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序章 暴露
第12話 それを人は友と呼ぶ
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大和の『暴露』により、井幡の身体からは光の粒子が溢れる。それが宙へと散っていくと、異能力は呆気なく、井幡との決別を迎えた。
「嘘でしょ……⁉」
「マジでやりやがった……!」
「初めて見た……」
その光景にクラスの連中は驚きを露にし、血の気が引いたようにその身を後退りさせる。
井幡はというと悔し気に涙を浮かべ、逃げるように教室から走り去っていった。
ちょうどそのタイミングで四限目終了のチャイムが鳴る。
隣のクラスから椅子の引きずる音が届く中、クラス内は異様な空気に包まれまま、昼休みの時間を迎えるのだった。
◆
結局、私は見てることしかできなかった。『暴露』を止めることも、藤宮さんを助けることも何も……
そんな自己嫌悪に陥りながら、私はお弁当の唐揚げをつつく。
「牧瀬ちゃん、また大和くんのこと考えてるの?」
そう問うてきたのは隣に座る橋本さん。
渡くんの席を借り、一緒にお弁当を食べていた。
「またって……どうしてそう思うんですか?」
「だって……顔に出ちゃってるし」
そうだった……。私は能力の『代償』で嘘がつけないんだった。しかも八時間。使っておいてなんだけど厄介な『代償』だ。
「ほとほと自分の無力さに呆れちゃいましてね……。もう少し何かできなかったのかなぁって……」
「牧瀬ちゃんは精一杯やってるよ。私の時だって動いてくれたじゃない?」
「でも、動くだけでは……」
「動くと動かないとじゃ全然違うと思うよ? 大多数の人は多分、見て見ぬ振りしちゃうだけだし。それに――」
そこで橋本さんは扉方面へと視線を向ける。
私も釣られるように視線を移すと――
「ちょっと慧! 一緒に食べようよ、お昼!」
「うるせぇな……もうお前の役目は終わったんだ。どっか好きなとこ行けよ」
購買から戻ってきた藤宮さんと大和くんが目に入った。
「ね? 元気になったんだからいいじゃない!」
と、優しく微笑みかけてくれる橋本さん。
「そう……ですね!」
そんな彼女のお陰で、私の口元も自然と緩んでいた。
大和くんが鬱陶しそうに席に着くと、藤宮さんも隣へと座り、まだまだ話したりないのか椅子を近づける。
「ねえ、慧? なんでそんなに避けるのよ? アタシたちもう友達でしょ?」
「友達じゃないって言ったの、お前じゃなかったっけ? あと名前で呼ぶな」
大和くんは買ってきた牛乳を机に置き、あんパンの包みを広げては口に入れる。
「何よ……慧だってアタシの名前呼んでたじゃない? 別にいいでしょ?」
藤宮さんも同じタイミングでいちごミルクを机に置き、いちごサンドを口に運ぶ。
「お前も懲りないねぇ……。また変な噂立てられるぞ?」
「大丈夫! そしたら、また慧が何とかしてくれるでしょ?」
笑顔があまりにも眩しすぎる……っていうか藤宮さん、凄まじい変わりようだ。いや……ひょっとしたら、これが本当の藤宮さんなのかもしれない。それを取り戻したんだ、大和くんは。
「オレはもう裏切りモン確定だ。連む理由なんてないだろ」
「それだと一人になっちゃうじゃない! 友達、欲しくないの?」
「いらないね。そもそも欲しかったら、こんな真似しないだろうよ」
すると橋本さんが、
「え? 私はもう友達だと思ってたんだけど……迷惑かな?」
意外な積極性を見せる。
他三名は一手に「え?」と聞き返すが、橋本さんは首を傾げるだけ。
彼女は優しいから……ただ真っ直ぐに、そう言ってるだけなのだろう。
「いや……別に迷惑じゃないけど……」
「そっか……良かった!」
大和くんは反射的に承諾してしまい、まんまと橋本さんとお友達に。
しかし、そうなると藤宮さんも黙ってはいなかった。
「それならアタシも友達でいいわよね、慧?」
「あぁ……もういいよ……好きにしろ」
良かった、大和くん……友達ができて。でも、なんだろう……この置いてけぼりを食らっているような気持ちは? いいことじゃないか、友達ができるのは。何もおかしなことはない。至って正常、なんだけど……なんかモヤモヤする。こんな気持ちじゃ、午後の授業に支障が――
「じゃ、じゃあ……私も友達でいいですよね?」
……あ、思わず心の声が出てしまった。これも『代償』の所為?
「じゃあって何だよ? 無理してなる必要ないだろ」
大和くんは振り返るも、冷たくあしらってくる。
「べ、別に無理なんかしてません! 本当に友達に……」
「いや……でも、お前とはなんか友達って感じじゃ……」
更なる追い打ちは自分でも思った以上に傷ついたらしく、私は――
「そ、そんな風に……言わなぐだっで……」
不覚にも泣いてしまった。
「えぇっ⁉ な、何で泣くんだよ⁉」
「ご、ごめんなざいっ……! そんなづもりじゃ……」
私は急いで涙を拭うが、次から次へと溢れ出てきてしまう。
「多分、牧瀬ちゃん……『代償』の所為で嘘がつけなくなっちゃってるから……」
橋本さんは苦笑いで私の愚行の説明をしてくれている。申し訳ない……
「わ、悪かったって……。友達になるから泣かんでくれ……」
困り顔を見せる大和くんに私は何度も謝る。情けない……
「でも大和くんも、そんな顔するんだね?」
くすくすと笑みを漏らす橋本さんに対し、大和くんは「くっ……!」と顔を歪める。
「ほーんと。ずっと鉄仮面かと思ってたけど、案外かわいいとこあんじゃない?」
次いで藤宮さんもニヤニヤしながら大和くんをイジりだす。
「……屈辱だ」
大和くんは舌打ち交じりに前へ向き直ると、不貞腐れたようにあんパンをかじった。
「嘘でしょ……⁉」
「マジでやりやがった……!」
「初めて見た……」
その光景にクラスの連中は驚きを露にし、血の気が引いたようにその身を後退りさせる。
井幡はというと悔し気に涙を浮かべ、逃げるように教室から走り去っていった。
ちょうどそのタイミングで四限目終了のチャイムが鳴る。
隣のクラスから椅子の引きずる音が届く中、クラス内は異様な空気に包まれまま、昼休みの時間を迎えるのだった。
◆
結局、私は見てることしかできなかった。『暴露』を止めることも、藤宮さんを助けることも何も……
そんな自己嫌悪に陥りながら、私はお弁当の唐揚げをつつく。
「牧瀬ちゃん、また大和くんのこと考えてるの?」
そう問うてきたのは隣に座る橋本さん。
渡くんの席を借り、一緒にお弁当を食べていた。
「またって……どうしてそう思うんですか?」
「だって……顔に出ちゃってるし」
そうだった……。私は能力の『代償』で嘘がつけないんだった。しかも八時間。使っておいてなんだけど厄介な『代償』だ。
「ほとほと自分の無力さに呆れちゃいましてね……。もう少し何かできなかったのかなぁって……」
「牧瀬ちゃんは精一杯やってるよ。私の時だって動いてくれたじゃない?」
「でも、動くだけでは……」
「動くと動かないとじゃ全然違うと思うよ? 大多数の人は多分、見て見ぬ振りしちゃうだけだし。それに――」
そこで橋本さんは扉方面へと視線を向ける。
私も釣られるように視線を移すと――
「ちょっと慧! 一緒に食べようよ、お昼!」
「うるせぇな……もうお前の役目は終わったんだ。どっか好きなとこ行けよ」
購買から戻ってきた藤宮さんと大和くんが目に入った。
「ね? 元気になったんだからいいじゃない!」
と、優しく微笑みかけてくれる橋本さん。
「そう……ですね!」
そんな彼女のお陰で、私の口元も自然と緩んでいた。
大和くんが鬱陶しそうに席に着くと、藤宮さんも隣へと座り、まだまだ話したりないのか椅子を近づける。
「ねえ、慧? なんでそんなに避けるのよ? アタシたちもう友達でしょ?」
「友達じゃないって言ったの、お前じゃなかったっけ? あと名前で呼ぶな」
大和くんは買ってきた牛乳を机に置き、あんパンの包みを広げては口に入れる。
「何よ……慧だってアタシの名前呼んでたじゃない? 別にいいでしょ?」
藤宮さんも同じタイミングでいちごミルクを机に置き、いちごサンドを口に運ぶ。
「お前も懲りないねぇ……。また変な噂立てられるぞ?」
「大丈夫! そしたら、また慧が何とかしてくれるでしょ?」
笑顔があまりにも眩しすぎる……っていうか藤宮さん、凄まじい変わりようだ。いや……ひょっとしたら、これが本当の藤宮さんなのかもしれない。それを取り戻したんだ、大和くんは。
「オレはもう裏切りモン確定だ。連む理由なんてないだろ」
「それだと一人になっちゃうじゃない! 友達、欲しくないの?」
「いらないね。そもそも欲しかったら、こんな真似しないだろうよ」
すると橋本さんが、
「え? 私はもう友達だと思ってたんだけど……迷惑かな?」
意外な積極性を見せる。
他三名は一手に「え?」と聞き返すが、橋本さんは首を傾げるだけ。
彼女は優しいから……ただ真っ直ぐに、そう言ってるだけなのだろう。
「いや……別に迷惑じゃないけど……」
「そっか……良かった!」
大和くんは反射的に承諾してしまい、まんまと橋本さんとお友達に。
しかし、そうなると藤宮さんも黙ってはいなかった。
「それならアタシも友達でいいわよね、慧?」
「あぁ……もういいよ……好きにしろ」
良かった、大和くん……友達ができて。でも、なんだろう……この置いてけぼりを食らっているような気持ちは? いいことじゃないか、友達ができるのは。何もおかしなことはない。至って正常、なんだけど……なんかモヤモヤする。こんな気持ちじゃ、午後の授業に支障が――
「じゃ、じゃあ……私も友達でいいですよね?」
……あ、思わず心の声が出てしまった。これも『代償』の所為?
「じゃあって何だよ? 無理してなる必要ないだろ」
大和くんは振り返るも、冷たくあしらってくる。
「べ、別に無理なんかしてません! 本当に友達に……」
「いや……でも、お前とはなんか友達って感じじゃ……」
更なる追い打ちは自分でも思った以上に傷ついたらしく、私は――
「そ、そんな風に……言わなぐだっで……」
不覚にも泣いてしまった。
「えぇっ⁉ な、何で泣くんだよ⁉」
「ご、ごめんなざいっ……! そんなづもりじゃ……」
私は急いで涙を拭うが、次から次へと溢れ出てきてしまう。
「多分、牧瀬ちゃん……『代償』の所為で嘘がつけなくなっちゃってるから……」
橋本さんは苦笑いで私の愚行の説明をしてくれている。申し訳ない……
「わ、悪かったって……。友達になるから泣かんでくれ……」
困り顔を見せる大和くんに私は何度も謝る。情けない……
「でも大和くんも、そんな顔するんだね?」
くすくすと笑みを漏らす橋本さんに対し、大和くんは「くっ……!」と顔を歪める。
「ほーんと。ずっと鉄仮面かと思ってたけど、案外かわいいとこあんじゃない?」
次いで藤宮さんもニヤニヤしながら大和くんをイジりだす。
「……屈辱だ」
大和くんは舌打ち交じりに前へ向き直ると、不貞腐れたようにあんパンをかじった。
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