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第二章 宝探し
第112話 週一で打ち上げとか正直やってらんない
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学園外――
着替えを済ませた我々二年B組は、渡くんの行きつけとされる、打ち上げ会場へと足を運ぶ。のだが……私はまた、あの『たこ焼き屋』に連れて行かれるのではと今は戦々恐々している。
もちろん味は美味しいし、ラインナップも充実している。文句のつけようなど本当にないんだけど、如何せんあれは……『屋台』なのだ。クラスの打ち上げとして連れて行こうものならブーイングは必至。せっかく一つになったクラスに水を差したくないのだけど……
「ねえ? 大丈夫なの? アイツについてって……」
藤宮さんもそう思ったのか何時ぞやと同様、先導している渡くんを訝しげに見つつ、隣を歩く伍堂くんへと囁く。
「なんや? まーた心配しとんのかいな? 前回だってエエ店紹介してもろたやんけ」
「あれは店じゃなくて屋台でしょうが、屋台。なんか心なしか前回と同じ道順だし、この人数じゃどう考えてもキャパオーバーな気が……」
「安心せい。ワシの鼻が告げとる。あいつは――化物やってな」
藤宮さんは何も返さず、ただ伍堂くんをジト目で見つめている。
「……また信じとらんな?」
「うん。っていうかさ。化物だったら何だっていうの? 何か解決するの? この問題」
「……急にマジレスすんなや」
「ごめん……」
と、一旦沈黙する二人。
「まあ、あれや。取りあえずワシは鼻が利くっちゅうことだけ、今日は覚えて帰ってくれや」
「そう言うならせめて鼻が利いてるシーン、一回くらい見せてほしいもんだけどね」
「今だって利いとるで? 藤宮、今日えらい走ったやろ? 汗が三割、制汗剤が七わ――」
「女子高生の汗の匂いを嗅ぎ分けるなぁぁああああああッッ‼」
ゴチーン‼
パチーンではなくゴチーン‼ 藤宮さんの右ストレートが、容赦なく伍堂くんの頬へと突き刺さる。
「イッダァァアアッ⁉ お前っ……本気で殴ることないやろ⁉」
「うっさいボケェッ‼ 女子の汗の匂い嗅ぐ方が悪いんじゃ‼」
頬を押さえる伍堂くんに対し、鬼の形相で髪を逆立てる藤宮さん。
このままでは殺し合い(一方的)が勃発しそうな勢いなので、私が止めに入ろうとすると、「あ、着いたよ」と渡くんが絶妙なタイミングで指を差す。
我々は先程まで意気揚々とビル街を歩いていた。つい先週、歩いたビル街だ。
となると当然、案内されたのもあの場所。
しかし、示された場所には……前回無かったはずのレストランが建っていた。
「あれ? こないなモン、前にもあったっけか……?」
「いや、なかったはずよ……。だって前は……!」
そう。伍堂くんと藤宮さんの言う通り……つい数日前に打ち上げで来た時は、間違いなくぽっかりと空間が空いていたはず。まるで、そこだけ刳り抜かれたかのように不自然と。
でも今は英国風というか何というか……それはそれは立派なレストランが建っている。あの大和くんでさえ、呆然とする程のものが。
「さあ、行こうか。それとも……やめ――」
と、渡くんが手のひらでレストランへと――
「おお! すげえっ! めちゃくちゃ良さそうなとこじゃん! みんな行こうぜ!」
「「「「「おぉー!」」」」」
……誘う必要もなく、神田くんがみんなを引き連れ、レストランへと入店。
渡くんは手持ち無沙汰になった手を下げつつ、「じゃあ……入ろうか?」と苦笑交じりに残った我々を誘った。
◆
レストランの中は吹き抜けの開放感あふれるラウンジとなっており、ダークブラウンを基調とした非常に落ち着いた印象を抱かせる内装であった。
視界にはバラエティに富んだ料理がずらりと並んでおり、それらがビュッフェ台の上を美しく彩っている。どうやら今回の打ち上げはビュッフェスタイルらしい。
「おいおい、渡! これっ……全部食っていいのか⁉」
と、少々興奮気味に渡くんへと尋ねる神田くん。
「うん。今日は貸し切りだからね。お金のことは気にしなくていいから好きなだけ食べるといい」
「マジでか⁉ おい、みんな聞いたか! 今日、貸し切りだってよ! 食い放題だぞ、食い放題!」
神田くんの呼びかけに、
「すげえ! これ全部をか⁉」
「貸し切りって……実は渡って凄い奴?」
「もしかしてお金持ちだったりして……⁉」
みんなのテンションはまた一段と盛り上がり、各々好きな料理を取り始めていく。
笑顔、笑顔、笑顔……皆、楽しそうなのはとても結構なことなのだが、一つ気になる事がある。それは……シェフが一人もいないということだ。誰一人常駐していない。キッチンなんてがらんどうである。どうも異様な雰囲気だ。これはいったい……
「これもまた、あの兄貴分とやらの差し金か?」
そう渡くんに問うたのは隣に立つ大和くん。どうやら私たちの気持ちを代弁してくれたようだ。
「違うよ。今回は僕からのおもてなしさ。兄貴は関係ない」
「関係ないねぇ……。わざわざ兄貴分が出してた屋台の場所に、こんなドでかいモンぶっ建てたら、何かしら言ってきそうなもんだが?」
「それは君が心配することじゃない。僕の問題だ。そうだろう?」
視線を合わせぬ渡くんに、大和くんは「かもな……」と、何故かそれ以上を口にしない。
「まあ、ゆっくり楽しみたまえ。このビュッフェは……本日限りだからね」
そして渡くんはそう言うと、一人……二階に繋がる階段を上ってくのだった。
着替えを済ませた我々二年B組は、渡くんの行きつけとされる、打ち上げ会場へと足を運ぶ。のだが……私はまた、あの『たこ焼き屋』に連れて行かれるのではと今は戦々恐々している。
もちろん味は美味しいし、ラインナップも充実している。文句のつけようなど本当にないんだけど、如何せんあれは……『屋台』なのだ。クラスの打ち上げとして連れて行こうものならブーイングは必至。せっかく一つになったクラスに水を差したくないのだけど……
「ねえ? 大丈夫なの? アイツについてって……」
藤宮さんもそう思ったのか何時ぞやと同様、先導している渡くんを訝しげに見つつ、隣を歩く伍堂くんへと囁く。
「なんや? まーた心配しとんのかいな? 前回だってエエ店紹介してもろたやんけ」
「あれは店じゃなくて屋台でしょうが、屋台。なんか心なしか前回と同じ道順だし、この人数じゃどう考えてもキャパオーバーな気が……」
「安心せい。ワシの鼻が告げとる。あいつは――化物やってな」
藤宮さんは何も返さず、ただ伍堂くんをジト目で見つめている。
「……また信じとらんな?」
「うん。っていうかさ。化物だったら何だっていうの? 何か解決するの? この問題」
「……急にマジレスすんなや」
「ごめん……」
と、一旦沈黙する二人。
「まあ、あれや。取りあえずワシは鼻が利くっちゅうことだけ、今日は覚えて帰ってくれや」
「そう言うならせめて鼻が利いてるシーン、一回くらい見せてほしいもんだけどね」
「今だって利いとるで? 藤宮、今日えらい走ったやろ? 汗が三割、制汗剤が七わ――」
「女子高生の汗の匂いを嗅ぎ分けるなぁぁああああああッッ‼」
ゴチーン‼
パチーンではなくゴチーン‼ 藤宮さんの右ストレートが、容赦なく伍堂くんの頬へと突き刺さる。
「イッダァァアアッ⁉ お前っ……本気で殴ることないやろ⁉」
「うっさいボケェッ‼ 女子の汗の匂い嗅ぐ方が悪いんじゃ‼」
頬を押さえる伍堂くんに対し、鬼の形相で髪を逆立てる藤宮さん。
このままでは殺し合い(一方的)が勃発しそうな勢いなので、私が止めに入ろうとすると、「あ、着いたよ」と渡くんが絶妙なタイミングで指を差す。
我々は先程まで意気揚々とビル街を歩いていた。つい先週、歩いたビル街だ。
となると当然、案内されたのもあの場所。
しかし、示された場所には……前回無かったはずのレストランが建っていた。
「あれ? こないなモン、前にもあったっけか……?」
「いや、なかったはずよ……。だって前は……!」
そう。伍堂くんと藤宮さんの言う通り……つい数日前に打ち上げで来た時は、間違いなくぽっかりと空間が空いていたはず。まるで、そこだけ刳り抜かれたかのように不自然と。
でも今は英国風というか何というか……それはそれは立派なレストランが建っている。あの大和くんでさえ、呆然とする程のものが。
「さあ、行こうか。それとも……やめ――」
と、渡くんが手のひらでレストランへと――
「おお! すげえっ! めちゃくちゃ良さそうなとこじゃん! みんな行こうぜ!」
「「「「「おぉー!」」」」」
……誘う必要もなく、神田くんがみんなを引き連れ、レストランへと入店。
渡くんは手持ち無沙汰になった手を下げつつ、「じゃあ……入ろうか?」と苦笑交じりに残った我々を誘った。
◆
レストランの中は吹き抜けの開放感あふれるラウンジとなっており、ダークブラウンを基調とした非常に落ち着いた印象を抱かせる内装であった。
視界にはバラエティに富んだ料理がずらりと並んでおり、それらがビュッフェ台の上を美しく彩っている。どうやら今回の打ち上げはビュッフェスタイルらしい。
「おいおい、渡! これっ……全部食っていいのか⁉」
と、少々興奮気味に渡くんへと尋ねる神田くん。
「うん。今日は貸し切りだからね。お金のことは気にしなくていいから好きなだけ食べるといい」
「マジでか⁉ おい、みんな聞いたか! 今日、貸し切りだってよ! 食い放題だぞ、食い放題!」
神田くんの呼びかけに、
「すげえ! これ全部をか⁉」
「貸し切りって……実は渡って凄い奴?」
「もしかしてお金持ちだったりして……⁉」
みんなのテンションはまた一段と盛り上がり、各々好きな料理を取り始めていく。
笑顔、笑顔、笑顔……皆、楽しそうなのはとても結構なことなのだが、一つ気になる事がある。それは……シェフが一人もいないということだ。誰一人常駐していない。キッチンなんてがらんどうである。どうも異様な雰囲気だ。これはいったい……
「これもまた、あの兄貴分とやらの差し金か?」
そう渡くんに問うたのは隣に立つ大和くん。どうやら私たちの気持ちを代弁してくれたようだ。
「違うよ。今回は僕からのおもてなしさ。兄貴は関係ない」
「関係ないねぇ……。わざわざ兄貴分が出してた屋台の場所に、こんなドでかいモンぶっ建てたら、何かしら言ってきそうなもんだが?」
「それは君が心配することじゃない。僕の問題だ。そうだろう?」
視線を合わせぬ渡くんに、大和くんは「かもな……」と、何故かそれ以上を口にしない。
「まあ、ゆっくり楽しみたまえ。このビュッフェは……本日限りだからね」
そして渡くんはそう言うと、一人……二階に繋がる階段を上ってくのだった。
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