アルトリアの花

マリネ

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宴会からしばらくは、レティは邸に居を移すために街と行き来して片付けをしていた。
エディルは治療を行うために邸に留まっているため、カルテットやマリアが手伝ってくれた。
元々物の少なかった平民街の部屋は、あっという間に日常品が片付き、数日で空っぽになってしまった。
エディルの仕事の関係で街を離れる事になったのだと、近所の人たちには説明して挨拶に回る度に、お土産を持たされ、寂しくなるね。と涙した。
レティ自身は辺境伯邸に居るけれど、それを説明出来るはずもなく、ただただ空の部屋のスッキリさと呆気なさに空虚感を抱くだけだった。

それからまたしばらくした晴れ渡った日、エディルはエステザニアへと旅立つ事になった。
「それでは。皆様、レティシアをよろしくお願いいたします。」
玄関先に馬を付け、数日分の荷物も載せ終わった。
エディルの旅立ちを知るのは、この辺境伯邸に居る者のみ。
体も癒え、腕の骨折も添え木が取れるまでになっていた。
「もちろんだ。これを持って行ってくれ。」
ソウンディックは緑の精霊石が付いた装身具を手渡す。
装飾は違うが、森で見た連絡用の精霊石だ。
「カルテットが連絡を受けれるようにしてある。何でも良い。レティシアを安心させてやってくれ。」
「貴重な物をありがとうございます。」
恭しく受け取ると、そっと胸ポケットに忍ばせる。

「レティシア。元気でね。」
「兄さんも。」
そっと頭を撫でられる。
あの篝火を見ながら、笑顔で送るのだと決めたのだ。
「気をつけて。」
上手く微笑んでいるかしら。
「すぐに連絡するよ。何かあれば駆けつけるから。」
うん。
触れていた腕に、手を添えて頷く。
「行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
そっと手が離れる。
エディルを載せた馬は、一鳴きするとそのまま走り始めた。

「…行ってらっしゃい。」
どんどんと小さくなるその背中に、涙声が漏れる。
静かに伝った涙は、なかなか止められない。
「…ふっ…。うっ。」
「レティ。」
ソウンディックがそっと肩に手を置き、引き寄せた。
頭を撫でる手の優しさに、さらに涙を止められなくなってしまった。
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