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第二章 宝探し

第71話 お姉さんが教えてあげる

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「やーまーとくん?」

 葦原が去った後、間髪入れず絡んできたのは、後ろ手を組む景川。
 相変わらずの馴れ馴れしさに大和が倦厭していると、伍堂が無言のまま身を守るように割って入る。

「あれれ? 私は大和くんに用があるんだけど?」
「兄弟は無い言うとるみたいやが?」
「え~っ! 飛びっきりの情報あるんだけどなぁ~?」

 景川は何とか興味を引こうと、隠れている意中の存在へ猛烈アピール。

「情報……?」

 すると、大和が餌に食いつく。

「そうそう! 宝探しに関する重要な情報! 知りたくないかなぁ?」
「……いいだろう。聞いてやる」

 まさかの了承に伍堂は「おいおい、兄弟!」と止めに入るが、悲しくも乱雑に退かされてしまう。

「伍堂、お前はもう帰れ。こいつ相手に護衛は必要ない。じゃあな」

 そして伍堂の胸を軽くノックしたのち、大和は景川に連れられ、ミーティング室を後にした。

 取り残された伍堂は目をパチクリさせ、閑散とした室内で一人呟く。

「兄弟……お前そんなに宝探し楽しみやったんか……」



 異能力開発学園、屋上――

 夕日に照らされた屋上は紅く染められ、二つの影をより色濃くする。
 生徒もほぼ下校した頃だろうか。聞こえるのは微かに届く金属音のみ。

「んぅ……ぁ……ぅ……はぁ……ぅん……ぁ……」

 もう誰も邪魔する者はいない。
 荒くなる息遣い、赤く染まった頬、重なり合う唇……。まるで貪り食うかのように口を動かす景川に対し、大和はただ……無を貫いていた。

 屋上に連れてこられるなりフェンスまで押し込められるも、未だその『口撃』に落ちる気配はない。
 温度差のあった唇は次第に景川の気力を削ぎ、艶のある糸を引きつつゆっくり離れていった。

「相変わらず冷たいのね……大和くん」
「……で? 情報は?」

 大和は『よこせ』と手のひらを提示し、尚も冷たく対応する。

「その為にわざわざ受け入れたの? 結構、傷つくなぁ……」
「同じことを二回言うのは嫌いって前にも言ったよな?」

 景川は頬を膨れさせ、「わかってるわよ……」と一歩距離を離す。

「そうね……。じゃあ、さっきの質問の答え。宝箱の比率はアイテムが2、ポイントが7、そして『永遠の指輪』が1よ。これでいい?」

 景川はそう続けつつ背を向け、後ろ手を組みながら二歩三歩とまた離れる。

「当たりは二割だけか。中々、シビアだな」
「去年のレクリエーションが盛り上がらなかった所為ね。だから今年はできるだけ積極性をって理事長が」
「見分ける方法はあるんだろうな?」
「もちろん。まあ、それが何かまでは教えてあげないけどね」
「そうか。ご苦労」

 そう言うと大和は景川の横を通り抜け、淡々と屋上を去ろうとする。が――

「ねえ……?」

 景川に袖を掴まれ、その歩が止まる。

「もっと先のこと……知りたくない?」

 そして景川は掴んだ大和の手を己が胸へと押し付けた。

「もしさっきの続きができたら……宝の在り処とか喋っちゃうかも……?」

 更に景川はまたぞろ頬を染め、息を荒げながら掴んだ手を動かし、その感触を無理やり味わわせる。

 ブレザーの上からでも分かる柔らかな弾力は手に収まることなく、十八歳という若さからは到底考えられない程の大きさを感じさせた。
 高校二年の男子、年上の誘惑、学園での禁じられた行為。並大抵の者なら即座に陥落すること請け合いな状況だろう。

 しかし、大和には――

「上から圧力でもかかったか?」

 ……通用しない。

 あっさり見抜かれた景川はビクッと肩を揺らし、掴んでいた手を小刻みに震えさせていく。
 対して大和は伝わったその震えを鼻で嗤い、掴まれていた手を強引に振り払うと、再び扉へと歩き出していった。

「いいのかな⁉ 私は運営側だよ? 大和くんの不利になるような操作なんて幾らだってできる! そしたら大和くん、困っちゃうよね? だからさ……一緒に気持ちイイことしようよ?」

 景川の必死な訴えに、大和は振り向くことなく歩を止める。

「お前のボスはもうこちら側に手出ししないと言った。それを下のお前が反すれば、消されるのは自明の理。言わなくても分かってると思うが?」
「――ッ⁉ そ、それは……」

 景川はそれ以上言葉が出ず、ただ視線を落とすだけ。

 本来なら今の行動も立派な脅し。大和が告げ口さえすれば、間違いなく校長は景川を処分するだろう。だが、大和は――

「しかし……いいことを聞いたな」

 振り向きざまに笑ってみせた。

「いいこと……?」
「ああ。お前のお陰で――

 景川は一瞬「なッ⁉」と驚いてみせるが、すぐにこれは『大和の常套句』だということに気付き、空気に呑まれんと小刻みにかぶりを振る。

「またそうやってカマかける気なんでしょ? もうその手は通用しな――」
「もし今回の件が上手くいったら、お前の処遇は考えてやってもいい」
「え……?」

 景川は正直、何を言われているか理解できなかった。ただ、脳が勝手にいい方向へと変換していく。――『お前を助けてやる』と。

「だから、もう余計なことすんなよ? それじゃ……」

 そう言って大和は棒立ちの景川を一人残し、屋上を去っていった。
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