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序章 暴露

第20話 架け橋ニャンコ

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 大和くんの推理の下、我々は美術室へと足を運ぶ。
 この時間帯なら恐らく、まだ誰かは残っているはず。果たして大和くんの読みは当たっているのだろうか? その答えは扉を開けて早々、証明されることになる。

「カーポ!」

 丸椅子の上にその姿を見つけ、いの一番に駆け寄る梅原先輩。
 眠たげに鎮座する黒き猫、そしてそれを撫でる梅原先輩の安堵した面持ち。なんとか無事、依頼は達成できたようだ。

「あの……あなたたちは?」

 訝しげな視線を向けたのは、その隣で彩色を施していた女子生徒。
 淑やかな雰囲気と綺麗に伸びた黒髪を結ぶその姿は、『どちらかと言えばモデル側なのでは?』と勘違いする程に美しく、私は幾分かドギマギしながら説明をする。

「あ、いや……突然お邪魔して申し訳ありません。我々は異能探求部という者で、こちらの梅原先輩から猫探しの依頼を受けていたんです。そちらのカーポちゃんを……」
「あぁ、そうだったんだ……。ごめんなさい。そうと知ってたら、すぐに教えたんだけど……。なんかここが気に入ったみたいで」

 それを聞いた梅原先輩は笑みを浮かべ、首を横に振った。

「んーん、大丈夫。ちょっと心配だっただけだから。それでこの子、ご飯は……?」
「あ、お腹空かせてたみたいだから勝手にあげちゃったんだけど、大丈夫だった?」
「うん。ありがとう。よかったぁ~、これで気が楽になったよ~。異能探求部の子たちもありがとね? 助かったよ」

 振り返り、頭を下げる梅原先輩に、私は『とんでもない』と小刻みに手を振る。

「いえ、そんな……! それに今回の依頼は大和くんが解決したことですから……」

 そう隣の大和くんへ賛辞を送ると、

「………………」

 彼は無言で見つめていた……彼女の絵を。

「どうしたんですか、大和くん?」
「……まだ依頼は終わってないようだぜ、牧瀬」
「え……?」

 微かに漏れた驚きの声は私のものだったが、「どういうこと?」と尋ねたのは梅原先輩だった。

「この猫の……カーポの依頼ですよ」
「カーポの……?」

 そう言って大和くんは梅原先輩の横を通り抜け、カーポちゃんを一撫ですると絵を塗っていた彼女の下へ。

「あなたひょっとして――『朝比奈先輩』じゃありませんか?」
「え? ……うん、そうだけど?」

 そう答える彼女に、私は「朝比奈先輩って……!」と又も驚く。
 しかし、大和くんの興味の行く先は朝比奈先輩の絵のようで、私は直ぐに口を噤んだ。

「我々はさっき水泳部に寄ってたんですけど……見た顔ですね」
「あ、いや……これは……!」

 その彼女の反応を見た瞬間、誰もが理解した。
 頬を染める彼女越し、その絵に――眉尻に傷のある男性の泳ぐ姿が描かれていたことを。

「そうですか。話は変わるんですが、カーポがここに来た時、何か持ってきませんでしたか? 例えば……とか」
「――ッ⁉ なんでそれを……?」

 朝比奈先輩が慌てたように大和くんを見上げる。

「返してあげた方がいいんじゃないですか? 本人、困ってましたし」
「いや……でも……誰のか……」

 俯いたその時の朝比奈先輩は少々いじらしく見えた。

「知り合いがいるでしょう? その人に渡したらいい。あとは向こうが約束を果たしますよ……男ですから」
「君は一体……?」
「学園生活ってのは、あっという間らしいですよ? じゃあ我々はこれで……」

 再び見上げる朝比奈先輩に大和くんは頭を下げ、颯爽と去っていく。
 我々も慌てて頭を下げ、その『大きな背』を追った。そう感じたのは――

「あの……ありがとう!」

 真実を追い求めたからこそ得られた……本物の感謝があったからだ。



「凄いです、大和先輩! カーポの願いまで叶えるなんて!」

 梅原先輩と別れを済ませ、部室へと戻る道中、漸く叶和ちゃんが元気を取り戻す。

「うるさっ……。せっかく静かになってたのに……」

 しかし大和くんはお気に召さないのか、その声量に顔を傾けていた。

「まあまあ、そう恥ずかしがらずに~。ほら? カーポも気に入ったのか、大和先輩について来ていますよ?」

 指差す叶和ちゃんに促され、私と大和くんは後方を見る。
 黒の長毛とどっしりした佇まい。若干、ふてぶてしささえ感じるその面構えは、さすがボスの名を冠しているだけはあると言えよう。

「そうだ! カーポも見つかったとことですし、依頼達成と大和先輩の入部を祝して、打ち上げをしましょう! 私、購買部に行ってきま――ぶへらっ⁉」

 さらに捲し立てる叶和ちゃんは踵を返した途端――足をつねり、床に倒れてしまう。

「もう……叶和ちゃん、大丈夫ですか?」

 私は呆れながらも謝る叶和ちゃんの身体を支え、大和くんへと振り返る。

「大和くんは先に戻っててください。購買へは私がついていきますので」
「おい、オレは入るとは言ってないぞ?」
「わかってます。あくまでも依頼を手伝っていただいたお礼ということで、今日は奢らせてください。行きましょう、叶和ちゃん?」

 私は少々強引に会話を切ると、おでこをさする叶和ちゃんと共に購買部へと向かう。

 こうでも言わないと、きっと彼は来てくれない。いつもどこか距離を置いていて、何事にも動じず、傍から見れば冷淡なイメージ。でも本当は……心根の優しい人。

 私じゃ、カーポの想いまで読み取ることはできなかった。しようともしなかった。だから、そこまで気を回す人が――『異能狩り』であるはずがない。

 今回の件で改めて感じた。やっぱり彼には入部してもらいたい。彼と一緒なら、この学園を変えられる。彼と一緒なら、きっとお父さんに……
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