上 下
13 / 132
序章 暴露

第12話 それを人は友と呼ぶ

しおりを挟む
 大和の『暴露』により、井幡の身体からは光の粒子が溢れる。それが宙へと散っていくと、異能力は呆気なく、井幡との決別を迎えた。

「嘘でしょ……⁉」
「マジでやりやがった……!」
「初めて見た……」

 その光景にクラスの連中は驚きを露にし、血の気が引いたようにその身を後退りさせる。
 井幡はというと悔し気に涙を浮かべ、逃げるように教室から走り去っていった。

 ちょうどそのタイミングで四限目終了のチャイムが鳴る。

 隣のクラスから椅子の引きずる音が届く中、クラス内は異様な空気に包まれまま、昼休みの時間を迎えるのだった。



 結局、私は見てることしかできなかった。『暴露』を止めることも、藤宮さんを助けることも何も……

 そんな自己嫌悪に陥りながら、私はお弁当の唐揚げをつつく。

「牧瀬ちゃん、また大和くんのこと考えてるの?」

 そう問うてきたのは隣に座る橋本さん。
 渡くんの席を借り、一緒にお弁当を食べていた。

「またって……どうしてそう思うんですか?」
「だって……顔に出ちゃってるし」

 そうだった……。私は能力の『代償』で嘘がつけないんだった。しかも八時間。使っておいてなんだけど厄介な『代償』だ。

「ほとほと自分の無力さに呆れちゃいましてね……。もう少し何かできなかったのかなぁって……」
「牧瀬ちゃんは精一杯やってるよ。私の時だって動いてくれたじゃない?」
「でも、動くだけでは……」
「動くと動かないとじゃ全然違うと思うよ? 大多数の人は多分、見て見ぬ振りしちゃうだけだし。それに――」

 そこで橋本さんは扉方面へと視線を向ける。
 私も釣られるように視線を移すと――

「ちょっと慧! 一緒に食べようよ、お昼!」
「うるせぇな……もうお前の役目は終わったんだ。どっか好きなとこ行けよ」

 購買から戻ってきた藤宮さんと大和くんが目に入った。

「ね? 元気になったんだからいいじゃない!」

 と、優しく微笑みかけてくれる橋本さん。

「そう……ですね!」

 そんな彼女のお陰で、私の口元も自然と緩んでいた。

 大和くんが鬱陶しそうに席に着くと、藤宮さんも隣へと座り、まだまだ話したりないのか椅子を近づける。

「ねえ、慧? なんでそんなに避けるのよ? アタシたちもう友達でしょ?」
「友達じゃないって言ったの、お前じゃなかったっけ? あと名前で呼ぶな」

 大和くんは買ってきた牛乳を机に置き、あんパンの包みを広げては口に入れる。

「何よ……慧だってアタシの名前呼んでたじゃない? 別にいいでしょ?」

 藤宮さんも同じタイミングでいちごミルクを机に置き、いちごサンドを口に運ぶ。

「お前も懲りないねぇ……。また変な噂立てられるぞ?」
「大丈夫! そしたら、また慧が何とかしてくれるでしょ?」

 笑顔があまりにも眩しすぎる……っていうか藤宮さん、凄まじい変わりようだ。いや……ひょっとしたら、これが本当の藤宮さんなのかもしれない。それを取り戻したんだ、大和くんは。

「オレはもう裏切りモン確定だ。連む理由なんてないだろ」
「それだと一人になっちゃうじゃない! 友達、欲しくないの?」
「いらないね。そもそも欲しかったら、こんな真似しないだろうよ」

 すると橋本さんが、

「え? 私はもう友達だと思ってたんだけど……迷惑かな?」

 意外な積極性を見せる。

 他三名は一手に「え?」と聞き返すが、橋本さんは首を傾げるだけ。
 彼女は優しいから……ただ真っ直ぐに、そう言ってるだけなのだろう。

「いや……別に迷惑じゃないけど……」
「そっか……良かった!」

 大和くんは反射的に承諾してしまい、まんまと橋本さんとお友達に。
 しかし、そうなると藤宮さんも黙ってはいなかった。

「それならアタシも友達でいいわよね、慧?」
「あぁ……もういいよ……好きにしろ」

 良かった、大和くん……友達ができて。でも、なんだろう……この置いてけぼりを食らっているような気持ちは? いいことじゃないか、友達ができるのは。何もおかしなことはない。至って正常、なんだけど……なんかモヤモヤする。こんな気持ちじゃ、午後の授業に支障が――

「じゃ、じゃあ……私も友達でいいですよね?」

 ……あ、思わず心の声が出てしまった。これも『代償』の所為?

「じゃあって何だよ? 無理してなる必要ないだろ」

 大和くんは振り返るも、冷たくあしらってくる。

「べ、別に無理なんかしてません! 本当に友達に……」
「いや……でも、お前とはなんか友達って感じじゃ……」

 更なる追い打ちは自分でも思った以上に傷ついたらしく、私は――

「そ、そんな風に……言わなぐだっで……」

 不覚にも泣いてしまった。

「えぇっ⁉ な、何で泣くんだよ⁉」
「ご、ごめんなざいっ……! そんなづもりじゃ……」

 私は急いで涙を拭うが、次から次へと溢れ出てきてしまう。

「多分、牧瀬ちゃん……『代償』の所為で嘘がつけなくなっちゃってるから……」

 橋本さんは苦笑いで私の愚行の説明をしてくれている。申し訳ない……

「わ、悪かったって……。友達になるから泣かんでくれ……」

 困り顔を見せる大和くんに私は何度も謝る。情けない……

「でも大和くんも、そんな顔するんだね?」

 くすくすと笑みを漏らす橋本さんに対し、大和くんは「くっ……!」と顔を歪める。

「ほーんと。ずっと鉄仮面かと思ってたけど、案外かわいいとこあんじゃない?」

 次いで藤宮さんもニヤニヤしながら大和くんをイジりだす。

「……屈辱だ」

 大和くんは舌打ち交じりに前へ向き直ると、不貞腐れたようにあんパンをかじった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...