歩を踏み出していく。

 次に会うのは……
 渡もそんな得も言われぬ感情に浸りつつ、左手を出しては『永遠の指輪』に視線を落とす。

 が、その直後――

「できない約束はするもんじゃねえなぁ……サブ」

 後方から強烈な怒気を纏う、『最凶』の存在が降臨してしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...