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第一章 支配者
第33話 反撃の狼煙
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翌日――
大和くんと決別した翌朝、教室の扉を開けると既に事は始まっていた。
「………………」
教室で一人、ぽつんと立つ大和くん。その場所には本来あったはずの彼の席が無かった。
「何しに来たんだよ、大和慧? 犯罪者が学園に来ちゃダメだろう?」
自席で足を組む蛯原くんはカッターを手に持ち、昨日と同様、大和くんへと絡み始める。
周りの生徒は関わろうとはしないものの、皆一様に嘲りの交じった笑みを浮かべていた。
できることなら助けたいけど、決別した私の足は止まったまま。藤宮さんも昨日の件があった所為か学園には来ていない。まさに四面楚歌といった状態だ。
「オレの席、どこやった?」
「捨てたよ。もう必要ないと思ったからねぇ。犯罪者の席なんてさぁ?」
相変わらずネチネチと……男らしくない! あんな人に女子人気があるなんて理解に苦しむ……
「あっそ。それよりお前……何をそんなに怖がってる?」
大和くんのその一言に、ニヤケ面だった蛯原くんの顔が一瞬強張る。
「……何それ? 俺が犯罪者相手にビビってるとでも言うの?」
「違う違う。ビビってるのはオレに対してじゃなくて――お前のボスにだよ」
蛯原くんから薄ら寒い笑みが消えると、それは徐々に教室内へと伝染していく。
「いきなり何を言うかと思えば、意味の分からないことを……。あ、何? それで話、反らそうっての? さっすが犯罪者。往生際が悪っ――」
「ボスが同じ所為か井幡と似てんな? お前、昨日からセルフタッチが多いぞ? 髪をいじる、首を撫でる、顎をさする、ポケットに手を入れる……無意識にストレスを緩和させようとしてる証拠だ。当然、足を組むのもそれに該当してる」
指摘された蛯原くんは、慌てたように足組みを解く。
「それに口を開けば犯罪者と言ってるが、お前の方はどうなんだ?」
そして大和くんの悠然たる態度は続き、注がれていた視線は全て蛯原くんへと返される。
「ど、どういう意味だよ……?」
「お前の様子から察するにボスに対して『恐怖』を抱いているのは明白。『恐怖』の種類はまちまちだが、お前みたいな輩を動かすには『脅す』のが一番効果的だろう。もしかして後ろめたいことでも掴まれたんじゃないか?」
「てっ……適当なこと言ってんじゃねえよ、バァーカッ……! お前のやり口は分かってんだ! そうやって自分のペースに持ってって汐里も『暴露』したもんなぁ⁉」
ただのハッタリ……かと思いきや、その挑発は存外効果的で、蛯原くんは勢い良く立ち上がると、カッターの切っ先を大和くんへと向けた。
「汐里ねぇ……。下の名前で呼ぶほど親しいのに、『暴露』した時には何もしなかったな、お前?」
「――ッ⁉ そ、それは……」
「まるで急に喧嘩を売るのは不自然だからと、井幡の件を盾にしてボスからの命令を隠してるようにしか見えないんだが?」
「……ただ犯罪者を糾弾してるだけさ! それの何が悪い⁉ 俺はクラスの為に声を上げて――」
「そんなに正義感溢れる男なら、親しい汐里のためにも声を上げたはずだ。何度も言わせんな、馬鹿が」
蛯原くんの怒りは臨界点を突破。それを表すように彼はペンケースの中をばら撒き、周囲に鋏やらボールペンやらの文具類を宙に浮かせてみせる。
「やっぱり犯罪者の考えることは理解できないなぁッ⁉ 俺がここで取っ捕まえて――」
「それだよ、それ。お前はオレの前で躊躇なく能力を使っている。『暴露』された奴は自殺させられてるっていうのに、リスク度外視で向かってくるのは、どう考えてもおかしい。つまり、お前はもう分かってるってことだ。今回の騒動はオレがやったことじゃなく、自分のボスがやってることだってな」
大和くんの大立ち回りに教室内はざわつき始め、逆に蛯原くんのカッターを持つ手が震えだす。
「本当はボスのお仕置きが怖いんだろ? 今回で言えばそれは『飛び降り自殺』。死という裁きをぶら下げられて、オレを脅せとでも命令されたか?」
と、大和くんは前置きしつつ、尚も口撃は止まらない。
「そりゃあ、それに比べれば『暴露』なんて可愛いもんだよな? お前が強気になるのも頷ける。なんだったら助けてやろうか? それなりの誠意を見せれば、考えてやらないことも――」
「黙れぇええぇえッッ‼ さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるせぇえんだよぉッ⁉ テメエはもう終わってんだ、犯罪者がァッ‼」
殺意に満ちた面持ちは浮かせていた文具へと伝わり、照準を徐々に大和くんへと合わせていく。
「お前みたいなクズは実験体にするのも勿体ねえ……! 世の中のためにも今ここでブッ殺してやるよォオオォオオッッ‼」
その数多の凶器が今にも射出されんとした刹那――
「――お前が死ねや?」
私の隣を駆け抜けた影が蛯原くんの横顔を殴りつけた。
大和くんと決別した翌朝、教室の扉を開けると既に事は始まっていた。
「………………」
教室で一人、ぽつんと立つ大和くん。その場所には本来あったはずの彼の席が無かった。
「何しに来たんだよ、大和慧? 犯罪者が学園に来ちゃダメだろう?」
自席で足を組む蛯原くんはカッターを手に持ち、昨日と同様、大和くんへと絡み始める。
周りの生徒は関わろうとはしないものの、皆一様に嘲りの交じった笑みを浮かべていた。
できることなら助けたいけど、決別した私の足は止まったまま。藤宮さんも昨日の件があった所為か学園には来ていない。まさに四面楚歌といった状態だ。
「オレの席、どこやった?」
「捨てたよ。もう必要ないと思ったからねぇ。犯罪者の席なんてさぁ?」
相変わらずネチネチと……男らしくない! あんな人に女子人気があるなんて理解に苦しむ……
「あっそ。それよりお前……何をそんなに怖がってる?」
大和くんのその一言に、ニヤケ面だった蛯原くんの顔が一瞬強張る。
「……何それ? 俺が犯罪者相手にビビってるとでも言うの?」
「違う違う。ビビってるのはオレに対してじゃなくて――お前のボスにだよ」
蛯原くんから薄ら寒い笑みが消えると、それは徐々に教室内へと伝染していく。
「いきなり何を言うかと思えば、意味の分からないことを……。あ、何? それで話、反らそうっての? さっすが犯罪者。往生際が悪っ――」
「ボスが同じ所為か井幡と似てんな? お前、昨日からセルフタッチが多いぞ? 髪をいじる、首を撫でる、顎をさする、ポケットに手を入れる……無意識にストレスを緩和させようとしてる証拠だ。当然、足を組むのもそれに該当してる」
指摘された蛯原くんは、慌てたように足組みを解く。
「それに口を開けば犯罪者と言ってるが、お前の方はどうなんだ?」
そして大和くんの悠然たる態度は続き、注がれていた視線は全て蛯原くんへと返される。
「ど、どういう意味だよ……?」
「お前の様子から察するにボスに対して『恐怖』を抱いているのは明白。『恐怖』の種類はまちまちだが、お前みたいな輩を動かすには『脅す』のが一番効果的だろう。もしかして後ろめたいことでも掴まれたんじゃないか?」
「てっ……適当なこと言ってんじゃねえよ、バァーカッ……! お前のやり口は分かってんだ! そうやって自分のペースに持ってって汐里も『暴露』したもんなぁ⁉」
ただのハッタリ……かと思いきや、その挑発は存外効果的で、蛯原くんは勢い良く立ち上がると、カッターの切っ先を大和くんへと向けた。
「汐里ねぇ……。下の名前で呼ぶほど親しいのに、『暴露』した時には何もしなかったな、お前?」
「――ッ⁉ そ、それは……」
「まるで急に喧嘩を売るのは不自然だからと、井幡の件を盾にしてボスからの命令を隠してるようにしか見えないんだが?」
「……ただ犯罪者を糾弾してるだけさ! それの何が悪い⁉ 俺はクラスの為に声を上げて――」
「そんなに正義感溢れる男なら、親しい汐里のためにも声を上げたはずだ。何度も言わせんな、馬鹿が」
蛯原くんの怒りは臨界点を突破。それを表すように彼はペンケースの中をばら撒き、周囲に鋏やらボールペンやらの文具類を宙に浮かせてみせる。
「やっぱり犯罪者の考えることは理解できないなぁッ⁉ 俺がここで取っ捕まえて――」
「それだよ、それ。お前はオレの前で躊躇なく能力を使っている。『暴露』された奴は自殺させられてるっていうのに、リスク度外視で向かってくるのは、どう考えてもおかしい。つまり、お前はもう分かってるってことだ。今回の騒動はオレがやったことじゃなく、自分のボスがやってることだってな」
大和くんの大立ち回りに教室内はざわつき始め、逆に蛯原くんのカッターを持つ手が震えだす。
「本当はボスのお仕置きが怖いんだろ? 今回で言えばそれは『飛び降り自殺』。死という裁きをぶら下げられて、オレを脅せとでも命令されたか?」
と、大和くんは前置きしつつ、尚も口撃は止まらない。
「そりゃあ、それに比べれば『暴露』なんて可愛いもんだよな? お前が強気になるのも頷ける。なんだったら助けてやろうか? それなりの誠意を見せれば、考えてやらないことも――」
「黙れぇええぇえッッ‼ さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるせぇえんだよぉッ⁉ テメエはもう終わってんだ、犯罪者がァッ‼」
殺意に満ちた面持ちは浮かせていた文具へと伝わり、照準を徐々に大和くんへと合わせていく。
「お前みたいなクズは実験体にするのも勿体ねえ……! 世の中のためにも今ここでブッ殺してやるよォオオォオオッッ‼」
その数多の凶器が今にも射出されんとした刹那――
「――お前が死ねや?」
私の隣を駆け抜けた影が蛯原くんの横顔を殴りつけた。
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