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第二章 宝探し

第69話 星の導き

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「さて、ここにみんなが引いた番号を反映させるとこうなります。どん」

 景川がもう一度リモコンを操作すると、それぞれのエリアに総大将の名が表示されていく。

 樫江田は⑨、伍堂は④。どちらも外周で当たりの数字と言えよう。
 しかし、大和の番号はド真ん中である㉑。ただでさえ名が知られている所為か、室内は異様なざわめきに包まれる。

「なっ⁉ 兄弟、すまん……。ワシが最悪な席、取ってしまったばっかりに……」

 両手を合わせる伍堂に対し、大和は「……裏切り者」とぶすっと返す。

「か、堪忍してくれや兄弟~! こないな事になるなんて思わへんかったんや!」
「フッ、冗談だよ。別に気にしてない」
「ほ、ほんまか……? せや! もし気に入らんのならワシの番号と交換したる! これで恨みっこ――」

「お待ちなさいッ‼」

 伍堂が良かれと紙を差し出した瞬間、室内に耳を劈くほどの甲高い声が響き渡る。

「な、なんや……⁉」

 静まり返る中、ビクついた伍堂は恐る恐る視線を移す。
 どうやら声の主は先ほど手を上げた女子生徒のよう。射るような視線で指差しているので間違いなかった。

「景川さん? 総大将同士のエリア交換は認められているのかしら?」

 しかし、その女子生徒はすぐに気品のある笑みを浮かべる。景川にだけは。

「うーん、残念だけど認めることはできないかな。だって、自分の意思でそこに座ったわけだし。『宝探し』が始まれば移動は自由だから、エリア替えしたいのならその時にしてくれる? まあ、かなり難しいとは思うけど……」

 苦笑いする景川に女子生徒は「フフッ」と不敵な笑みを漏らし、また鋭い眼光で伍堂、そして大和の方を見遣る。

「だそうよ? 無駄な足搔きはやめて、大人しく駆除されなさいな……害虫らしくね?」

 伍堂は「あぁ⁉」と今にも噛みつく勢いだったが、すぐに大和が「誰だ、お前?」と挑発交じりに問うたことで矛を収める。

「目上に対する言葉遣いがなってないわね? 三年B組総大将、四十九院星花つるしいんしょうかよ。四十九院財閥の娘だと言えば、いくら低能でもわか――」
「知らんなぁ。殺虫剤でも売ってるのか?」

 その返しに室内は一瞬で張り詰め、必死にこらえる伍堂の笑う声だけが微かに届く。

「なんですってッ……⁉」
「冗談だよ。四十九院財閥と言えば、異能力を抽出、保管、再利用する技術を生み出し、社会レベルを格段に引き上げた、あの『異能システム』の創造社だろ? 今やあらゆる業界に幅利かせてて、この学園にも相当融資してるとか」
「わかってるなら生意気な口、利かないでもらえるッ……⁉」
「悪いが肩書きや見た目でコロコロ態度を変えるつもりはない。相手に失礼だからな」

 こちらまで聞こえてきそうな歯軋りを止め、四十九院は深呼吸と共に平静を装う。

「わたくし、害虫って嫌いですの。汚らわしい男で、わたくしより目立つ、ルールも守れない虫なんかは特にね?」
「要はオレが気に入らないと?」
「そう。害虫は即刻駆除が四十九院の習わし。だから、あなたも覚悟することね? わたくしはそこらの能力者と違って、果てしない『財力』と何だってする人材を持ち合わせてるの。これがどういう意味か分かる? あなたはもう……お終いってことよ」

 そう言って四十九院は⑲と書かれた紙を見せつける。
 それ即ち、大和を包囲する一角を担っているということ。額面通りに受け取れば、周囲のエリアも軍門に降る可能性が高い。まさに万事休すといった状況。

 しかし、その時――

「それは聞き捨てならない話だなぁ……」

 景川の真ん前に座る一人の男が声を上げた。

「何故、あなたが出てくるんですの⁉ ――葦原計都あしはらけいと!」

 四十九院は机を叩くと同時に立ち上がり、葦原と呼んだ男を指差す。
 すると葦原も組んでいた腕を解き、生気のない据わった目を前に固定しながら大和を指差した。

「うちの『風紀委員』にとって大和慧は貴重な人材だからだ」

 三年C組総大将兼、風紀委員長――葦原計都。
 黒のミディアムショートを七三分けにし、垂れた数本以外をやや後ろに流す、一見ビジネスマン風の髪型。紺の制服は他の生徒より黒みがかったデザインで、中のワイシャツとネクタイも黒で統一。前をしっかり閉めるどころか、ネクタイもキッチリつけられており、まさに品行方正を絵に描いたような存在である。

「あんな害虫が貴重ですってッ……⁉」
「ああ。看板だけが取り柄のお前と違って、大和慧は害虫を駆除できる有能な人間だ。是非とも、うちに欲しい」

 と、葦原は滑らかな口調で称えつつも、当の大和に対しては一瞥すらしない。

「あなたッ……! わたくしに逆らってタダで済むと思ってますのッ⁉」
「そちらこそ穏便に済むと思わないでくれよ? 今までは四十九院の名に免じて見逃してきたが、お前の蛮行に対する苦情にはほとほと嫌気がさしてる。精々、寝首を掻かれないよう気を付けることだ。……俺と大和慧にな?」

 また腕組む葦原と、キリキリ歯軋りを立てる四十九院。
 そんな竜虎相まみえる状況に伍堂は、ひそひそと大和へ語りかける。

「なあ、兄弟? さらっとお前……巻き込まれてへんか?」

 大和もそれは感じていたようで、「また面倒ごとが増えた……」と胃のあたりをさすっていた。
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