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第二章 宝探し
第96話 蹂躙せし侵略者
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大和と渡は意を決し、扉の先へと抜ける。
すると、そこには――鬱蒼とした森が広がっていた。
正直、この景色はどこへ行っても変わらない。これでは転移できたかどうかの判断がつかないため、大和はすぐにデバイスのマップを開く。
エリア⑨――
スクリーンには間違いなく、そう表示されている。
重ねて自分の位置情報もエリア⑨にて点滅していた。
「どうやら転移できたようだね。ま、確かめるまでもなかったようだけど……」
横につく渡の言葉に誘われ、大和も辺りへと視線を巡らす。
気付けば前方の木々から制服を纏う、多数の生徒が姿を現し始めていた。まるで大和たちを待ち構えていたかのように……
「ようこそ、大和慧くん。葦原さんがお待ちです」
と、センターに立っていた眼鏡の男子生徒が一歩前に出る。どうやら葦原のクラスメイトのよう。
「わざわざこんな数揃えてお出迎えなんて……ただで通す気はなさそうだな?」
大和はポーカーフェイスを維持するが、その額には焦燥感を表す汗が滲む……
「もちろん。『風紀委員に入るならこの程度、乗り越えてみせろ』とのことです。なので僭越ながら我々がそのお相手を……」
眼鏡の男子生徒が行儀良く頭を下げる中、他の生徒たちは逃げられぬようにと、ゆるり……ゆるりと周囲を囲んでいく。
「ちっ……計画通りにいかないもんだな……」
視線を左右に行き来させつつ、後退る足が止まらない大和。
「計画って?」
対して渡は、いつものスタイルで一歩も動いていない。
「本来なら、ここで伍堂に出張ってもらうつもりだった。あいつなら多人数相手でもやれると実証済みだからな。だが、樫江田の所為でその計画も狂っちまった……」
「なるほど。確かに彼なら適任だ。今からこの人数を全部捌いてたら、優勝どころか葦原くんの下にさえ辿り着けないだろうしね。……よし、わかった。じゃあここは僕が引き受けよう」
「――ッ⁉ お前が……?」
と、振り向き様に微笑む渡に、大和の足がピタリと止まる。
驚いたというのも無論、間違いではない。だが、どちらかというと同時に生まれた『安心感』の方が勝っていた。
「うん。僕も一度やってみたかったんだよね。『ここは任せて先に行け』ってやつ」
「……まさか、それで殿とか言ってたのか?」
「本当は僕が行こうと思ってたんだけど、先取られちゃったからさ。でも、残り物に福があるってのは本当だね……」
そう言って前へ向き直る渡の横顔には、一瞬だけ『蹂躙』の二文字が浮かび上がっているように見えた。
大和の脳裏にはあの時見た夢がフラッシュバックし、燃え盛る学園の頂点に君臨する侵略者の姿が蘇る。
先程までの『安心感』はいつしか『恐怖』に飲み込まれるも……今はそれが味方。これほど頼りになる者はいない。大和は後退った身体を前へと押し進めた。
「……やれるのか? 一人で?」
「まあ、できるだけ頑張ってみるよ。君はそのまま、まっすぐ走っていくといい。……道は僕が作る」
まっすぐ指を差す渡に、大和は「わかった」と小さく頷く。もはやそれ以上、言葉は必要なかった。
「話は纏まりましたか? では……そろそろ行きますよッ!」
センターの男子生徒が眼鏡を上げ、手のひらを構えた瞬間――大和は隣立つ渡を信じ、一気に走り出す。
本来であれば一クラス分の能力者に囲まれた時点で死刑宣告と同義。逃げ切ることは不可能だろう。
だが、バックについているのは、あの渡サブロウ……。見開いた目が真っ赤に光るや否や、人間業とは思えないほど不規則且つ高速に動き出すと――この世の異能は、全て無に帰ってゆく。
「――ッ⁉ 能力が使えない……⁉」
まるで壊れた携帯を覗き込むかの如く、敵勢は一様に己が手のひらに視線を落とす。
大和もその奇怪な状況を訝しむも走る足は止めず、木々を利用しながら迫りくる敵勢を躱し、敵陣を難なく突破。
「誰か止めなさい! 簡単に葦原さんの下へ行かせるなッ!」
と、逃げるその背に眼鏡の生徒が指を差す――が、その指した先には蹂躙せし侵略者、渡が舞い降りてしまう。
まるでその姿は王を守る騎士が如し。大和はそのまま闇の中へと消えていき、立ち塞がる不気味な男を前に敵勢の足が止まる。
「悪いね。この世界の能力は既に『コード』へ変換済みだ。全部、頭に叩き込んである。もう能力は使えない」
渡は蟀谷を指でつつくと、意味深な言葉と共に肩を竦めてみせる。
「何を……言って……?」
先程まで冷静沈着だった眼鏡の生徒も、今や超常の存在を前に顔を引き攣らせ、他の生徒も身体が勝手に後退っていた。
「たまには運動するのもいいんじゃない? って意味。僕もそろそろ体を動かしてシェイプアップしておかないと……娘に嫌われちゃうんでね」
すると、そこには――鬱蒼とした森が広がっていた。
正直、この景色はどこへ行っても変わらない。これでは転移できたかどうかの判断がつかないため、大和はすぐにデバイスのマップを開く。
エリア⑨――
スクリーンには間違いなく、そう表示されている。
重ねて自分の位置情報もエリア⑨にて点滅していた。
「どうやら転移できたようだね。ま、確かめるまでもなかったようだけど……」
横につく渡の言葉に誘われ、大和も辺りへと視線を巡らす。
気付けば前方の木々から制服を纏う、多数の生徒が姿を現し始めていた。まるで大和たちを待ち構えていたかのように……
「ようこそ、大和慧くん。葦原さんがお待ちです」
と、センターに立っていた眼鏡の男子生徒が一歩前に出る。どうやら葦原のクラスメイトのよう。
「わざわざこんな数揃えてお出迎えなんて……ただで通す気はなさそうだな?」
大和はポーカーフェイスを維持するが、その額には焦燥感を表す汗が滲む……
「もちろん。『風紀委員に入るならこの程度、乗り越えてみせろ』とのことです。なので僭越ながら我々がそのお相手を……」
眼鏡の男子生徒が行儀良く頭を下げる中、他の生徒たちは逃げられぬようにと、ゆるり……ゆるりと周囲を囲んでいく。
「ちっ……計画通りにいかないもんだな……」
視線を左右に行き来させつつ、後退る足が止まらない大和。
「計画って?」
対して渡は、いつものスタイルで一歩も動いていない。
「本来なら、ここで伍堂に出張ってもらうつもりだった。あいつなら多人数相手でもやれると実証済みだからな。だが、樫江田の所為でその計画も狂っちまった……」
「なるほど。確かに彼なら適任だ。今からこの人数を全部捌いてたら、優勝どころか葦原くんの下にさえ辿り着けないだろうしね。……よし、わかった。じゃあここは僕が引き受けよう」
「――ッ⁉ お前が……?」
と、振り向き様に微笑む渡に、大和の足がピタリと止まる。
驚いたというのも無論、間違いではない。だが、どちらかというと同時に生まれた『安心感』の方が勝っていた。
「うん。僕も一度やってみたかったんだよね。『ここは任せて先に行け』ってやつ」
「……まさか、それで殿とか言ってたのか?」
「本当は僕が行こうと思ってたんだけど、先取られちゃったからさ。でも、残り物に福があるってのは本当だね……」
そう言って前へ向き直る渡の横顔には、一瞬だけ『蹂躙』の二文字が浮かび上がっているように見えた。
大和の脳裏にはあの時見た夢がフラッシュバックし、燃え盛る学園の頂点に君臨する侵略者の姿が蘇る。
先程までの『安心感』はいつしか『恐怖』に飲み込まれるも……今はそれが味方。これほど頼りになる者はいない。大和は後退った身体を前へと押し進めた。
「……やれるのか? 一人で?」
「まあ、できるだけ頑張ってみるよ。君はそのまま、まっすぐ走っていくといい。……道は僕が作る」
まっすぐ指を差す渡に、大和は「わかった」と小さく頷く。もはやそれ以上、言葉は必要なかった。
「話は纏まりましたか? では……そろそろ行きますよッ!」
センターの男子生徒が眼鏡を上げ、手のひらを構えた瞬間――大和は隣立つ渡を信じ、一気に走り出す。
本来であれば一クラス分の能力者に囲まれた時点で死刑宣告と同義。逃げ切ることは不可能だろう。
だが、バックについているのは、あの渡サブロウ……。見開いた目が真っ赤に光るや否や、人間業とは思えないほど不規則且つ高速に動き出すと――この世の異能は、全て無に帰ってゆく。
「――ッ⁉ 能力が使えない……⁉」
まるで壊れた携帯を覗き込むかの如く、敵勢は一様に己が手のひらに視線を落とす。
大和もその奇怪な状況を訝しむも走る足は止めず、木々を利用しながら迫りくる敵勢を躱し、敵陣を難なく突破。
「誰か止めなさい! 簡単に葦原さんの下へ行かせるなッ!」
と、逃げるその背に眼鏡の生徒が指を差す――が、その指した先には蹂躙せし侵略者、渡が舞い降りてしまう。
まるでその姿は王を守る騎士が如し。大和はそのまま闇の中へと消えていき、立ち塞がる不気味な男を前に敵勢の足が止まる。
「悪いね。この世界の能力は既に『コード』へ変換済みだ。全部、頭に叩き込んである。もう能力は使えない」
渡は蟀谷を指でつつくと、意味深な言葉と共に肩を竦めてみせる。
「何を……言って……?」
先程まで冷静沈着だった眼鏡の生徒も、今や超常の存在を前に顔を引き攣らせ、他の生徒も身体が勝手に後退っていた。
「たまには運動するのもいいんじゃない? って意味。僕もそろそろ体を動かしてシェイプアップしておかないと……娘に嫌われちゃうんでね」
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