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第14-1話 悪夢は終わった……?

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「行くぜ、ピルタ!」

 ネムちゃんの掛け声の直後、花畑の上空に立ち上っていた『もや』が輝き始める。
 月光よりもさらに強く光ったと思うと、大きな白い塊はまるで霞のようにおぼろげになって風に流されていった。
 同時に、騎士さんたちを攻撃していた『おかあさんガーディアンズ』も光の粒子となって消えていく。
 これは、ネムちゃんが夢を具現化する魔法を解除したときに起きる現象だ。

「とりゃーーーーっ!!!!」

 私は左手でクエリちゃんを抱っこしながら、タイミングを見計らって右手に残るすべての魔力を注ぎ込んだ。
 指先から強い紫色の光が発せられると、魔力は弾丸のような速度で真っ直ぐに飛んでいく。
 標的は、王様だっ!
 真夜中の花畑に吹く風に乗って、私の放った魔法が突き進む。

「ぬ、ぐっ……!? が、は…………っ…………」

 私の最後の魔力を乗せた昏睡魔法が、王様に命中した。
 私が撃てる最後の昏睡魔法を受け、王様は断末魔のような声をあげて膝から崩れ落ちる。
 意識を手放した王様は、白い花畑の中央に倒れ込んだ。

「へ、陛下っ……!」
「マドラさんっ! まだです! まだ近付かないでっ!」

 地面に転がった王様を見て心配そうな声をあげたマドラさんを、私は片手で制止した。
 マドラさんは私の声を聞くなり踏みとどまり、私の顔を覗き込んできた。
 うーん、こんな事になっちゃったけど……それでも、マドラさんって王様のコトを愛してるんだろうね。
 マドラさんを安心させてあげるためにも、もうひと踏ん張りしなきゃ!

「ネムちゃんっ、お願い!!」
「おう、任せておけ! ……さぁ王様、あんたの頭の中にどんな『悪夢』が巣食ってるのか、覗かせてもらおうじゃねぇか!」

 王様が完全に地面に横たわったのを見て、ネムちゃんはふわりと宙に浮くと全身から紫色の光を放ち始めた。
 夢を具現化する魔法を使っているんだろうね、いつもの淡い光に包まれている。

「聖女様っ、陛下の夢を具現化させるのですか!?」

 胸元に手を当て、心配そうな表情をしたマドラさんが問いかけてきた。
 
「……はい、そうですっ。どうも私、何だか嫌な予感がするんです。王様にはちょっと眠ってもらって、調べてみようと思って」
「嫌な予感、ですか……?」

 不安気に問い返すマドラさん。
 そう、思い返してみると……王様の様子には強い違和感ばかりが残るんだよね。
 まず正室になる王妃様がすでに居るにも関わらず、当時宮廷魔導師としてお城に仕えていたマドラさんと子供を授かるほどに愛し合っていたはずの王様が……ある日を境にマドラさんを拒絶するようになったコト。
 いくら事実上の敵国になってしまったエルフの国の出身だからと言って、側室に入れないならまだしも、直前まで愛していた人をこんな辺境の地に追いやるなんてどう考えたっておかしい。
 そのくせ、エルフの血を半分継ぐクエリちゃんは手元に置いておこうとしてるのなんて、意味不明にも程がある。
 そして……極めつけは私たちも目撃した、王様自身の異様なまでの変貌っぷりだ。
 マドラさんや、クエリちゃんの眠っている家に矢を射かけようと命令を出す狂人っぷりに加え、中の人が入れ替わっちゃったのかと思うほどの口調の変化……。
 そして、魔法が使えないはずの王様が魔力を放ち、騎士さんたち全員を束縛するほどの魔法を使ってみせたコト。
 狂人と言っても過言でないほどの変化。
 何もかもがおかしい。
 マドラさんがクエリちゃんを身籠ったときに、心から喜んでいた人間と同一人物とはとても思えないよ。
 もし王様の夢の中にその手がかりがあるなら、ネムちゃんの具現化魔法で覗くコトができるかもしれない。

 危険かもしれないのは、百も承知。
 王様の見ている夢があまりに凶悪なものだったら、そんな夢の中身を具現化させるのはヤバい。
 でももし夢の中に原因があるのなら、ネムちゃんに食べてもらっちゃえば全てが解決するかも知れないっ!

「少しだけです、具現化してもネムちゃんにすぐ食べてもらえれば、それほど危険は無いと、思…………」

 マドラさんを安心させるため、そして自分自身を安心させるために放った言葉だったけど……
 目の前に広がった光景を見て、思わず言葉を失ってしまった。

「せ、聖女様…………こ、これは…………!?」
「な、なんなの、これ…………?」

 私は、ごくりと喉を鳴らして唾を飲みこんだ。
 通常ならば、ネムちゃんが夢を具現化させる魔法を使うと、夢を見ている本人の頭部から『もや』が出てくる。
 しかし、目の前で地面に横たわってる王様の頭部あたりから出てきたのは……
 見るからに異様な、どす黒い液体だった。

「ひ、ひぇっ! うひぇぇぇっ……!? な、なにこれぇっ!?」

 その黒い液体は、凄まじい速度で地面に広がっていく。
 いつもみたいに空中に広がらず、花畑を侵食する。
 まるでバケツを倒してしまったかのような勢いで、王様の首元からどくどくと黒いシミが伸びていった。
 月明かりさえも反射させないような、漆黒の液体。
 よく見れば、波立つその表面は怪しげに蠢いており、なんと細い触手なようなものまで這い出てきた。
 あまりに気持ち悪い光景に、私は思わず口元を覆う。

「お、おい……何だこりゃ、まさか…………!?」

 表面が激しく震え始めた黒いシミを見て、ネムちゃんまでもが絶句している。

「ネ、ネムちゃんっ! これ ────────────────」
「ピルタっ! 下がってろ! こいつはこれ以上具現化させちゃ駄目だ、すぐに処理する!」
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