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第二章 宝探し

第102話 永遠へのカウントダウン

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 エリア⑨――

 突如、辺りへと響き渡る甲高い音……
 大和はその笛の如き音色に釣られ、反射的に上空を見上げた。

 視界には日中でも分かる程の赤光が、蛇のようにニョロニョロと蠢いている。
 暫ししてその『火』が臨界点に達すると、次の瞬間――耳を劈くほどの爆音が大輪となって『草創の森』上空へと咲き誇った。

「なんだ……コレ……?」

 さすがの大和もお口あんぐり。
 まるで閉会を祝う花火のようであったが、幸いまだレクリエーションは終わっていない。

「キャァアアアアアァァァァ……!」
「アアアアアアァァァァァァ……!」

 次いで悲鳴まで聞こえてくる。それも何処か聞き馴染みのある声。
 おまけに三つの影が空から落ちていく……。恐らく方角から見てエリア⑥のようだが……?

「お、おい……大丈夫か牧瀬……?」

 大和がデバイスにて語りかけると、

『あ……あぁっ……いっだぁぁ……あ……大丈夫、です……。なんとか、生きてます……。こちらはお気になさらず、先へ……』

 虫の息である牧瀬の声が届く。

「全然、大丈夫じゃなさそうだが……。まあ、無理はするなよ? 俺もそろそろ動く!」
『あ、はい……お気をつけて……』

 微かに笑みが宿る声に押され、大和は目の前のコインを二枚握り締めると、早々にエリア⑱へと走り出す。

「………………」

 そんな背を見送るは、一人残された葦原計都。
 その面持ちは先程とは打って変わり、酷く冷めたもの……

「青春ってやつかねぇ? ハッ……くっだらね。あんな『能力者ゴミ』共と相容れることなんかないっつーの……永遠にな」

 更にそう吐き捨てると懐からメリケンサックを出し、両手にはめては闇作りし森の中へと消えていった。

 その後、しばらくして一羽の鴉が宝箱へと降り立つ。
 鴉はキョロキョロ辺りを見回すと、コインをくちばしでつつき、、また空へと飛び立っていった……



 モニタリング室――

 ただ今の時刻、AM.11:39……
 これまでの展開、そして残り時間も相まってか、教員たちは嘗てない盛り上がりを見せていた。

「いやぁ~、まさかこんな展開になるとは……!」
「音声トラブルが悔やまれますね~。まだ直んないのかな?」
「でもでも、レクリエーションがこんなに盛り上がってるのなんて初めてです!」
「凄いじゃないですか、滝先生!」

 又もやガタイのいい体育教師に背中を叩かれ、滝は「あはは……どうもどうも……」と苦笑いでお茶を濁す。

(でも本当に凄いわ、あの子たち……。ミーティングしてた時は正直、どうなるかって心配してたけど……今はみんな手を取り合い、優勝に向かって走ってる。これなら本当にもしかしちゃうんじゃ……?)

 だが、その心には紛れもなく、熱い想いが滾っていた。

「宝探しも佳境ですね……景川会長?」

 満足げに口元を綻ばせるは中央で踏ん反り返る王……烏間久からすまひさし
 前方に立っていた景川は肩をビクつかせ、「そ、そうですね……」と無理くり浮かべた笑みと共に振り向く。

「単体性能もさることながら他者を動かす力もある。いい駒も揃ってるようですし、引き込めれば相当な力となるやも……? やっぱり欲しいなぁ……アレ」

 顎先をさする烏間は暗に、『さっさと手に入れろ』と催促しているよう。景川にはそう……聞こえた。

「はい……必ずや……」

 ゆえに景川は周りに怪しまれぬよう、若干伏し目がちに頭を下げた。



 『時戒室』――

 レクリエーション開始から二時間半が過ぎ、教員たちの興奮冷めやらぬ中……佐藤の精神はもう既に限界に達していた。

「いやぁ~、美しい! なんと美しい絆でしょう! 『裏切り者』の烙印を押され、クラスから爪弾きにされた少年も、今や優勝の為に皆と一致団結している! これこそ学生のあるべき姿! レクリエーションの狙いです! しかし、ちゃーんと伏線張ってましたねぇ~! 偽物の大和さんが! あのキャラクターがあったからこそ、クラスメイトの心を開けたんです! それを利用する牧瀬さんも中々に強か! 素晴らしい! もう優勝です! 優勝!」

 と、相変わらずスティックバルーンを握り締め、年甲斐もなくポンポン叩く不時之。
 
 不時之はまだいい。こういった時空間に慣れているから。
 だが、佐藤のような常人は違う。滞在する時間が長ければ長いほど、そのまま精神汚染に直結する。

 もはやこれはパワハラではない。スーパーパワーハラスメントなのだ!

(ゔぅぅ……くどいッ……! なんでこの人、観戦エリアまで覗いてんの⁉ どうゆう原理⁉ もう二時間半、ずーっと解説してるし! 頭もぐるんぐるん回って吐き気もするッ! でも、喉につっかえてるような感じで、全く出る気配がない! いっそ吐けたら楽なのにぃ……やっぱおかしいよ、この空間ッ……!)

 佐藤は頭を抱えながら、涎と涙を永遠に垂れ流し続けている。ちなみに開始二十分くらいで、もうこの状態だった。

(もう優勝とかどうでもいいっ! 不摂生な生活、改めます! キャバクラのはしごもやめます! リモコン、足で取りません! だからっ……だから解放してくれぇぇぇえええッッ‼)

 佐藤の受難が終わるまで、残り――21分。
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