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第一章 支配者
第42話 お姉さんの手のひらの上で……
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大和の部屋――
ただ一つのベッドに二人の男女……
寄り添うように横になり、静かな時を迎え――
「どういうつもりですか?」
だが、大和がすぐに打ち破る。天井を見たまま淡々と。
「凄いね、大和くんは。全然ドキドキしてない……。ちょっとへこむなぁ……」
対して景川は大和の胸に耳を当てたのち、顔をすりすり。
「まだ質問に答えてませんが?」
「ここまでされてもまだ分からない? 私が悪いのかしら……」
大和が返さずにいると、景川は体を起こし……制服のリボンをするりと外していく。
一つ二つ……蠱惑的な面持ちでボタンをも開け始めると、艶のある柔肌が露になり、豊かな胸元が――
「何を焦ってるんです?」
大和の言葉に景川の手がピタリと止まる。
直後、景川は冷めた面持ちを一瞬見せるも、すぐにまたいつもの微笑みに。
「焦る? 私が?」
「ええ。オレらが会ったのはついさっきですよ? にもかかわらず、行動が大胆過ぎやしませんかね? 何か焦るようなことでもあったのかな?」
大和はそう言いながら上体を起こすと、落ちていたリボンを手渡す。
景川は後輩の無礼を前にしても決して笑みを崩さず、それを受け取る。
「そりゃあ焦るわよ。大和くん魅力的だし。他の人に取られたくないって思うのは、女として当然のことじゃない?」
「たかがクラスメイトの悩みを解決し、猫を探し出したことが、そんなに情欲を掻き立てますか? それとも話は単純で、『暴露』するような、はぐれ者が好きなだけだったり?」
「う~ん、それは否定はできないかなぁ。私、一年の時から……生徒会入ってたし。無意識に悪そうな人に対して、ちょっと憧れを抱いてるのかも。ごめんね? 変な気遣わせちゃって」
両手を合わせた景川は、またぞろ上目遣いで小首を傾げてみせる。
大和は大和でもう飽き飽きしているのか、大きな溜息と共に切り替えを図る。
「憧れね……。まあ何にせよ、そういうのはもっと段階を踏まないと……でしょ?」
「へえ~、そういうところもちゃんとしてるんだ? 益々、気に入っちゃうなぁ……。それって段階を踏んだら、もっといい関係になれるってことでしょ?」
景川は満足気に受け取ると、前のめりに顔を近づける。
「ええ。きっとなれますよ……いい関係にね?」
対して大和は一歩も引くことなく、その想いを受け入れた。
◆
翌日――
時刻は七時四十五分。いつもより起床が遅めの大和は、スマホの画面を見ながら辟易する。さすがの大和も度重なる案件に大分疲れが溜まっているようだ。
とはいえ、大和の住むマンションから学園までは、実はほんの十分程度。多少、急げば充分間に合う時間。
ゼリー飲料を咥えながら身支度をし、そうこうしてる間に登校の時間に。
空になったパウチを捨て、鞄を持ち、玄関の前に立つと、切り替えるように深呼吸をする。
「大丈夫……今日もやれる……」
そう呟くと大和は、まるでコートでも羽織るかのように冷徹な雰囲気を纏わせ、玄関の扉を開けた。
◆
異能力開発学園校門前――
大和は学園を目前に捉えて早々、違和感に気付く。
周囲からの視線が、やけに刺々しい……。いつものことと言いたいところだが、今日は明らかに一線を画していた。
だが、大和は気にすることなく門を潜る。
昇降口に入り、上履きに履き替え、三階に上がって己がクラスである二年B組へ。
道中も妙な視線は感じていたが、今思えばそんなものは序の口だった。何故なら、この後に待ち構えていた光景こそが――
「「「「「…………………………」」」」」
今日一番のピークだったからだ。
扉を開けた瞬間……そこには音もなく、彩度が落ちた重苦しい教室があり、中に居たクラスメイトも、かつてないほど冷たい視線で大和を見据えていた。
大和も異様な雰囲気に入るのを渋り、立ち尽くしていると……
「大和くん……」
牧瀬が決別以降、初めて話しかけてきた。……偉く悲し気な面持ちで。
「……なんだよ?」
大和も決別したとはいえ、この異質な状況を理解せんと、自然と言葉が出る。
牧瀬はらしくもない反応で察したのか、言葉を探しながら途切れ途切れに話し始めた。
「テレビ……見てないんですか……?」
「テレビ? いや……見てない。あいにく家には無いんでな」
「そう……ですか……」
牧瀬はそこで暫し黙りこくる。
だが、大和は催促することなく、じっと次の言葉を待った。例えそれがどんな結末であったとしても、この男には聞く義務があったからだ。
「今朝、ニュースでやってたんですけど……その……」
残されたただ一人の――
「伍堂くんが昨日……亡くなったそうです……」
兄弟として。
ただ一つのベッドに二人の男女……
寄り添うように横になり、静かな時を迎え――
「どういうつもりですか?」
だが、大和がすぐに打ち破る。天井を見たまま淡々と。
「凄いね、大和くんは。全然ドキドキしてない……。ちょっとへこむなぁ……」
対して景川は大和の胸に耳を当てたのち、顔をすりすり。
「まだ質問に答えてませんが?」
「ここまでされてもまだ分からない? 私が悪いのかしら……」
大和が返さずにいると、景川は体を起こし……制服のリボンをするりと外していく。
一つ二つ……蠱惑的な面持ちでボタンをも開け始めると、艶のある柔肌が露になり、豊かな胸元が――
「何を焦ってるんです?」
大和の言葉に景川の手がピタリと止まる。
直後、景川は冷めた面持ちを一瞬見せるも、すぐにまたいつもの微笑みに。
「焦る? 私が?」
「ええ。オレらが会ったのはついさっきですよ? にもかかわらず、行動が大胆過ぎやしませんかね? 何か焦るようなことでもあったのかな?」
大和はそう言いながら上体を起こすと、落ちていたリボンを手渡す。
景川は後輩の無礼を前にしても決して笑みを崩さず、それを受け取る。
「そりゃあ焦るわよ。大和くん魅力的だし。他の人に取られたくないって思うのは、女として当然のことじゃない?」
「たかがクラスメイトの悩みを解決し、猫を探し出したことが、そんなに情欲を掻き立てますか? それとも話は単純で、『暴露』するような、はぐれ者が好きなだけだったり?」
「う~ん、それは否定はできないかなぁ。私、一年の時から……生徒会入ってたし。無意識に悪そうな人に対して、ちょっと憧れを抱いてるのかも。ごめんね? 変な気遣わせちゃって」
両手を合わせた景川は、またぞろ上目遣いで小首を傾げてみせる。
大和は大和でもう飽き飽きしているのか、大きな溜息と共に切り替えを図る。
「憧れね……。まあ何にせよ、そういうのはもっと段階を踏まないと……でしょ?」
「へえ~、そういうところもちゃんとしてるんだ? 益々、気に入っちゃうなぁ……。それって段階を踏んだら、もっといい関係になれるってことでしょ?」
景川は満足気に受け取ると、前のめりに顔を近づける。
「ええ。きっとなれますよ……いい関係にね?」
対して大和は一歩も引くことなく、その想いを受け入れた。
◆
翌日――
時刻は七時四十五分。いつもより起床が遅めの大和は、スマホの画面を見ながら辟易する。さすがの大和も度重なる案件に大分疲れが溜まっているようだ。
とはいえ、大和の住むマンションから学園までは、実はほんの十分程度。多少、急げば充分間に合う時間。
ゼリー飲料を咥えながら身支度をし、そうこうしてる間に登校の時間に。
空になったパウチを捨て、鞄を持ち、玄関の前に立つと、切り替えるように深呼吸をする。
「大丈夫……今日もやれる……」
そう呟くと大和は、まるでコートでも羽織るかのように冷徹な雰囲気を纏わせ、玄関の扉を開けた。
◆
異能力開発学園校門前――
大和は学園を目前に捉えて早々、違和感に気付く。
周囲からの視線が、やけに刺々しい……。いつものことと言いたいところだが、今日は明らかに一線を画していた。
だが、大和は気にすることなく門を潜る。
昇降口に入り、上履きに履き替え、三階に上がって己がクラスである二年B組へ。
道中も妙な視線は感じていたが、今思えばそんなものは序の口だった。何故なら、この後に待ち構えていた光景こそが――
「「「「「…………………………」」」」」
今日一番のピークだったからだ。
扉を開けた瞬間……そこには音もなく、彩度が落ちた重苦しい教室があり、中に居たクラスメイトも、かつてないほど冷たい視線で大和を見据えていた。
大和も異様な雰囲気に入るのを渋り、立ち尽くしていると……
「大和くん……」
牧瀬が決別以降、初めて話しかけてきた。……偉く悲し気な面持ちで。
「……なんだよ?」
大和も決別したとはいえ、この異質な状況を理解せんと、自然と言葉が出る。
牧瀬はらしくもない反応で察したのか、言葉を探しながら途切れ途切れに話し始めた。
「テレビ……見てないんですか……?」
「テレビ? いや……見てない。あいにく家には無いんでな」
「そう……ですか……」
牧瀬はそこで暫し黙りこくる。
だが、大和は催促することなく、じっと次の言葉を待った。例えそれがどんな結末であったとしても、この男には聞く義務があったからだ。
「今朝、ニュースでやってたんですけど……その……」
残されたただ一人の――
「伍堂くんが昨日……亡くなったそうです……」
兄弟として。
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