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第4-3話 王城に行くよっ!

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 私たちの声がちょ~っと大きかったせいなのか、お姫さまは半歩下がる。
 そのままおずおずとした動作で王様の玉座の近くに寄っていった。
 王様が座るその横……本来なら王妃様が座るであろうもう一つの玉座の手すりに、縋り付くようにして立った。
 そんな動作ひとつが、もうホントに可愛 ────────

 ……………………あれっ?
 そういえば、王妃様っていないのかな?
 私たちがこの謁見の間に入った時から、王妃様の玉座は空席のままだ。
 お姫さまが居るってことは、そのお母さんである王妃様も居るんだろうけど……。
 そう思い視線をあげると、本来王妃様が座るであろう玉座の上に肖像画が飾ってあるのが目に入った。
 さっき入口からは見えなかったけど、ここまで来るとよく見える。
 王様が座っている金色の王座の上には、金色の額縁に入った王様本人の巨大な肖像画がかけられている。
 対して王妃様と思われる銀色の額縁に入った肖像画には……黒く薄い暗幕がかけられていた。

 何で肖像画に、黒い幕なんてかけて……
 ん? 待てよ?
 これどこかで見たことあるぞ。
 肖像画に黒い幕をかけるのって、確か……描かれた本人が、亡くなっちゃった時だ。
 私が日本にいた頃に見た『雪の女王』の映画でやってたから、覚えてる。
 海難事故で亡くなった王様たちが描かれた肖像画に、臣下と思われる人が泣きながら黒い幕をかけているのを。
 と言うことはつまり……この国の王妃様って、もう死んじゃってるのかな……?
 私がこの異世界に来たのが1年前くらいだけど、そんな話は聞いたコトが無かった。
 王妃様がお亡くなりになられたとあれば、酒場でそんな話を耳に挟んでもいいはずだし。
 多分、私がこの世界に来るよりももっと前にお亡くなりになってるのかも。
 となると、この肖像画はもはや遺影みたいなもの、なのかな……。
 暗幕の掛かっていない部分から覗く、肖像画の下半分に見える在りし日の王妃様の艶やかな黒髪が、何だか不気味に見えてしまう。

「実を言うと、今回そなた等を探していたのは他でもない、このクエリの『悪夢』を決して欲しいからなのだ」

 私がひとりぼんやりと考え事をしていると、鋭く響く王様の声が発せられた。
 ちょっとだけ表情を固くして王様たちの方を見ると、お姫さま……クエリちゃんは、どこかしょんぼりした表情で俯いている。

「『悪夢を消す』って、そちらの姫さんが悪夢に悩まされてるって事かぁ?」
「そうだ。クエリはこのところ寝所に入ると、毎夜のように眠りながら涙を流しておるのだ。恐らく何か『悪い夢』を続けて見ているのだろう、そのせいで……見ての通り、すっかり憔悴しょうすいしてしまっておる」

 ため息混じりに続ける王様に言葉に、クエリちゃんは俯いたまま頷きもしないでいる。
 ははぁ、ちょっと眠たそうに見えたのは、悪夢のせいでゆっくり寝られていないせいだったのかな。
 だからあんなに眉を顰めて、唇を噛むような表情で下を向いちゃって…………。
 でもなぁ……寝不足っていう理由にしては、なんであんな悲しそうな表情をしてるんだろう??

「すみません、王様。クエリちゃ……じゃ無かった、えぇと、お姫さまが寝不足なのは見たカンジで解るんですけど、その」
「ん? 何だ、聖女殿」
「いえ、えっと……お姫さまが見てる『悪夢』って、どんな内容ですか? もしお姫様から聞いていれば、ちょっと教えて欲しいんですが」

 この時、私はちょっとだけ後悔した。
 ろくに言葉を選ばずに、どストレートに疑問をぶつけてしまったのだ。
 
「聖女殿」

 間髪いれず、王様の声が響く。
 それは、今までの客人に対する柔和なものではなく、どこか怒りを滲ませたような強張ったものだった。

「は、はいっ?」
「それは必ず聞かなければならぬ事か?」
「へっ?」

 空気ががらりと変わる。
 石造りの謁見の間に、沈黙が走った。

「『悪夢』の内容は、必ず聞かねば依頼を遂行できないのか、と聞いておる」
「え、いえ、そんなコトは無いんですけど、でも内容が解っていればより万全と言うか ────────」
「であるなら、すまぬが聞かずにいてやってくれまいか」
「え、えっ……? え、や、それは、その……」

 こ、こわっ。
 有無を言わさず、といった印象の返答。
 思わず返答に詰まっちゃったよ……。
 当たり前のコトを聞いたつもりだったんだけど、一気に場の空気が変わっちゃった。
 静まり返った部屋の片隅から、壁際に整列している騎士さんのうちだれかが固唾を飲んだような音が聞こえてくる。
 ちらりと横目で見ると、ネムちゃんも違和感を感じたようで小さく首を傾げている。

「……簡単な話だ。要は、そなた等には今夜、クエリの寝所にて『悪夢』を消して欲しいだけだ。できるか?」
「や、そのっ……あ、悪夢を食べてくれるのは、こっちにいる私の相棒のネムちゃんなんですが……」
「構わぬ。例え人外の者であっても悪夢を消すためならば、我が娘の寝所への同席を許可する」
「そ、それから……『悪夢』を浮かび上がらせるにはお姫さまの深い眠りが必要になりますので、私が昏睡魔法をお姫さまにかけるコトに……」
「無論、構わぬ。そのために私は騎士団に勅命を出し、そなた等を探させたのだからな」
「や、でも、あのっ……私の魔法は結構強いようでして、もしかすると数日間眠っちゃうコトもあって……」

 続けて確認しようとした私の声が終わらないうちに、低い声が響き渡る。

「くどいぞ、聖女殿。他ならぬ王である私が、『構わぬ』と言っておるではないか」

 ……即答も即答。
 そして訪れる沈黙。
 王様は、クエリちゃんの方を見向きもせずに答えた。
 まるで雷が落ちたあとのような、異様な雰囲気。
 うぅぅ、何だよぉもー、怖いよぉ。
 人間って王様ともなるとこんな怖い性格になっちゃうもんなの?
 昏睡魔法を娘にかけられるんだよ?
 かける私が言うコトじゃないけどさぁ、ちょっとは心配しありしないの!?
 クエリちゃんが見ているであろう悪夢を取り払いたい一心からくるものかも知れないけど、それにしたって異質すぎる。
 あれじゃあすぐ隣で聞いてるクエリちゃんだって怖いだろうに……。
 気まずい静寂を破るかのように、王様は存分に威厳を含めた声を発した。

「そちらが可能なら、今夜にでも『悪夢祓い』をして頂きたい。必要なものを申してみよ、国王の名にかけてすぐに用意させよう」
「あの……いえ、わかりました……それじゃ、あの、今夜にでも取り掛からせて頂きますので……」

 すっかり恐怖政治モードになった王様の声に、私はちょっと気圧されながら答えた。

「いつでも実施は可能ですが、お姫様に負担にならないよう、極力いつも通りの眠る時間に行います。お姫さまにはお夕飯とお風呂を済ませて頂いて、いつも寝る時に着ている服装に着替えてください。場所は、いつもお姫さまが寝ている寝室で。念のためちょっと早めに取り掛かります……日が落ちたらすぐに行うカンジでもいいですか……?」

 私はちょっと王様にビビりながら、必要なことを一気に伝えた。
 昏睡魔法をかけて、悪夢を食べるという作業は、ハッキリ言えばいつでもできる。
 なんなら、今すぐこの場でだって可能なんだよね。
 でも『悪夢』を浮かび上がらせるほど深い眠りに入るためには、極力いつも寝ている時と同じような環境にしてもらう方が安定するんだ。
 それに昏睡魔法をかけるとその場で倒れるように眠っちゃうから、こんな場所よりも当然ベッドで行った方が安全だし。
 ……と言う理由も、念のため伝えた方がいいかなーなんて思いながら口を開きかけたところ、王様はまたもや即答してきた。

「承知した、聖女どの。日の入りと共に始められるように、クエリの夕餉と沐浴を早めに行うように侍従長に伝えよう」

 そう言って王様が横目で見るだけで、近衛兵のひとりがすぐさま裏へと消えていった。

「聖女殿と霊獣殿には一室を用意させて頂く。日の入りまでそちらで過ごされよ。メイドを呼び、案内させる。では」

 それだけ言うと、王様もすくりと立ち上がりマントを翻して後室へと去って行った。
 私たちの返事なんて興味ないよって言わんばかりの、しおしお対応。
 広い謁見の間に残された私たちは、何とも居心地が悪い。
 横目で見ると、ネムちゃんも肩をすくめて盛大にため息を吐いていた。
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