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序章 暴露
第23話 からのストーカー
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「お? やっと見つけたでぇ、兄弟!」
大和くんの手が出そうなちょうどその頃、伍堂くんが快活な声を響かせながら階段から降りてくる。
「伍堂……今日来ねえから、てっきり休みかと――ッ⁉」
大和くんが驚いたのは、きっと隣にカーポがいたからだろう。珍しい組み合わせだ。
「昨日、駄菓子屋巡りでオール決めてまってのぅ。昼間はずーっと寝とったわ」
「ツッコミどころ多すぎて、もはや何も言いたくない……」
「それより兄弟。ここまで来たっちゅうことは、もう帰るんやろ? せやったら遊びに行こうや」
「昨日も言ったろ……。部活あるんだよ」
「なんや? 見学言うてたのに、もう入るの決めたんか? なら此処に居るのは、おかしいんとちゃうか?」
大和くんより背丈が高いためか、迫る伍堂くんの威圧感はかなりのものだった。
「別に……道を間違えただけだ。ややこしいとこにあるんでな」
「間違えた? 異能探求部は真逆も真逆やろ? 嘘は良くねえなぁ、兄弟?」
「……オレ、異能探求部って言ったっけか?」
一瞬、彼らの間に沈黙が訪れる。
「さあ? 今、それはどうでもええんとちゃうか?」
伍堂くんの反応を見たのち、大和くんはカーポを一瞥する。……どうしたんだろう?
「お前……なんか変なこと吹き込まれた?」
「どうやろなぁ? ただ『ハッキリせん奴のケツ、引っ叩いてくれ』とは言われたかも?」
「余計なことを……」
そこで大和くんは、それはそれは面倒臭そうに溜息をついた。……どうも話が読めない。
「で? どうするんや、兄弟? ワシの見立てじゃ、それも『やらなきゃあかんこと』に含まれとる気がするんやけどな?」
「……だからこそ遠ざけてるって、察してもらえんもんかね?」
何故か二人とも凄く睨み合ってる……。一触即発の状態だ。
「何があったかは知らんが、兄弟……そりゃ逃げやで? ほんまに大事なモンは、ちゃーんとそばで見といたらなアカン。みすみす手放すような男を兄弟に迎えた覚えはないで?」
「………………」
「半端はこのワシが許さん。やるんなら徹底的にやれや。それが――男の流儀やろ?」
「伍堂、お前……」
正直、私からは何を喋っているか聞こえない。ただ、聞いてはならないような……そんな雰囲気を感じた。
「安心せい。なんかあったらワシも手ぇ貸す。なんもなくてもや。ワシが絶対守ったる。約束抜きでな?」
さらに笑顔で何か続けると、大和くんも観念したかのようにフッと笑みを零す。
「ったく、厄介な奴と契りを結んじまったなぁ……。わかったよ。今日からオレは――異能探求部の部員だ」
「え⁉ 大和くん、入ってくれるんですか……?」
その唐突な宣言だけはハッキリと聞こえ、私は思わず聞き返してしまう。
「ああ。だからもう突っかかってくんなよ……兄弟?」
大和くんはどこか嬉しそうに伍堂くんへ言うと、「それでええ」と彼もまた嬉しそうに返していた。
「行くぞ、牧瀬」
「あ、はい!」
そして大和くんは、いつもの素っ気無い態度に戻しつつ、階段へと進む。
私もいつもと同じようにように、そんな彼の背を追った。
さっきまではあんなに笑ってたのに、もうこれだ。あれが男の子同士の友情というやつだろうか? ちょっと羨ましい……
そんなことを思いながら伍堂くんの方へ振り返ると、
「ったく、手間のかかる兄弟だよなぁ……?」
また何か言いつつカーポの頭を撫でていた。
◆
「そういえば大和くん、先程は何を話していたんですか?」
部室へ行く道中、私は彼にそう尋ねる。
「別に? お前が知る必要はない」
「ふ~ん……男同士の会話というやつですか?」
「そういうこった」
まあ、だいたい予想通りの返答だ。ここは素直に話題を変えよう。
「話は変わりますが柳先輩と朝比奈先輩、お付き合いすることになったらしいです」
「へえ……そう」
「そうって……大和くんのお陰なんですから、もっと誇ってもいいと思いますよ?」
「オレじゃなくて、あの猫のお陰な? オレは返すもん返せって言っただけさ」
この返答も予想通りで、私は笑みの浮かぶ口元を握った手で隠す。
「優しいですね、大和くんは」
「どこをどう取ったら、そう聞こえるんだか……」
そんな呆れ交じりの愚痴が聞こえてきたところで、ちょうど部室に到着。
「あ! 大和せんぱ~い! どうやら観念して入部する気になったようですね~?」
扉を開けるなり耳に届いたのは、定位置に座る元気溌剌な叶和ちゃんの声。昨日会ったばかりだというのに、距離の詰め方が相変わらず凄い。
「別に観念した訳じゃねえよ。まあ、入部したのは確かだが……」
こちらも変わらず否定から入る大和くん。
そんな彼に叶和ちゃんは「まあまあまあ!」と前置きしつつ、立ち上がる。
「そう恥ずかしがらなくても~! こんな可愛い女の子が二人もいる部活! 男子が入りたいと思うのは当然のことですから! 大丈夫です。みなまで言わなくても分かってますから……」
と、悟り顔を見せる叶和ちゃん。
「どうしてここの奴らは人の話聞かないのかねぇ……。オレはただ打ち上げの飯を食いに来ただけだ。勿体ねえからな」
「ダメですよ~、まずは仕事をこなさないと。打ち上げはその後です」
「仕事? 依頼なんてそう簡単に来ないだろ? ただでさえ存在が不確かなのに」
すると叶和ちゃんは、これ見よがしに人差し指を振ってみせる。
「チッチッチ。我々は常に進化してるのだよ、大和くん?」
「先輩な?」
叶和ちゃんはそんな指摘などなんのその、唐突に椅子の上に立ってはビシッと我々を指差す。
「梅原先輩が名を広めてくれたお陰で早速アプローチがありました! なんと次の依頼は――『万引き事件』です!」
冒頭へと続く……
大和くんの手が出そうなちょうどその頃、伍堂くんが快活な声を響かせながら階段から降りてくる。
「伍堂……今日来ねえから、てっきり休みかと――ッ⁉」
大和くんが驚いたのは、きっと隣にカーポがいたからだろう。珍しい組み合わせだ。
「昨日、駄菓子屋巡りでオール決めてまってのぅ。昼間はずーっと寝とったわ」
「ツッコミどころ多すぎて、もはや何も言いたくない……」
「それより兄弟。ここまで来たっちゅうことは、もう帰るんやろ? せやったら遊びに行こうや」
「昨日も言ったろ……。部活あるんだよ」
「なんや? 見学言うてたのに、もう入るの決めたんか? なら此処に居るのは、おかしいんとちゃうか?」
大和くんより背丈が高いためか、迫る伍堂くんの威圧感はかなりのものだった。
「別に……道を間違えただけだ。ややこしいとこにあるんでな」
「間違えた? 異能探求部は真逆も真逆やろ? 嘘は良くねえなぁ、兄弟?」
「……オレ、異能探求部って言ったっけか?」
一瞬、彼らの間に沈黙が訪れる。
「さあ? 今、それはどうでもええんとちゃうか?」
伍堂くんの反応を見たのち、大和くんはカーポを一瞥する。……どうしたんだろう?
「お前……なんか変なこと吹き込まれた?」
「どうやろなぁ? ただ『ハッキリせん奴のケツ、引っ叩いてくれ』とは言われたかも?」
「余計なことを……」
そこで大和くんは、それはそれは面倒臭そうに溜息をついた。……どうも話が読めない。
「で? どうするんや、兄弟? ワシの見立てじゃ、それも『やらなきゃあかんこと』に含まれとる気がするんやけどな?」
「……だからこそ遠ざけてるって、察してもらえんもんかね?」
何故か二人とも凄く睨み合ってる……。一触即発の状態だ。
「何があったかは知らんが、兄弟……そりゃ逃げやで? ほんまに大事なモンは、ちゃーんとそばで見といたらなアカン。みすみす手放すような男を兄弟に迎えた覚えはないで?」
「………………」
「半端はこのワシが許さん。やるんなら徹底的にやれや。それが――男の流儀やろ?」
「伍堂、お前……」
正直、私からは何を喋っているか聞こえない。ただ、聞いてはならないような……そんな雰囲気を感じた。
「安心せい。なんかあったらワシも手ぇ貸す。なんもなくてもや。ワシが絶対守ったる。約束抜きでな?」
さらに笑顔で何か続けると、大和くんも観念したかのようにフッと笑みを零す。
「ったく、厄介な奴と契りを結んじまったなぁ……。わかったよ。今日からオレは――異能探求部の部員だ」
「え⁉ 大和くん、入ってくれるんですか……?」
その唐突な宣言だけはハッキリと聞こえ、私は思わず聞き返してしまう。
「ああ。だからもう突っかかってくんなよ……兄弟?」
大和くんはどこか嬉しそうに伍堂くんへ言うと、「それでええ」と彼もまた嬉しそうに返していた。
「行くぞ、牧瀬」
「あ、はい!」
そして大和くんは、いつもの素っ気無い態度に戻しつつ、階段へと進む。
私もいつもと同じようにように、そんな彼の背を追った。
さっきまではあんなに笑ってたのに、もうこれだ。あれが男の子同士の友情というやつだろうか? ちょっと羨ましい……
そんなことを思いながら伍堂くんの方へ振り返ると、
「ったく、手間のかかる兄弟だよなぁ……?」
また何か言いつつカーポの頭を撫でていた。
◆
「そういえば大和くん、先程は何を話していたんですか?」
部室へ行く道中、私は彼にそう尋ねる。
「別に? お前が知る必要はない」
「ふ~ん……男同士の会話というやつですか?」
「そういうこった」
まあ、だいたい予想通りの返答だ。ここは素直に話題を変えよう。
「話は変わりますが柳先輩と朝比奈先輩、お付き合いすることになったらしいです」
「へえ……そう」
「そうって……大和くんのお陰なんですから、もっと誇ってもいいと思いますよ?」
「オレじゃなくて、あの猫のお陰な? オレは返すもん返せって言っただけさ」
この返答も予想通りで、私は笑みの浮かぶ口元を握った手で隠す。
「優しいですね、大和くんは」
「どこをどう取ったら、そう聞こえるんだか……」
そんな呆れ交じりの愚痴が聞こえてきたところで、ちょうど部室に到着。
「あ! 大和せんぱ~い! どうやら観念して入部する気になったようですね~?」
扉を開けるなり耳に届いたのは、定位置に座る元気溌剌な叶和ちゃんの声。昨日会ったばかりだというのに、距離の詰め方が相変わらず凄い。
「別に観念した訳じゃねえよ。まあ、入部したのは確かだが……」
こちらも変わらず否定から入る大和くん。
そんな彼に叶和ちゃんは「まあまあまあ!」と前置きしつつ、立ち上がる。
「そう恥ずかしがらなくても~! こんな可愛い女の子が二人もいる部活! 男子が入りたいと思うのは当然のことですから! 大丈夫です。みなまで言わなくても分かってますから……」
と、悟り顔を見せる叶和ちゃん。
「どうしてここの奴らは人の話聞かないのかねぇ……。オレはただ打ち上げの飯を食いに来ただけだ。勿体ねえからな」
「ダメですよ~、まずは仕事をこなさないと。打ち上げはその後です」
「仕事? 依頼なんてそう簡単に来ないだろ? ただでさえ存在が不確かなのに」
すると叶和ちゃんは、これ見よがしに人差し指を振ってみせる。
「チッチッチ。我々は常に進化してるのだよ、大和くん?」
「先輩な?」
叶和ちゃんはそんな指摘などなんのその、唐突に椅子の上に立ってはビシッと我々を指差す。
「梅原先輩が名を広めてくれたお陰で早速アプローチがありました! なんと次の依頼は――『万引き事件』です!」
冒頭へと続く……
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