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第二章 宝探し

第94話 誰が為に拳を振るうか

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 拳を振りかぶり、その勢い止めぬまま羽ばたく伍堂。
 捨て身すぎる行動ゆえか一瞬反応が遅れ、樫江田の顔面には渾身の一撃が突き刺さってしまう。

「――ッ⁉」

 結果、樫江田は数メートル後方の木へと吹き飛ばされ、伍堂もバランスを崩し、転がるようにその場でうつ伏せになった。

「いっでぇぇ……‼ 相変わらずバケモンみてえな力してやがるッ……!」

 横たわる樫江田は痛みに顔を歪め、血が出ていないにもかかわらず、反射的に口端を拭ってしまう。

「へっ……そうや……ワシはバケモンや。やーっと思い出したんかい?」

 対して伍堂はニヤケ面を浮かべつつ、体を押し上げては片膝立ちの体勢へ。

(チッ……今の一撃でだいぶ削られたな……。あと二三発くらったら間違いなく耐久力は0。失格になっちまう。幸いアイツも、もう虫の息だ。ここは早めに決着けりつけねえと……!)

 と、樫江田は己が腕の赤い光が薄れているのを確認しつつ、伍堂の周辺へと視線を巡らせながら力を飛ばす。

(『媒体』は……あった! これで――)

 樫江田は『媒体』を感知し、すぐさま能力を発動しようと試みる。が――

「甘いで! もうそれは見切ったわ!」

 伍堂は樫江田の瞳孔が開いたことにいち早く気付き、『媒体』の射程圏外から即座に退避。近場にあった木の陰に身を隠してしまう。

「クソッ……! 逃げてんじゃねえタコがッ!」

 痛みに耐えつつ立ち上がり、苦し紛れの悪態をつく樫江田。

「別に逃げとるわけやない。お前の『媒体』がなんが分かったから、その攻撃を回避しただけや。どや? 当たっとるやろ?」
「おいおい、なんだぁ? あのクソガキの真似事でもするつもりか?」
「ちゃうちゃう。ワシのやり方は専ら拳や。安心せい。ただ、さっきお前が『まっすぐすぎ』言うたからのう。せやから、ちーとばかし頭使ただけ。戦いの中で成長するっちゅうやつや!」

 そう言うと伍堂は背を預けていた木に手を回し、ミシミシと絞めつけるような音を奏でながら、抱き上げるように――

「おいおい、冗談だろ……」

 大木を引き抜いてみせた。

「うぉぉおおおおりぃやぁあああああッッッ‼」

 さらに伍堂は大木を肩に担ぐと、雄叫びと共に思いっ切り振り被り、樫江田の下まで投擲。
 しかし、避けきれないスピードではなく、あっさりと樫江田に躱され、ただ木と木がぶつかり合う轟音だけが辺りに響き渡った。

「ハッ、何をするかと思えば……。木を投げつけるのがお前の作戦か? その程度で俺は……」

 だが突如、軋むような音が耳に届き、振り返る樫江田。
 先ほど投げられた大木……どうやらその木が別の木と接触した衝撃で切れ込みが入り、倒れていく音のよう。

 それだけなら、さして問題はなかった。
 問題なのは木が倒れたことにより、今まで隠れていた――

「――ッ⁉」

 がでることだった。

「伍堂ォ……テメエェ……!」

 樫江田はすぐさま他の木陰に退避。射るような目で伍堂を睨みつける。

「お前、初めて会うたときから、ずーっと『日傘』持っとったもんなぁ? そんだけ大事そうに抱えとったらサルでもわかる。お前が『太陽』のこと、ごっつう苦手っちゅうことがな? つまり、こういうこっちゃ。ここにある木、ぜーんぶ倒せば……お前はもうワシには手が出せんくなる。終わりちゅうわけや」

 どこか『口撃のヤマト』みたく、持てる手を展開していく伍堂。
 両手を広げながらほくそ笑む様を見るに、この男もまた『暴露』の魅力に取り憑かれつつあるのかもしれない……

「ハッ……何が『その想いを受け止める』だ? 逃げる気満々じゃねえか!」
「せやから、そうなる前に真っ正面から掛かって来いっちゅうとんねん。一発や……あと一発で終わりにしたるさかい」

 口端をクイッと上げ、自信満々に人差し指を立ててみせる伍堂。
 対して樫江田は、それをへし折らんと今一度鼻で嗤い返す。

「それは結構なことだが、髪の毛ってのは日に50~100本、抜け落ちると言われている。当然、今みたいに激しく動けば……」
「何――ッ⁉」

 指を差された伍堂は即座に髪の毛を落とさんと己が肩をはたく! が――

「――嘘だ、ボケ」

 それは樫江田のフェイクだった。

 樫江田は自分の手にワイヤーを装着すると、日傘を差しながら伍堂の死角へと回り込むように宙を舞い、その勢いのまま後頭部へ水平蹴りを繰り出す。

「ぐ――ッ⁉」

 結果、避ける間もなく伍堂の頭には衝撃が加わり、スーツの耐久力がほぼ空に。
 そして、同時に髪の毛が数本落ちたことも樫江田は見逃さなかった。即時、能力を展開し、伍堂の背にワイヤーを取り付ける。

(終わりだ、伍堂。このままお前を上空30メートルまで吊り上げる。そこから落とせば、いくらお前でも無傷では済まないだろう。これで俺の勝ち――)

 と、樫江田は脳内での確信にキラリと歯を覗かせた。
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