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第一章 支配者
第47話 死の裁き
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まさかの介入者に教室どころか、廊下で覗き込む生徒までざわつき始める。
渡くんといえば誰とも関わないことである意味有名であり、何やら独り言が多いと避けられてさえいたゆえ、止めに入るなど予想だにしなかったのだろう。
でも私は……不思議とすんなり受け入れることができた。それは多分、藤宮さんを助けたことを知っていたからなんだろうけど……彼はいったい……?
「渡……」
渡くんを見た大和くんの怒りは一気に鎮火。
それを確認すると、渡くんは小さく頷き、ゆっくりと手を離した。
大和くんは一旦瞳を閉じ、大きく深呼吸をすると、いつもの淡々とした雰囲気を取り戻す。
「……消えろ。兄弟を見殺しにした以上、お前を助ける義理はない」
しかし、大和くんの審判は厳しいものだった。
告げられた蛯原くんは半泣きになりながらも何とか立ち上がり、見物していた生徒を掻き分け、最後の逃避行へ……
渡くんは二人の成り行きを見届けたのち、橋本さんへと手を差し伸べる。
お礼を言う彼女に笑顔を返すと、己が席へと戻り、またいつものようにボーっと外を眺めだした。
大和くんもまた、その場に立ち尽くし、ただ壁を見つめている。
私はそんな彼と去っていった蛯原くんに視線を巡らせ、何度か右往左往させたのち――蛯原くんの後を追いかけた。
◆
その後、三限目担当の教師が惨状を見るなり、大和は即、生徒指導室行きとなる。
担任である滝も伍堂の件は勿論知っていたため、己が授業を返上して真摯に語りかけるも……結局、大和が口を開くことはなかった。
時刻は既に四時限目終了間際。
これ以上続けても仕方なしと、滝は諭すように大和へと問いかける。
「大和くん……。君が伍堂くんと仲が良かったのは知ってる。他の生徒からも事情は聞いた。確かに君の気持ちも分かるよ? でもね……だからって君まで暴力を振るうのは間違ってる。能力者は一度堕ちてしまったら終わりなの。君だってそれはよく分かってるはず。だからもし何かあったのなら、まずは相談してほしい。私は君の……みんなの先生なんだから」
だが、最後の問いかけにも大和は何も返さず、ただ俯くのみ。
滝はそれでも嫌な顔一つ見せず、指導終了と席を立つ。すると――
「滝先生! テレビ! テレビつけてください!」
突然、佐藤が慌てた様子で生徒指導室へと入ってきた。
「佐藤先生? どうしたんですか、急に?」
「いいからテレビ! テレビつけて、テレビ!」
生徒指導室にもテレビは備え付けられており、佐藤は真っ直ぐそれを指差している。
滝は小首を傾げながらもリモコンを手に取り、電源をつけると……
『やめてください、蛯原くん! 早まらないで‼』
『裁きを受けなきゃ……裁きを……受け……』
画面には生気を失った目で屋上の縁に立つ蛯原と、刺激せんと距離を取り、何とか止めようと訴えかける牧瀬の姿が映し出されていた。
「蛯原くんに……牧瀬さん……? 何……? なんなのよ、これ……?」
「わかりません……。ただ、さっきから学園中のテレビに、この映像が映し出されてて……。もう生徒も先生も、てんやわんやですよ!」
困惑を露にする滝に、佐藤はそう説明する。
大和はというと俯かせていた顔を漸く上げ、テレビを注視していた。
『蛯原くん! あなたのその気持ちは罪の意識からではなく、黒幕によって仕組まれたもの……! だから、負けちゃダメです!』
『失敗した……失敗……裁きを……受けなきゃ……』
『罪を償うことは、そんな簡単なものじゃない! もっと長い時間をかけて真摯に向き合うものです! だから――』
テレビの向こう側では、今も牧瀬が説得を続けている。
差し迫った状況に滝は、今一度、佐藤へと問う。
「場所は……場所は何処なんですかっ⁉」
「どこかの屋上らしいですが、それ以外は何も……。今、他の先生たちが探しに行ったところです」
「そうですか……。なら私たちも探しに……!」
『――ダメッ! 蛯原くん‼』
しかし、滝たちが探しに行こうとした矢先、牧瀬の取り乱す声が室内に響き渡る。
直後、滝の脳裏に最悪の結末がよぎった。
鼓動が乱れ、脈打つ音が耳に届く中、テレビに視線を戻すと――そこには蛯原の飛び降りる姿が……
「そんなっ……⁉」
滝が声を上げた直後、映像はそこで切られてしまう。
学園内が無念の静けさに包まれる中、大和はふと席を立ち、生徒指導室から出て行こうとする。
「大和くん……? ちょっと……どこ行くの⁉」
滝は大和の背に手を伸ばすが、
「滝先生! 今は蛯原を探さないと!」
佐藤が割って入り、彼女を止める。
「でも、蛯原くんは……!」
「まだ終わったと決めつけるには早いでしょう? 担任なら、ちゃんとその目で確かめないと! あいつのことは俺が何とかしますから! ……さあ、早く!」
佐藤に説得された滝は暫しの苦悩の末、「……お願いします!」と大和を託し、階段へと走っていく。
佐藤はその姿を見届けると真剣だった面持ちを真顔に戻し、ポケットに手を入れると大和の背を見据え、一人呟く。
「これは貸しにしときますよ……先輩」
渡くんといえば誰とも関わないことである意味有名であり、何やら独り言が多いと避けられてさえいたゆえ、止めに入るなど予想だにしなかったのだろう。
でも私は……不思議とすんなり受け入れることができた。それは多分、藤宮さんを助けたことを知っていたからなんだろうけど……彼はいったい……?
「渡……」
渡くんを見た大和くんの怒りは一気に鎮火。
それを確認すると、渡くんは小さく頷き、ゆっくりと手を離した。
大和くんは一旦瞳を閉じ、大きく深呼吸をすると、いつもの淡々とした雰囲気を取り戻す。
「……消えろ。兄弟を見殺しにした以上、お前を助ける義理はない」
しかし、大和くんの審判は厳しいものだった。
告げられた蛯原くんは半泣きになりながらも何とか立ち上がり、見物していた生徒を掻き分け、最後の逃避行へ……
渡くんは二人の成り行きを見届けたのち、橋本さんへと手を差し伸べる。
お礼を言う彼女に笑顔を返すと、己が席へと戻り、またいつものようにボーっと外を眺めだした。
大和くんもまた、その場に立ち尽くし、ただ壁を見つめている。
私はそんな彼と去っていった蛯原くんに視線を巡らせ、何度か右往左往させたのち――蛯原くんの後を追いかけた。
◆
その後、三限目担当の教師が惨状を見るなり、大和は即、生徒指導室行きとなる。
担任である滝も伍堂の件は勿論知っていたため、己が授業を返上して真摯に語りかけるも……結局、大和が口を開くことはなかった。
時刻は既に四時限目終了間際。
これ以上続けても仕方なしと、滝は諭すように大和へと問いかける。
「大和くん……。君が伍堂くんと仲が良かったのは知ってる。他の生徒からも事情は聞いた。確かに君の気持ちも分かるよ? でもね……だからって君まで暴力を振るうのは間違ってる。能力者は一度堕ちてしまったら終わりなの。君だってそれはよく分かってるはず。だからもし何かあったのなら、まずは相談してほしい。私は君の……みんなの先生なんだから」
だが、最後の問いかけにも大和は何も返さず、ただ俯くのみ。
滝はそれでも嫌な顔一つ見せず、指導終了と席を立つ。すると――
「滝先生! テレビ! テレビつけてください!」
突然、佐藤が慌てた様子で生徒指導室へと入ってきた。
「佐藤先生? どうしたんですか、急に?」
「いいからテレビ! テレビつけて、テレビ!」
生徒指導室にもテレビは備え付けられており、佐藤は真っ直ぐそれを指差している。
滝は小首を傾げながらもリモコンを手に取り、電源をつけると……
『やめてください、蛯原くん! 早まらないで‼』
『裁きを受けなきゃ……裁きを……受け……』
画面には生気を失った目で屋上の縁に立つ蛯原と、刺激せんと距離を取り、何とか止めようと訴えかける牧瀬の姿が映し出されていた。
「蛯原くんに……牧瀬さん……? 何……? なんなのよ、これ……?」
「わかりません……。ただ、さっきから学園中のテレビに、この映像が映し出されてて……。もう生徒も先生も、てんやわんやですよ!」
困惑を露にする滝に、佐藤はそう説明する。
大和はというと俯かせていた顔を漸く上げ、テレビを注視していた。
『蛯原くん! あなたのその気持ちは罪の意識からではなく、黒幕によって仕組まれたもの……! だから、負けちゃダメです!』
『失敗した……失敗……裁きを……受けなきゃ……』
『罪を償うことは、そんな簡単なものじゃない! もっと長い時間をかけて真摯に向き合うものです! だから――』
テレビの向こう側では、今も牧瀬が説得を続けている。
差し迫った状況に滝は、今一度、佐藤へと問う。
「場所は……場所は何処なんですかっ⁉」
「どこかの屋上らしいですが、それ以外は何も……。今、他の先生たちが探しに行ったところです」
「そうですか……。なら私たちも探しに……!」
『――ダメッ! 蛯原くん‼』
しかし、滝たちが探しに行こうとした矢先、牧瀬の取り乱す声が室内に響き渡る。
直後、滝の脳裏に最悪の結末がよぎった。
鼓動が乱れ、脈打つ音が耳に届く中、テレビに視線を戻すと――そこには蛯原の飛び降りる姿が……
「そんなっ……⁉」
滝が声を上げた直後、映像はそこで切られてしまう。
学園内が無念の静けさに包まれる中、大和はふと席を立ち、生徒指導室から出て行こうとする。
「大和くん……? ちょっと……どこ行くの⁉」
滝は大和の背に手を伸ばすが、
「滝先生! 今は蛯原を探さないと!」
佐藤が割って入り、彼女を止める。
「でも、蛯原くんは……!」
「まだ終わったと決めつけるには早いでしょう? 担任なら、ちゃんとその目で確かめないと! あいつのことは俺が何とかしますから! ……さあ、早く!」
佐藤に説得された滝は暫しの苦悩の末、「……お願いします!」と大和を託し、階段へと走っていく。
佐藤はその姿を見届けると真剣だった面持ちを真顔に戻し、ポケットに手を入れると大和の背を見据え、一人呟く。
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