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第二章 宝探し

第88話 殿に咲く魔女

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 無事、当たりの宝箱を引き当て、お助けアイテムである『復活の十字架』を入手した大和御一行。
 その後も仮定した法則に誤りがないかを確かめんと、別の宝箱で検証したところ……どうやら『イタリアの歴史理論』で間違いないと判明した。

 こうして『約束』は果たされ、御門は満足げに同盟相手へと拍手を送る。

「流石ですね、大和先輩。噂に違わぬ知将っぷり、御見それいたしました」

 しかし、当の大和はどこか不服げで、若干半目がちに御門を見据えていた。

「そうか? 正直、お前一人でもやれたような気がするが?」
「それは結果論ですよ、大和先輩。今回は大したことありませんでしたが、もし間違えようものなら信頼を失ってしまう。これからクラスの頂点に立つ以上、それは避けたい。だから同盟を受け入れたんです。僕は先輩と違って、嫌われるのは御免なのでね」

 大和は一つ溜息をつき、「あっそ……」と御門の髪をわしゃわしゃする。

「ならオレに嫌われないために、もう一つ頼みを聞いてくれるか?」
「……頼む人の態度ではありませんね。橋本先輩のことですか?」

 ジト目で睨む御門の言葉に、橋本は「え……?」と目を見開く。

「ああ。彼女はここまでだろう。終わるまで匿ってやってくれ」

 大和からの気遣いに橋本は、

「わ、私は大丈夫だよ……! だってまだ……全然、役に立ててないし……」

 ふらつく足取りで詰め寄り、顔を俯かせる。

「橋本さんのお陰でエリア内にある宝箱のおおよその位置は掴めた。法則も判明した今、御門のエリアはほぼ安泰と言っていいだろう。充分、役目は果たした。そうだろう、御門?」

 問われた御門は「ええ」と腕組みし、これまた気遣ってるのか口端に少しの笑みを浮かべてみせた。

「そういうわけだから橋本さん。君は休んでてくれ。あとは……オレたちがやる」

 大和の一言に藤宮、伍堂、渡も想いは同じと頷いてみせる。

 『役目を果たした』。その一言で報われたのか、橋本は暫し悩んだ末――

「……わかった。みんな……あとはお願いね?」

 と、小さく頷き返し、今できる精一杯の笑みで送り出した。



 御門たちと別れを済ませ、西南方向へ歩を進める大和たち。
 道中、エリア④の封鎖と失格者が通知されたが、伍堂は特に気にすることもなく、寧ろ爆笑していた。

 そんな中、藤宮はせめて『Turritopsisツリトプシス』に走る赤いラインが目立たぬようにと、己が体を抱きながら先導する大和へと尋ねだす。

「ねえ、慧? 今、どこに向かってるの?」
「エリア⑯だ」

 と、大和は前を見たまま端的に返す。

「エリア⑯? それって確か……あの葦原っていう風紀委員長がいるエリアよね? まさか、本当に助けを乞う気?」
「当たらずとも遠からずだが、お前が考えていることとは恐らく違う。心配するな」

 すると伍堂も咥え煙草(火無し)で大和へと疑問を投げかける。

「せやけど、兄弟? 内周エリアには、まだ四十九院の残党がおるやろ? あんま行かん方がええんとちゃうか?」
「かもな。だが、別にお邪魔しようってんじゃない。あくまでも様子を窺うだけだ。オレの予想じゃ奴は……」

 大和の予想が当たったのかどうか……。直後――

 ビィィイイーッ‼ ビィィイイーッ‼ ビィィイイーッ‼ ビィィイイーッ‼

 遠方からけたたましい警告音が耳に届く。

『みなさん、お疲れ様です。生徒会長の景川士かげかわつかさです。また戦況に変化がありましたので、ご報告させていただきます。時刻十時八分、エリア⑯にて宝箱が開けられぬまま、十分の経過を確認いたしました。ルールにのっとり、同エリアを封鎖とします。なお、失格者はいませんので、引き続きレクリエーションをお楽しみください。以上で戦況報告を終わります』

 次いで景川からの放送により、無慈悲にもエリア⑯の封鎖が言い渡される。

 再び静けさを取り戻す『草創の森』……
 目指していた矢先でこの展開はあまりに唐突で、伍堂は放心したまま咥えていた煙草をゆっくり外した。

「おいおい……こりゃ、どういうこっちゃ? 葦原のシマ、なくなってしもうたやんけ?」

 続けて藤宮も、

「しかも失格者も無しって……全員で移動したってこと? なんで……?」

 と、眉を曇らせ、後方で佇む渡へ疑問を口にする。

「問題はそこではなく、タイミングの方だと思うけどね。ねえ……大和くん?」

 渡はというとポケットに手を入れたまま、どこか達観とした視線を先頭の大和へと送っている。

「ああ。どうやら此方の動きは読まれているらしい。いい流れだ」
「いい流れって……どういうことよ、慧⁉ アンタまさか、またなんか隠し事してるんじゃないでしょうね⁉」

 しかし、当の大和は相も変わらず、一人ほくそ笑むだけ。
 藤宮は流石に我慢の限界と、むっつり男に詰め寄っては、腕を掴むなり体をぶんぶん揺すりだす。

 伍堂もその真意を問いたかったが、そのような『暇』が無いことを、持ち前の嗅覚で察知してしまう。

「おい、藤宮! イチャついとる暇はないようやで? 見てみい……」

 藤宮を含め、他二人も顎で指し示された先を見遣る。
 伍堂の言う通り、眼前の木々からは多数の女子生徒が姿を現し、囲むでもなく、ぞろぞろと集いだしていたのだ。

「こいつらってまさか……?」
「ああ。四十九院の残党だろう。面倒なことになった……」

 藤宮が制服を握り締める中、大和は溜息交じりに蟀谷を掻く。

「ワシら、葦原に嵌められたんかのう?」

 伍堂は残党から決して目を離さず、煙草を内ポケットにしまいながら、兄弟へと問う。

「というよりも、ただ単に待ち伏せされただけだろう。わざわざ四十九院と組むとは思えんしな」

 大和も敵影を目で数えつつ、冷静に状況を分析。

「残りあと二時間。ここで足止めを食らうのは効率的じゃないね。誰かが殿しんがりを務めた方がいいんじゃない?」

 続く渡の一言に、全員が顔を見合わせる。
 こういう時、いの一番に声を上げるのが、

「せやったらワシが……!」

 そう。伍堂である。しかし、今回は――

「――いいえ!」

 違った。

 前へ出たのは殿に咲く一輪の花ではない。
 嘗て来たりしもの全てを迎え撃ち、誰一人として触れること叶わなかった『邀撃の魔女』――

「アタシが行くわ!」

 藤宮香音だった。
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