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第二章 宝探し

第92話 悪夢のような真実

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 大和に異能名を名指しされ、四十九院の身体からは光の粒子が溢れていく。
 それ即ち『暴露』の成功を意味しており、深緑の葉が宿る木々へ舞っていくと、異能は名残惜しむことなく女王との決別を迎えた。

 四十九院も己が内から力が抜けたことを悟り、その場にへたり込んではわんわんと泣き出す。

「はぁ~……これが『暴露』かぁ……! 気持ちイイィィ……」

 大和は大和での感覚に天を仰ぎ、恍惚な表情を浮かべていた。

 今まで支配を受けていた女子生徒たちも、本来なら今まで受けた屈辱を返したかったことだろう。
 しかし、恥も外聞もなく泣いている少女の姿を前に、いつしかその気持ちも消え失せてしまったようだ。今はただ、同情の視線を送るだけ。

「お疲れ様でした。大和さま」

 と、水間寺は今なお酔いしれ中の大和に傍らに立つ。

「ん? あぁ、そっちこそお疲れ様。助かったよ色々と」

 大和はもう満足したのか最後、「……あとはお好きに」と耳元で囁いたのち、スキップで『草創の森』を去っていった。

 水間寺は見送ることもせず咳払いで済ませると、今までにない神妙な面持ちで主の下へ。

「星花さま……」

 そう水間寺がしゃがみ込むと、

「杏奈ぁ……!」

 四十九院は彼女に抱きつき、また滂沱の涙を流し続ける。
 そんな主を水間寺も強く抱きしめ、落ち着かせるように頭を優しく撫でていく。

「大丈夫……大丈夫ですよ……」
「わたくしっ……わたくし、これからどうしたらぁ……」
「安心してください。私も一緒の学校に行きます。常にお傍におります。ずっと……」
「杏奈っ……! ありがとう、杏奈ぁっ……! 杏奈ぁあぁあぁぁ……!」

 水間寺の胸に顔を埋める四十九院。
 行き別れた母との再会を喜ぶが如き涙を、水間寺はただ慈愛に満ちた笑みで包み込む。

(そう……ずっと一緒……。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーっと……一緒。だからね、星花さま……? もう他の女の子のこと見ちゃダメですよ? 私が一番……私だけを見ててください。貴女の全てはもう……私のもの)

 その隠し続けている歪んだ愛を悟られぬように……



 エリア⑦――

 立ち塞がった樫江田を伍堂に任せ、大和と渡は更にエリアを南下。
 暫し走ったところで大和は足を止め、乱れた呼吸を整えながら後方の渡を見遣る。

「ここまでくれば、もう大丈夫だろう……」

 対して渡はまるで息が上がっておらず、「ここは?」といつもの如くポケットに手を入れてみせる。

「三年A組の陣地……あの景川が在籍するクラスのエリアだ。ここならしばらく休めるだろう」

 と、大和は傍らにあった木に腰を下ろし、背を預ける。

「まあ、彼女ならもうおイタしないだろうしね。悪くない考えだ」

 渡も意見を尊重するように頷くと、大和の対面にある木へと寄りかかった。

「………………」
「………………」

 レクリエーションが始まって以降、初めての休息。
 鳥のさえずりが耳に届く程の沈黙が、二人の間に流れる……

 だが、体は休めても気の方は休まらない。
 なんせ目の前にいるのは――

「この世界を蹂躙しに来た外星人だから……とか思ってる?」
「――ッ⁉」

 大和はいつものポーカーフェイスを忘れ、眼前で見下ろす『外星人』へと目を見開いてしまう。

「言っとくけど、あれは兄貴の冗談だからね? 君たちは兄貴のに騙されただけさ」
「まだ惚ける気か? お前たち二人は明らかに……常軌を逸している」

 若干、身構える大和に渡は呆れたような笑みを見せると、木々の隙間から差し込む日の光を見上げる。

「一つ話をしようか?」
「話……?」
「うん。ある世界のお話。その世界は能力を持つ者と持たざるもので二分されていてね。二分した理由は二つ。一つは他世界と同盟を結ぶのに、持たざるものが用いられたから。空っぽの方が色々詰め込めるとかで意外と人気らしい。そして、もう一つは……人の中にある『守る』という感情を刺激する為だった」

 渡から発せられた突飛出た話に、大和は「守る……?」と思わず顔を顰めてしまう。
 それは滲み出た冷や汗による嫌悪感の所為ではない。明らかにの話を持ち出していたからだ。

「人ってのは守るものがあると強くなる。赤ん坊然り、子供然り……愛する者たちの為なら幾らでもね? だから能力がある者は、より持たざる者を守る為に力を振るう! ……この世を管理している者は、それも狙いだったんじゃないかな?」
「でも、そうはならなかった?」
「そう。待っていた結末は――差別だった。持つ者が持たざる者を迫害し、暴力や殺人を以て弱者を制する世界。結果、この世界の進化は止まり、外からの侵入を許してしまいましたとさ。めでたしめでたし……」

 大和は言葉を失っていた。もし今語られた話が真実なら、蹂躙されても文句は言えなかったからだ。余所からすればこれほど醜いものはない。潰したところで恐らく罪悪感も生まれないだろう。ひょっとしたら『異能狩り』のような存在だって生まれなかったかもしれない……

「今の話を聞いてどう思った?」

 と、渡が見上げていた顔を元に戻す。

「どうって……」
「なんじゃそりゃって感じでしょ? 少しは僕の気持ちも分かってくれたかな?」
「……まさか、夢とでも言うつもりか?」
「そう! 君と同じ、夢の話さ。不毛だったろ?」

 まるで悪戯っ子のように、くしゃりと笑ってみせる渡。
 そんな至って普通な彼を見てもなお、大和は気を抜くことができなかった。口元を緩められるほど楽観的でもない。

「とても冗談を言っているようには見えなかったが?」
「僕が言いたいのは、そんな本気にならないでくれよってことさ。だって君にはやることがあるんだろ? くだらないことにうつつを抜かしている暇はないんじゃない?」

 これ以上、踏み込んでも無駄。どうせまた躱される。そう思った大和は観念し、またぞろ重くなった腰を上げる。

「……そうだな。なら探すぞ、渡。葦原へと繋がる『アイテム切り札』を。お前も今はこっち側なんだ。文句は言わせないぞ?」
「もちろん。仰せのままに……」

 対して渡は胸に手を当てると、不敵な笑みと共に頭を下げた。
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