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第7-2話 王様、何をしたのっ!?

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 ネムちゃんが言い放った言葉は、にわかには信じ難いほどの蛮行だ。
 だがそれが実際に行われたコトだというのを、他ならぬ王様の表情と、噛み締めた奥歯の軋む音が物語ってしまっている有様だ。

「お姫様の見ていた夢から察するに、恐らく謁見の間で暗幕をかけられていた王妃が亡くなったあとに、どこかから連れ去ってきたんだろうな。はじめは俺も解らなかったぜ。お姫様があまりに幸せそうな夢をみているもんだから、てっきり死んじまった王妃との幸せだった日々を思い出して泣いているもんだとばかり思っていた。だが ────────────────」

 怒りに震える王様の前で、ネムちゃんは淡々と続ける。

「夢の中に出てきたとおり、クエリ姫の母親は娘と同じ金髪の女性だ。なのに、暗幕のかかった肖像画の王妃は明らかに黒髪だった。となれば、導かれる結論はひとつしか無え。王妃とは違う女性のところにいたクエリ姫を、あんたが無理矢理連れ去ってきたんだろ?」
「な、何をばかげた事を……! す、すべてはまやかしだっ! 今の夢の風景が本当の出来事であったなど、誰が証明できるというのか! きさまの魔法で作り出した映像だろう!? そうとも、今のは魔物である貴様の見せた幻術で ────────!!」

 歯切れの悪い言葉を発しながら目を泳がせる王様。
 一国の王が、女の子をさらってきたなんて信じがたいけど……この様子じゃもう間違いないな。
 必死なまでにネムちゃんの証言を否定をしているけど、はっきり言って逆効果だね。
 ムキになって反論すればするほど、周囲にいるメイドさんたちの表情が暗くなっていくのが分かる。

「王様よぉ……茶番はそこまでにしようぜ」

 何とか周囲にいるメイドさんたちに弁明しようと慌てる王様の前で、ネムちゃんがぼそりと呟く。
 うわっ、ネムちゃんの目が赤く光ってる。
 周囲にある魔力が、ネムちゃんを中心に渦を巻くようにのたうち回っているのを感じる。

「ネ、ネムちゃんっ!」
「さっき言った通り、俺は夢を見ている人間の感情を感じる事ができるんだ。クエリ姫はなぁ……あんなに幸せそうな夢を見ていたのに、心の底ではずっと、ずうっと泣いてるぜぇ……夢を具現化しているとき、お姫様の悲しそうな感情がずっと叫んでるのが聞こえるんだ……! 『お母さんにはもう会えないのかな』、『どうして会えないの』ってなぁぁぁっっ!!!!」

 ネムちゃんが怒りの声をあげた次の瞬間、ふわふわと浮いていたネムちゃんの身体から強烈な光が発せられた。
 薄暗かった寝所が、まばゆい光に包まれる。

「わっ!!」
「ぬ、ぐっ……!?」

 思わず目を覆った私たちが次に目にしたのは……

「ぐおぉぉおおおぉぉっ!!」

 巨大な姿に変化した、『幻獣モード』のネムちゃんだった。

「うわわわっ!? ネムちゃん、本気モードになっちゃった……!」
「ぐるるるるる…………」

 轟音の雄叫びを上げたあと、低く喉を鳴らすネムちゃん。
 実はネムちゃんは、すごーく怒った時や戦わなきゃならなくなった時にこうして姿を変えることができる。
 ネムちゃんの真の姿、それは今私の目の前にあるような、体高7mはあろうかという巨大な四足歩行の獣だ。
 短く太い手足にはトラを思わせるようなまだら状の模様があり、その先には鋭い爪が突き出している。
 三本に分かれた尾は先端にいくにつれて太くなっており、ひとつひとつがしなやかに踊っているかのよう。
 そしてライオンを思わせるほどに長く伸びたたてがみは、ほのかに紫色に発光していた。
 何よりも特徴的な長い鼻は、目の前にいる王様を威嚇するかのようにうねうねと蠢いている。
 凄まじい迫力を感じさせるこの姿を見せたというコトは、ネムちゃんが本気で怒ってる証拠だ。

「ひ、ひいぃぃぃっ!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!!」

 その姿を見たメイドさんや執事さんたちが、大きな悲鳴をあげた。
 無理もない。クエリちゃんの寝所はかなり天井が高く作られているけど、その天井付近にまで届くくらいネムちゃんは大きくなっている。
 極太になった前脚を一振りしただけで、人間なんて全身ぐしゃぐしゃの複雑骨折になっちゃうでしょっていうくらい迫力がある。

「な、あ、あぁ…………!?」

 さっきまで怒り顔で迫ってきていた王様も、変貌したネムちゃんの姿をみて大口を開けていた。
 腰を抜かしそうな王様に向かって、一歩また一歩とのしのし進んでいくネムちゃん。
 あ、マズい。このままだと本当に王様をぶっ飛ばしちゃうかもしれない。

「ネムちゃーんっ! ストップ、ストップー!?」
「ぐるるるる……ピルタ、大丈夫だ。ついおこりすぎてこの姿に変わっちまったが、俺は冷静だぜ」

 小さなバクのような見た目だった時とはうって変わって、重低音のイケボで返事をするネムちゃん。
 今にも目の前の王様の身体を太い前脚でパンチしてしまいそうだったので慌てて止めに入ったけど、意外にも声はしっかり落ち着いてた。
 ひとまず、王様を肉団子にしちゃう心配は無さそう。
 怒りの表情はそのままだが、ネムちゃんははっきりとした口調で呟く。

「夢を具現化している時、お姫様の悲しんでいる感情が俺の中に流れて来てな……どうしても、この人でなしの国王が許せなかったんだ」

 頭を低くして威嚇をするネムちゃんは、長い鼻の下から見える象のような牙をのぞかせるようにして見せた。
 一見してとっても恐ろしい姿だが、私はネムちゃんの言葉に愛らしさを感じていた。
 だってさ、お母さんと離れ離れにされて悲しんでいたクエリちゃんのかわりに怒って変身したってコトでしょ?
 あーん、めっちゃイイ子じゃん。

「ぎゃああああああああっ! に、逃げろぉぉっ!!」
「いやぁぁぁっ!! 助けてぇぇぇぇっ!!」
「ひいいいいいいいいいいっ!!」

 部屋の隅では、ネムちゃんの姿を見たメイドさんたちがパニックを起こしていた。
 十数人いる人たちが、逃げ惑うように寝所の入り口を目指して殺到している。
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