上 下
31 / 42

第12-2話 寒月の戦いっ!

しおりを挟む
「ぐあっ……!?」
「な、なんだ!?」

 恐る恐る前に向き直ると、何故か騎士さんたちが慌てたような声を上げている。
 
「な、なにっ!? 何が起きたの!?」
「聖女様、ご安心ください。彼らの矢が飛んでくることはありません」
「ほへっ!?」

 何があったのかわからないまま見上げると、マドラさんが凛々しい目つきで騎士たちを睨みつけていた。

「私が『糸切り』の魔法を使いました。エルフ族に伝わる魔法のひとつです。彼らが今この場で持っている糸状のものをすべて断ち切りましたので、弓も、替えの弓弦ゆみづるも使えません」
「え、えぇぇっ!? す、すごーーい! マドラさん、そんな魔法を使えるんですかっ!?」
「はいっ。引退して7年になりますが、これでも元・宮廷魔導師ですからねっ!」

 険しい表情ながらも口元に笑みを浮かべるマドラさん。
 う、うおおおおぉぉ!?
 やばぁぁぁぁい! かっこいいよぉぉおおお!!
 昏睡魔法しか使えず、手こずっていた私と違って、たったひとつの魔法で弓兵さんたちを全員無力化しちゃった!!
 うーん、憧れちゃうなぁ……マドラさん、いつか私に魔法を教えてくれないかなぁ!?

「こ、国王陛下っ! 手持ちの弓がすべて弦を切られました! 予備もダメです!!」
「ぐっ……! マドラ!! 邪魔だてをするな! 私はただクエリを連れ帰りたいだけだっ!!」

 月明かりと火柱の明かりの中、王様はマドラさんに向けて叫び声をあげる。
 しかしマドラさんは、答えない。

「クエリはお前がそばに居なくとも、王城にさえ居れば私が幸せにして見せるっ……! 欲しいものは何でも与え、何でも食べさせてやる! だからクリエを、こちらによこすんだ!!」

 割れてしまったような声で叫ぶ王様。
 私はそれを聞いて、メイスの柄をぎゅっと握りしめた。
 言ってるコトがめちゃくちゃだよ、王様。
 そうじゃないんだよ、クエリちゃんはあなたと王城に居ても、幸せじゃなかったんだ。
 綺麗なお洋服を着られても、おいしいご飯を食べられても、幸せになってなかったんだよっ!
 なんで……なんでそれが、わからないのさっ!?
 思わず叫びそうになった時、静かに前に出てマドラさんはついに口を開いた。
 その表情は先ほどまで見せていた悲しいものではなく、静かに燃える怒りを感じさせるものだ。

「……陛下。申し訳ありませんが、もはや今のあなたにクエリを預ける事はできません。クエリが求めている幸せとは何なのか、それに気付けないばかりか、矢を放とうとまでするあなたに、クエリを幸せに出来るとは思えませんっ!」

 ぴしゃりと突きつけるかのように放たれた、マドラさんの言葉。
 意思を込めたその返答に、騒がしかった周囲が一瞬にして静まり返る。
 おぉぉおおっ、言ってやったー!
 びしっと言ってやったよー!
 ここまでハッキリ言われれば、あの空気読めない王様も少しは解るんじゃないかな!?
 ……なんて期待したのも束の間。
 マドラさんの言葉を聞いた王様に、予想外の変化が起きた。

「マ、マド、ラ……ぬっぐ、ぐうううぅっ……!」
「こ、国王陛下っ!? いかがなさいましたか!?」

 頭を抱えるようにして唸り声を上げ始めた王様の様子に、近くにいた騎士団長さんが気付き声をかける。
 はじめはマドラさんの言葉に対して怒ってるのかな、と思ったけど……どうも様子がおかしい。

「うぐ、ぐぅぅっ……! グウ……グウアアアアアアーーーーッ!!」
「へ、陛下っ!? 陛下ぁぁっ!!?」

 すぐ横で叫ぶ団長さんの声など聞こえていないかのように、天を仰ぎ背中を反らせながら、奇声を発する王様。
 ひ、ひぇぇ……こりゃいよいよおかしいぞ。
 自らの頭を両手で鷲掴みにし、皮膚に爪が食い込むくらいに力を込めて叫ぶ有様は、とても正気であるとは思えない。
 間近でその様子を見ている騎士団長さんも、剣を捨てて王様を羽交締めにしようとしている。

「ネ、ネムちゃん、あれ…………」
「ああ、どう見ても異常だ。マドラさんに論破されたからと言って、あんな風になっちまうのはおかしい。王様はああいう病気なのか、もしくは何か他の ──────── 」

 遠目で見ていた私は、身体をうねらせる王様の様子を観察していた。
 そのすぐ横で見ていたマドラさんが、突如叫ぶ。

「うそ……!? そんな、何故……!?」
「ほぇっ!? マドラさん、どうしたんですかっ!?」
「陛下から……魔力が発せられています!」

 えっ?
 ど、どういうコト?
 王様が魔力を放出してるの? それって、何かおかしいコトなの?
 首を傾げている私に、マドラさんは寄り添うように近付いてから話してくれた。

「国王陛下は本来、魔法が使えない方です。私たちのように身体に魔力を備える事ができないので、本来なら魔力などお持ちでないはず、なのですが……ああっ、危ないっ! 皆さん、伏せてくださいっ!!」
「えっ!? ええっ!?」
 
 血相を変えて叫ぶマドラさん。
 その声を聞いた私は、思わず頭を抱えてうずくまる。
 私を守ってくれていたネムちゃんも、『伏せ』をするように限界まで姿勢を低くした。

「へ、陛下!? へい ────────────────」
「グアアアアアアアアァァァァァァーーーー!!!!」

 直後、王様が悲鳴にも近いような声を上げた。
 騎士団長さんが止めようとしていた矢先、その身体が不気味な色に光り始める。
 叫び声と共に、王様を中心に黒い波紋のようなものが急速に広がっていくのが見えた。

「ぐあああああっ!?」
「ひっ、ひ……がっ!?」
「ぎゃああああああっ!!」

 黒い波紋は周囲にいた騎士さんや弓兵さんたちに直撃した。
 これはもしかして、魔力によって生じた波紋!?
 マドラさんのおかげで地面に伏せていた私たちは、間一髪で迫り来る波紋を避けるコトができた。
 運悪く巻き込まれた騎士さんたちは、大きな悲鳴を上げながら身体を硬直させている。
 ど、どうなってるの!?
 なんで……何で王様が、騎士さんたちを攻撃するの!?
 真夜中の花畑に次々と倒れ込む騎士さんたち。
 しかししばらくすると、地面に横たわっていた騎士さんたちが次々と起き上がり、まるでゾンビのような格好で歩き始めた。
 その顔には、まるで生気が無い。

「な、なに、これ……!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...