上 下
9 / 42

第4-2話 王城に行くよっ!

しおりを挟む
 重たいはずの鉄扉は、私が軽く押しただけで滑らかに開いてゆく。

「ごくり……」

 思わず唾を飲み込んだ私が扉に先に見たものは……謁見の間と思われる、広大な空間だった。
 石造りの壁は灰色で、ところどころに並んでいる彫刻のようなものは黒い鉄のようなものでできている。
 奥に見える王座の周囲は白いカーテンがかけられており、それぞれ金と銀で作られた椅子が見える。
 その上には、王様と王妃様のものと思われる巨大な肖像画がかけられているようだが、入り口のここからではよく見えない。
 とにかく広い。それに天井も高い。
 だが、目に入るものの殆どがモノトーンの色彩で覆われており、やはりどこか冷たさを感じるのは気のせいじゃないはず。
 そんな空間の最奥、やや高くなった王座の周囲にひとりの人影が見えた。

「…………おぉ、来たか」

 その人は不意に顔を上げてこちらを見ると、ぼそりと呟くように口を開いた。
 かなりの小声だったはずだけど、構造のせいか入り口にいる私たちまでしっかりとその声が響いてくる。
 たぶん、あの人が王様 ──────── レアリーダ3世っていう人かな?
 それなりの年齢を感じさせる、やや掠れた声だ。

「ピルタ様、ネムちゃん様、王の前へお進みください」
「ふぇっ!?」

 いきなり横から声が聞こえたものだから、ビックリしちゃった。
 よく見ると、王座へと続く部屋の壁際にずらりと騎士さんたちが並んでいた。
 みんなピクリとも動かないで整列していたものだから、他の彫刻と同じだと思って目に入ってなかった!
 うぅぅ、怖いよぉぉ。
 私は左右をちらちらと見ながら、一歩ずつ部屋の奥へと歩いていった。
 近づいてくる私たちの姿を見て、王様は金色に輝く王座にゆっくりと腰を下ろした。
 私たちが目の前まで歩いてきたコトを確認すると、ひとつ咳払いをしてから話し始める。

「私の望みに応じ、よく来てくれた。『安らかなる眠りを齎す聖女』殿」

 へっ?
 何だって? 『安らかなる眠りを齎す聖女』??
 耳慣れない名前ですけど、もしかしてそれって私のコトですかね!?
 返答に困った私が反応できずにいると、王様は玉座からゆっくりと立ち上がりながら続けた。

「んん? そなた達は、街で噂になっている『悪夢を消す聖女と、その使い魔』ではなかったか?」

 うげっ。
 一瞬にしてピリッとした空気にっ!
 部屋の左右に並ぶようにして待機している近衛の騎士さんたちからも、プレッシャーをかんじるぅぅっ!
 こ、ここで「違います」とか、「そんな名前知らんし」とか言ったらどうなるんだろう……。
 きっと、たぶん、恐らく私をさす二つ名に間違いないので、テキトーに話を合わせておこう……。

「えっ、あっ! そ、それでしたら、たぶん私たちのコトですっ! ふ、普段は『悪夢祓いの聖女』なんて呼ばれてますので、『安らかな眠りを齎す聖女』って呼ばれてるかどうかは知りませんでしたけど、え、えへへ……」
「……さらに細かいコト言えば、俺はピルタの使い魔じゃ無ぇけどな」
「おぉ……そうかそうか。いや、失礼した。ワシも街の者たちの噂を聞いただけだったのでな」

 不安げな表情から一転、安堵したように肩の力を緩める王様。
 いやぁ、焦っちゃったよね。まさか自分たちがそんな風に呼ばれてるなんて聞いたコトも無かったから。
 謁見の間全体の空気が和らぐのを感じる。
 う、うぅぅぅぅ……な、なんだか空気がおかしいぞ!?
 どうしてこんなにぴりぴりしたムードなんだよぉぉぅぅ……。
 しかし、ふむ。『安らかなる眠りを齎す聖女』、ですか。
 悪くないわねっ! そのネーミング!
 『悪夢払いの聖女』も捨てがたいけど、なかなかカッコいいわっ!

「えへ、えへへへ、私のような『聖女』でお役に立てるかどうか……んふふふ」
「……お前のその聖女っぽい服は、半年前に盗んできたもんだろうがよ。修道女の服を着てるだけで『聖女』を名乗るのは、どうかと思あいででででで!?」

 私の称号に関して横からクレームを入れてくるバク似の幻獣さんがいらっしゃったようなので、お尻の毛を引っ張ってやった。
 いいでしょうがぁ! 『聖女』を名乗ったって! だってカッコいいんだもんっ!!
 そんなやりとりをしている私たちなどまるで意に介していないかのように、王様はツッコミもないまま続けた。

「そなた等に、折り入って頼みがある。どうか私を助けて欲しいのだ。そなた等は、人の見る『悪夢』を消す事ができるのであろう?」

 そう言って王様は、最も近くにいる近衛兵に視線を送ると、なにやら頷いて見せた。
 近衛兵さんは敬礼のあと奥の部屋に入って行く。
 と、すぐに誰かを連れて出てきた。
 あ、あれは…………?

「紹介しよう、わが娘であり当家の姫でもある、クエリだ」

 低く響く王様の声が向けられたのは、一人の小さな女の子だった。

「(わっ……! か、可愛いぃっ! お、お姫さまって言った!?)」
「(うぅむ。どうやら、そうらしいなぁ……)」

 王様の声に促されて出てきた女の子は、それはそれはもーめっちゃくちゃ可愛い子だった。
 輝くような金色の髪は腰のあたりまで伸びていて、その一本一本の毛先まで手入れが行き届いているのが解るほどに艶やかだ。
 眠たそうにしている目は透き通るほどの碧眼で、可愛らしさ溢れる顔に凛とした印象を抱かせる。
 この異世界で上流階級の人々が好んで着用しているようなピッチリとしたドレスではなく、どこかゆったりとしたフリルの服を着ているのが一層愛らしさを際立たせている。
 小さなピンク色をしたクマ……のような異世界生物のぬいぐるみを両手で抱きかかえている姿が……はぁぁぁぅっもう可愛いぃぃ~~っ!!

「こ、こんにちは……。クエリ、えと……クエリ=レアリーダ、です……」

 クエリちゃん、と名乗ったお姫さまは、私たちに向けてぺこりと小さくお辞儀をした。
 来訪者である私たちに緊張しているのか、それとも本当に眠いのか、どこか動作が緩慢だ。
 だが、そこがいい。かわいい。

「こんにちはっ、お姫さまっ! 私はピルタ!」
「俺はネムだ。よろしくなぁ、お姫様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...