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第3-2話 王様が私を探してるっ!?

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 ちょっと低めのトーンに変わった騎士団長さんは、ネムちゃんの方を見ながら目を細めた。
 
「あ、この子ですかっ? この子はネムちゃんで、私の相棒ですっ!」

 私はテーブルの上でふんぞり返っていたネムちゃんを抱き上げ、胸元で抱きしめた。
 当のネムちゃんは『いきなり抱っこすんじゃねーよテメー』とでも言いたげな不満いっぱいの顔でぶすくれている。
 いきなり目の前にネムちゃんを持ってこられた団長さんは、思わず身を逸らす。

「あ、相棒……? あ、あの……そのネムちゃん様は、魔物ではないのですか?」

 あ。
 しまった、やっちゃったかも。
 騎士団長さんはじめ、汗くさい銀鎧の男たち10人全員が兜ごしに顔を見合わせている。
 そーなんだよねぇ。
 この異世界の騎士さんたちって、魔物を本気で嫌ってるのよ。
 私が女子高生の頃にマンガやゲームで見たような、モンスターと共存するような世界の気配は一切ナシ。
 騎士団の名にかけて、魔物なんて隙あらばぶち殺してやる、なんなら絶滅させてやると言わんばかりの風潮があるんだ。
 まぁ仕方ないかなーって思う部分も多々あるんだよね。
 この異世界では、さっき言ったとおり町の外は魔物で溢れている。
 定番のスライムっぽいものから、小動物がちょっと凶暴になったようなカンジのものもいるし、更には人間なんて簡単に殺せちゃうような恐ろしい魔物もいるとか。
 この世界の人たちは、そんな魔物で溢れる土地に街を築き身を守りながら暮らしてきたんだから、魔物に敵意を剥き出しにするのも無理はない。
 今もテーブルの上にいる無害なコトこの上ない雰囲気のネムちゃんにさえ、銀鎧の男どもはあからさまな敵意をびりびりと向けている。
 そんな10人分の視線を真正面から受け止めながら、ネムちゃんは長い鼻からフンッと息を吐いてみせた。

「……なにか文句でもありそうな雰囲気だなぁ、騎士さんよ」

 あーもぉ、ネムちゃーん……。
 ちょっとやめなさいよぉ……そんな言い方じゃ、煽ってるようにしか聞こえないじゃない。
 この子ってば、見た目のほんわかさと裏腹に、人間の男性に対して喧嘩っ早いんだから。

「……人語を解するとは、ネムちゃん様は魔物でありながら聡いようですな。が、やはり人としての礼は知り得なんだご様子で……」
「へっ! そんなシケたツラも見せずに話すような野郎どもに、礼を示す必要なんてあるのかねぇ。それに言っておくが、俺は魔物じゃねぇ。『霊獣』だ。その筋肉しか入ってなさそうなってぇ頭でよーく覚えておけ」

 私に見せていた態度とがらりと変わってチクチクな嫌味満載のような言い方の騎士団長さんと、あからさまな態度をとるネムちゃん。
 騎士団長さんを小馬鹿にするように、ネムちゃんはかわいいフォルムのまま私の腕の中でふんぞり返っている。
 すごく緊迫した空気のはずだが、ネムちゃんの見た目のせいでいまいち緊張感がないなぁ……。
 ひとしきりバチバチの睨み合いが終わったかと思うと、騎士団長さんは大きなため息を吐きながら口を開いた。 

「人語を話す『霊獣』殿はおしゃべりがお好きな様子ですが……我々は『悪夢祓いの聖女』殿に用事があって参じたものです。貴殿には用事など無い故、下がり黙っておられると良い」

 しおっしおの塩対応をする隊長さんに、ネムちゃんは鼻で笑ってみせた。

「へっ」
「……何だ、何が可笑しい?」
「何がって、そりゃ何もかも可笑しいってもんだ。ピルタ、この『悪夢祓い』をお望みである隊長さんに教えてやったらどうだ? 王様がお望みである『悪夢祓い」の方法をよ」

 勝ち誇ったかのような表情で話すネムちゃんの言葉に、騎士団長さんは困惑気味に聞いてきた。

「何だ? どういう事だ?」
「えっと、あのぉ……もし王様が『悪夢祓い』を期待していらっしゃるのでしたら、ネムちゃんがいないと出来ませんよぅ……?」
「な…………そ、それはまことですか、聖女殿!?」

 驚きの声をあげる騎士団長さん。
 その後ろでは、9人の部下さんたちも顔を見合わせている。

「は、はい。私ができるのは昏睡魔法で深い眠りに就かせることだけで、実際に『悪夢』を処理するのはこのネムちゃんですし」
「ぬ、ぐぅ…………」

 私の言葉を聞いた途端に、隊長さんが心底気に食わなそうな声を出したのが聞こえちゃった。
 まぁそりゃそうだよね。
 自分たちが嫌ってる存在に頼らないといけないなんてなったら、そんな声になるわ。
 後ろの部下と思われる騎士たちも、小声で『王城に魔物を入れるなんて……!』などと話している。
 でもさぁ、そんなコト言われたってさぁ、『悪夢祓い』ができるのはネムちゃんがいるからっていうのは紛れもない事実だしさぁ。
 それに……ネムちゃんを置いて一人で王城まで来い、なんて言いたいなら即刻おことわり案件だよ!
 そんな私の心情を察知したのか、低く唸るようなうめき声をあげてから、騎士団長さんは立ち上がった。
 全身の金属鎧ががちゃがちゃと耳ざわりな音を立てる。

「相判り申した……ネムちゃん殿も同行させるべきかを王に確認して来ましょう。今夜はお近くの宿をお取りでしょうかな? 明日の正午過ぎに、再度我々がお迎えにあがりましょう。それでは」

 不機嫌丸出しになっちゃった騎士団長さんは、私の返事も聞かずにくるりと後ろを向くと、そのまま酒場の出口に向かって歩き出してしまった。
 ちょ、ちょっとぉぉ!
 まだ私、王城に行ってもいいなんて一言も言ってないんですけどぉぉー!?

「やーれやれ……騎士ってのは、相変わらずロクなやつがいねぇな。そう思うだろ、ピルタ」
「ふぇっ!? んもー、それどころじゃないよぅ……。ネムちゃんのせいで、なんだかなし崩し的に王城に行くコトになっちゃったじゃん!?」

 そんな不満を吐き出すように会話をしていた私は、ふと気付いた。
 酒場にいる、ほぼ全員が私たちを見てる。
 とんでもなく賑やかだった数分前が、まるでうそみたい。
 私はあまりの気まずさに、お皿に残ってた謎のお肉スライス全てを一口で頬張ると、そそくさと夜の酒場を後にしたのだった。
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