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第二章 宝探し
第72話 目指すは高みの二文字
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翌日――
我々、二年B組は午前の授業を終えたのち、LHRを使って『宝探し』の作戦会議をすることになった。
滝先生が横で見守る中、大和くんは一人壇上に上がり、昨日聞いたであろうルールを皆に説明する。
①制限時間は九時から十二時までの三時間。
②参加者は全員『Turritopsis』を着用。耐久力が0になった瞬間失格。
③箱の中身はお助けアイテムが二割、ポイント七割、『永遠の指輪』が一割の比率でエリアにばら撒かれている。
④その中から宝である『永遠の指輪』をはめた者、並びにクラスが優勝となる。
⑤お助けアイテムの執行権限は総大将のみ。
⑥宝の中身を見分ける方法はあるが、詳細は不明。
⑦エリアにはそれぞれ100ポイントが設けられており、それが0になった瞬間エリアは消失。且つそのエリアに滞在していた者を問答無用で失格とする。
⑧十分に一つ宝箱を開けないと、そのエリアは消失する。
⑨消失したエリアに『永遠の指輪』が存在していた場合、別エリアへと転送される。
⑩他クラスの排除は禁止されていない。
要約するとだいたいこんな感じである。
これを聞いたクラスの反応は……
「はあ⁉ 何だよこれ? 去年と全然違うじゃないか⁉」
「前はもっと楽だったのに……。マジサイアクー……」
「こんなん生き残れる奴いんのかよ……?」
まあ……そうなるよね。
今回のルールは前年度に比べて明らかに難易度が増している。前回のはなんていうかこう……だらけきっていた。全体的に。その反動からか、今年のはレクリエーションというよりも、どこか試験に近い感じがする。正直言って私も異議を唱えたいところだ。
「文句言うな。こうなったのは真面目に取り組まなかったお前らの責任だ。恨むなら去年の自分を恨むんだな」
大和くんからの正論に、ざわついていた室内は一手に沈黙。
窓際に寄りかかっていた滝先生は、腕を組みながらうんうんと頷いていた。
「さて、舞台となる『草創の森』ではエリアが二十一に分けられている。それぞれには番号が振り分けられていて、その一つ一つに総大将が陣取るというルールだ。こんな風にな」
そう説明しながら大和くんは黒板に絵を描いていく、のだが……何て言うんだろう……凄く独創的な絵だ。多分、森が舞台だから一生懸命、木を描いてるつもりなんだろうけど……もう花火みたいなのがいっぱい上がっててお祭り状態だ。
(ヘタだ……)
(めっちゃヘタだ……)
(三歳児のクオリティじゃん……)
(あいつにも苦手なことあるんだな……)
(ヤバい……。ギャップでちょっとキュンとしちゃった……)
恐らくみんなも気持ちを同じくしていることだろう。滝先生も微妙な顔をしてらっしゃる。
しかし、当の大和くんはその出来栄えに大満足のようで、小刻みに頷いては何処かご機嫌にチョークを置いた。
「これを見ても分かるように中心に向かって渦を巻くように数字が大きくなっている。当然、中心に行けば行くほど危険度は増していくというわけだ」
うん。まあ、わかる。……ギリギリ。
「そして、この番号決めが昨日の集会で行われた。それを今から発表する。オレが引いたのは――㉑番だ」
大和くんが㉑と刻まれた紙をみんなに見せると――
「ふざけんなぁぁぁああああああ‼」
「何してくれちゃってんだよぉ、お前っ‼」
「もう完全に終わりじゃない‼ 私たち‼」
「余計なモンばっか持ってくんなっ‼ 疫病神ィ‼」
もう一斉に立ち上がっては非難囂囂。クラス内はもう滅茶苦茶だ。
「こーら‼ 騒がないの‼ 落ち着きなさぁーいっ‼」
滝先生が必死に収めようとする一方、大和くんは相変わらず眉一つ動かさない。この巻き込まれる感じも、もはや様式美である。
「いい加減にしないか‼ お前たちっ‼」
そんな中、机をバンと叩き、一際大きな声で立ち上がる生徒が一人いた。
その一声に周囲は押し黙るも、何故か私の身体には妙な悪寒が走り、まるで部屋の隅にGでも見つけたかのような顔の歪め方をしていた。
「あの大和が何も考えずに作戦会議を開くはずがないだろう? 大丈夫! きっとお前たちのことも導いてくれるさ! この――俺のようにな!」
っていうか、あの蛯原くんだった。
蛯原くんはそのアイドル然とした顔を用い、ミュージカル風な動作で壇上へと上がるが――
「うるせぇぇえええ‼ 金魚の糞が出しゃばってくんな‼」
「お前、導かれてねえだろ‼ 胡麻すって気に入られようとしてんじゃねえよ、バーカ‼」
「顔だけの人は黙ってて‼」
散々な言われようである。悲しいかなヒエラルキーが地の底に堕ちた彼の言うことに、聞く耳を持つ人など誰もいなかった。
「くっ……こんなはずじゃ……!」
「チッ……使えねえな……」
蛯原くんと大和くんは何か言っていたようだが、周りがうるさすぎて何も聞こえない。
「しーずーかーにッ‼ もう~! なんなのこのクラス⁉」
変わらず滝先生が奮闘するも、皆の怒りは留まることを知らない。
このままでは学級崩壊寸前といった状況の中、大和くんは呆れ返ったように溜息をつくと、黒板の空いたスペースに何やら文字を書き始めた。
一画……一画と書かれていくにつれ、非難の声を上げていた生徒は嘘のように押し黙り、その文字へと釘付けになっていく。
そして大和くんはチョークを置くと、書いた文字を注目させんと黒板をノック。
「オレが目指してるのはこの二文字だ。もしこれに賛同してオレについてきてくれるなら……この一年間、いい夢見させてやる」
そこにはこの学園で誰もが夢見る、『優勝』の二文字が刻まれていた。
我々、二年B組は午前の授業を終えたのち、LHRを使って『宝探し』の作戦会議をすることになった。
滝先生が横で見守る中、大和くんは一人壇上に上がり、昨日聞いたであろうルールを皆に説明する。
①制限時間は九時から十二時までの三時間。
②参加者は全員『Turritopsis』を着用。耐久力が0になった瞬間失格。
③箱の中身はお助けアイテムが二割、ポイント七割、『永遠の指輪』が一割の比率でエリアにばら撒かれている。
④その中から宝である『永遠の指輪』をはめた者、並びにクラスが優勝となる。
⑤お助けアイテムの執行権限は総大将のみ。
⑥宝の中身を見分ける方法はあるが、詳細は不明。
⑦エリアにはそれぞれ100ポイントが設けられており、それが0になった瞬間エリアは消失。且つそのエリアに滞在していた者を問答無用で失格とする。
⑧十分に一つ宝箱を開けないと、そのエリアは消失する。
⑨消失したエリアに『永遠の指輪』が存在していた場合、別エリアへと転送される。
⑩他クラスの排除は禁止されていない。
要約するとだいたいこんな感じである。
これを聞いたクラスの反応は……
「はあ⁉ 何だよこれ? 去年と全然違うじゃないか⁉」
「前はもっと楽だったのに……。マジサイアクー……」
「こんなん生き残れる奴いんのかよ……?」
まあ……そうなるよね。
今回のルールは前年度に比べて明らかに難易度が増している。前回のはなんていうかこう……だらけきっていた。全体的に。その反動からか、今年のはレクリエーションというよりも、どこか試験に近い感じがする。正直言って私も異議を唱えたいところだ。
「文句言うな。こうなったのは真面目に取り組まなかったお前らの責任だ。恨むなら去年の自分を恨むんだな」
大和くんからの正論に、ざわついていた室内は一手に沈黙。
窓際に寄りかかっていた滝先生は、腕を組みながらうんうんと頷いていた。
「さて、舞台となる『草創の森』ではエリアが二十一に分けられている。それぞれには番号が振り分けられていて、その一つ一つに総大将が陣取るというルールだ。こんな風にな」
そう説明しながら大和くんは黒板に絵を描いていく、のだが……何て言うんだろう……凄く独創的な絵だ。多分、森が舞台だから一生懸命、木を描いてるつもりなんだろうけど……もう花火みたいなのがいっぱい上がっててお祭り状態だ。
(ヘタだ……)
(めっちゃヘタだ……)
(三歳児のクオリティじゃん……)
(あいつにも苦手なことあるんだな……)
(ヤバい……。ギャップでちょっとキュンとしちゃった……)
恐らくみんなも気持ちを同じくしていることだろう。滝先生も微妙な顔をしてらっしゃる。
しかし、当の大和くんはその出来栄えに大満足のようで、小刻みに頷いては何処かご機嫌にチョークを置いた。
「これを見ても分かるように中心に向かって渦を巻くように数字が大きくなっている。当然、中心に行けば行くほど危険度は増していくというわけだ」
うん。まあ、わかる。……ギリギリ。
「そして、この番号決めが昨日の集会で行われた。それを今から発表する。オレが引いたのは――㉑番だ」
大和くんが㉑と刻まれた紙をみんなに見せると――
「ふざけんなぁぁぁああああああ‼」
「何してくれちゃってんだよぉ、お前っ‼」
「もう完全に終わりじゃない‼ 私たち‼」
「余計なモンばっか持ってくんなっ‼ 疫病神ィ‼」
もう一斉に立ち上がっては非難囂囂。クラス内はもう滅茶苦茶だ。
「こーら‼ 騒がないの‼ 落ち着きなさぁーいっ‼」
滝先生が必死に収めようとする一方、大和くんは相変わらず眉一つ動かさない。この巻き込まれる感じも、もはや様式美である。
「いい加減にしないか‼ お前たちっ‼」
そんな中、机をバンと叩き、一際大きな声で立ち上がる生徒が一人いた。
その一声に周囲は押し黙るも、何故か私の身体には妙な悪寒が走り、まるで部屋の隅にGでも見つけたかのような顔の歪め方をしていた。
「あの大和が何も考えずに作戦会議を開くはずがないだろう? 大丈夫! きっとお前たちのことも導いてくれるさ! この――俺のようにな!」
っていうか、あの蛯原くんだった。
蛯原くんはそのアイドル然とした顔を用い、ミュージカル風な動作で壇上へと上がるが――
「うるせぇぇえええ‼ 金魚の糞が出しゃばってくんな‼」
「お前、導かれてねえだろ‼ 胡麻すって気に入られようとしてんじゃねえよ、バーカ‼」
「顔だけの人は黙ってて‼」
散々な言われようである。悲しいかなヒエラルキーが地の底に堕ちた彼の言うことに、聞く耳を持つ人など誰もいなかった。
「くっ……こんなはずじゃ……!」
「チッ……使えねえな……」
蛯原くんと大和くんは何か言っていたようだが、周りがうるさすぎて何も聞こえない。
「しーずーかーにッ‼ もう~! なんなのこのクラス⁉」
変わらず滝先生が奮闘するも、皆の怒りは留まることを知らない。
このままでは学級崩壊寸前といった状況の中、大和くんは呆れ返ったように溜息をつくと、黒板の空いたスペースに何やら文字を書き始めた。
一画……一画と書かれていくにつれ、非難の声を上げていた生徒は嘘のように押し黙り、その文字へと釘付けになっていく。
そして大和くんはチョークを置くと、書いた文字を注目させんと黒板をノック。
「オレが目指してるのはこの二文字だ。もしこれに賛同してオレについてきてくれるなら……この一年間、いい夢見させてやる」
そこにはこの学園で誰もが夢見る、『優勝』の二文字が刻まれていた。
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