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第一章 支配者
第27話 純情、弄ば騎士
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夜の街へと飛び出したアタシは、慧を見つける為と雑踏の中を右往左往。
幸いこの時間帯なら制服姿は目立つ。気だるげな背がすぐに視界の端に入った。
「くぉらアアアアアッ‼ けぇエエエエエいイイイイイッ‼」
アタシは人目も憚らず怒号を飛ばし、慧へと鞄を振り下ろす。
しかし、慧はポケットに手を突っ込んだまま、ひょいっと避け、
「あ……? どうした?」
なんの悪びれもなく、優れぬ面持ちを此方へと向けた。
「どうしたじゃないわよ‼ なんで先に帰っちゃうのよ‼」
「お前、待ってなくていいって言わなかったっけ?」
「そうだけど……そうじゃないの‼ バカっ‼」
周囲からは微笑ましげな声が聞こえ、アタシは余計顔が熱くなる。恥ずかしい……
「意味が分からん。何をそんなに怒ってんだか……」
「怒ってないわよっ‼ そもそもアタシのバイト先、駅と逆方向でしょうが⁉ 通りかかっただけなんて嘘でしょ‼」
「オレがいつ駅を利用すると言った? 家、この辺かもしれないだろ?」
「え、そうなの? ……あ! もしやアタシを家に連れ込もうと、わざわざバイト先に……⁉ あぁー、いやらしいいやらしい!」
「なんでそうなるんだよ……。ってか、この状況でよくそんなこと言えんな。人が死んでんだぞ?」
「あ……そうだよね……。ごめん、不謹慎だった……」
先程から一転、顔から熱が引き、俯くアタシ。
そんな姿を見せたからなのか、慧は溜息交じりに言葉を続ける。
「ま、それがあの井幡じゃ仕方ないか……」
再び歩き出す慧に対し、ついていくアタシの足は幾分か重く、そして口も……
「アタシの所為……だよね……」
「違う。そもそも奴は飛び降りたんじゃない。そうさせられたんだ」
「え……? どういうこと?」
「今回の飛び降り事件は能力者が絡んでる。恐らくそいつは井幡と関係があり、『暴露』したことがきっかけで、今回の件を引き起こした……可能性がある」
「何よそれ……? っていうか、その話が本当なら何で関係のある井幡を殺すのよ? 仲間なんじゃないの?」
「わからん。どうも今回の首謀者は考えが読みづらい。オレを追い詰めたいだけなら、井幡の対極にいる藤宮を狙えばいいのに、相手はそれをしなかった。何か自分の中に曲げられない『ルール』でもあるのかもな」
本来ならこれは背筋も凍る、危惧すべき案件。しかし、今のアタシはどこかおかしく、何故かモジモジとしていた。
「もしかして……慧が来てくれたのって、アタシが心配だったから……?」
「別に。順当に考えればオレの次に殺されそうなのは、お前だろうと思っただけさ」
「……怖いこと言わないでよ」
だが、すぐに血の気が引き、顔が強張る。
「まあ、今のところお前が狙われてる節はない。心配する必要はないだろう」
「……そっか。でも、慧は大丈夫なの?」
「問題ない。オレが『暴露』する人間だと分かってる以上、相手も迂闊に手を出してきたりはしないだろう。ま、オレとしては出してきてもらった方が好都合なんだがな」
冗談交じりに言う慧に、アタシは「そう……」と一言だけ返す。
どうもさっきから気持ちが定まらない。井幡が死んで、慧が来て、挙句の果てに狙われてた可能性もあったとなれば無理もないんだろうけど……。色々あり過ぎた所為か、ずっとモヤモヤしっぱなし。
――そういう時はさ……男の肩が一番よ?――
流石に肩は無理だけど、話したら本当に……治るのかな?
「どうした? さっきから変だぞ?」
慧は察してくれたのか、歩を止めて此方へと振り向く。
アタシは身体をビクつかせるも、言葉の方はスラスラと溢れ出ていく。
「え? あ、いや……井幡とはほら……色々あったじゃない? だからなんか複雑っていうかなんていうか……。笑い飛ばせたら楽なんだけどね……ハハッ……」
無理くり笑ってみせると、慧は珍しく優しげな表情を見せる。
「死んで悲しい、死んで清々した。関係によって色々あるだろ。どれも間違いじゃない。情を捨てきれないのは、きっとお前のいいところさ。だから気にすんな」
何処かで聞いたような台詞を前に、アタシは思わず「フッ……」と本来の笑みが零れてしまう。
「……何故、笑う?」
そして、こらえ切れず――吹き出した。それはもう悩みを吹き飛ばすほどに。
「……そんな笑うかね?」
「ごめんごめん……! いやぁ、なんかエミリと同じこと言ってるなぁと思ったら可笑しくて……アッハッハッハ!」
「……帰る」
アタシは笑い涙を拭い、真顔で踵を返す慧の横につく。
「ちょっと、ごめんって! ぎゅっとしたら大体同じだったもんでつい……」
「人の言葉をぎゅっとすんな」
「でも、今のは『決まったぁ!』と思ったでしょ? 凄いカッコつけてたもんねー」
「カッコつけてねーし。もうお前、帰れよ」
「何よ? 送ってくれないの?」
「送らない。人の好意を踏み躙るような奴なんかはな」
「え~? でも慧、優しいからな~。あと押しに弱いし」
「お前も牧瀬と同じこと言ってる。これでお相子だ」
「残念。橋本さんも言ってたからセーフよ」
「橋本さんも言ってたのか……」
「はい、アタシの勝ち。ちゃんと送りなさいよね?」
「どういうルールだよ? ったく……」
「で? お答えは?」
アタシのニヤついた顔が気に入らなかったのか、慧は舌打ちと共に歩を止めると……
「途中までな……!」
心底嫌そうに此方を睨めつけた。
でも、そんなこと言いつつ……結局、最後まで送ってもらった。
幸いこの時間帯なら制服姿は目立つ。気だるげな背がすぐに視界の端に入った。
「くぉらアアアアアッ‼ けぇエエエエエいイイイイイッ‼」
アタシは人目も憚らず怒号を飛ばし、慧へと鞄を振り下ろす。
しかし、慧はポケットに手を突っ込んだまま、ひょいっと避け、
「あ……? どうした?」
なんの悪びれもなく、優れぬ面持ちを此方へと向けた。
「どうしたじゃないわよ‼ なんで先に帰っちゃうのよ‼」
「お前、待ってなくていいって言わなかったっけ?」
「そうだけど……そうじゃないの‼ バカっ‼」
周囲からは微笑ましげな声が聞こえ、アタシは余計顔が熱くなる。恥ずかしい……
「意味が分からん。何をそんなに怒ってんだか……」
「怒ってないわよっ‼ そもそもアタシのバイト先、駅と逆方向でしょうが⁉ 通りかかっただけなんて嘘でしょ‼」
「オレがいつ駅を利用すると言った? 家、この辺かもしれないだろ?」
「え、そうなの? ……あ! もしやアタシを家に連れ込もうと、わざわざバイト先に……⁉ あぁー、いやらしいいやらしい!」
「なんでそうなるんだよ……。ってか、この状況でよくそんなこと言えんな。人が死んでんだぞ?」
「あ……そうだよね……。ごめん、不謹慎だった……」
先程から一転、顔から熱が引き、俯くアタシ。
そんな姿を見せたからなのか、慧は溜息交じりに言葉を続ける。
「ま、それがあの井幡じゃ仕方ないか……」
再び歩き出す慧に対し、ついていくアタシの足は幾分か重く、そして口も……
「アタシの所為……だよね……」
「違う。そもそも奴は飛び降りたんじゃない。そうさせられたんだ」
「え……? どういうこと?」
「今回の飛び降り事件は能力者が絡んでる。恐らくそいつは井幡と関係があり、『暴露』したことがきっかけで、今回の件を引き起こした……可能性がある」
「何よそれ……? っていうか、その話が本当なら何で関係のある井幡を殺すのよ? 仲間なんじゃないの?」
「わからん。どうも今回の首謀者は考えが読みづらい。オレを追い詰めたいだけなら、井幡の対極にいる藤宮を狙えばいいのに、相手はそれをしなかった。何か自分の中に曲げられない『ルール』でもあるのかもな」
本来ならこれは背筋も凍る、危惧すべき案件。しかし、今のアタシはどこかおかしく、何故かモジモジとしていた。
「もしかして……慧が来てくれたのって、アタシが心配だったから……?」
「別に。順当に考えればオレの次に殺されそうなのは、お前だろうと思っただけさ」
「……怖いこと言わないでよ」
だが、すぐに血の気が引き、顔が強張る。
「まあ、今のところお前が狙われてる節はない。心配する必要はないだろう」
「……そっか。でも、慧は大丈夫なの?」
「問題ない。オレが『暴露』する人間だと分かってる以上、相手も迂闊に手を出してきたりはしないだろう。ま、オレとしては出してきてもらった方が好都合なんだがな」
冗談交じりに言う慧に、アタシは「そう……」と一言だけ返す。
どうもさっきから気持ちが定まらない。井幡が死んで、慧が来て、挙句の果てに狙われてた可能性もあったとなれば無理もないんだろうけど……。色々あり過ぎた所為か、ずっとモヤモヤしっぱなし。
――そういう時はさ……男の肩が一番よ?――
流石に肩は無理だけど、話したら本当に……治るのかな?
「どうした? さっきから変だぞ?」
慧は察してくれたのか、歩を止めて此方へと振り向く。
アタシは身体をビクつかせるも、言葉の方はスラスラと溢れ出ていく。
「え? あ、いや……井幡とはほら……色々あったじゃない? だからなんか複雑っていうかなんていうか……。笑い飛ばせたら楽なんだけどね……ハハッ……」
無理くり笑ってみせると、慧は珍しく優しげな表情を見せる。
「死んで悲しい、死んで清々した。関係によって色々あるだろ。どれも間違いじゃない。情を捨てきれないのは、きっとお前のいいところさ。だから気にすんな」
何処かで聞いたような台詞を前に、アタシは思わず「フッ……」と本来の笑みが零れてしまう。
「……何故、笑う?」
そして、こらえ切れず――吹き出した。それはもう悩みを吹き飛ばすほどに。
「……そんな笑うかね?」
「ごめんごめん……! いやぁ、なんかエミリと同じこと言ってるなぁと思ったら可笑しくて……アッハッハッハ!」
「……帰る」
アタシは笑い涙を拭い、真顔で踵を返す慧の横につく。
「ちょっと、ごめんって! ぎゅっとしたら大体同じだったもんでつい……」
「人の言葉をぎゅっとすんな」
「でも、今のは『決まったぁ!』と思ったでしょ? 凄いカッコつけてたもんねー」
「カッコつけてねーし。もうお前、帰れよ」
「何よ? 送ってくれないの?」
「送らない。人の好意を踏み躙るような奴なんかはな」
「え~? でも慧、優しいからな~。あと押しに弱いし」
「お前も牧瀬と同じこと言ってる。これでお相子だ」
「残念。橋本さんも言ってたからセーフよ」
「橋本さんも言ってたのか……」
「はい、アタシの勝ち。ちゃんと送りなさいよね?」
「どういうルールだよ? ったく……」
「で? お答えは?」
アタシのニヤついた顔が気に入らなかったのか、慧は舌打ちと共に歩を止めると……
「途中までな……!」
心底嫌そうに此方を睨めつけた。
でも、そんなこと言いつつ……結局、最後まで送ってもらった。
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