愛を知らないパトリオットへ

あず

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第2章 王都リグナル

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「おはようございます。ハロルド様。」

僕が王城に着き、王宮に身を寄せてから今日で7日目だ。今日は、家庭教師の先生が来てくれる日だ。どうやら、この先生にアルバート王と文官風の男こと、リオさんとアーシュと一緒に来た兵士、ナツメさんも教わっていたらしい。

「おはようございます、エイブラム。」

エイブラムは、アルバート王が僕につけてくれたお付きの従者。この時代にはとうに廃れている旧リーフレンド王国の建国史を盲信している侯爵家…リオさんの家の5番目の末っ子らしい。
毎朝、僕を決まった時間に起こしに来てくれる。決して遅くはない時間なのだけれども、その時間にはリオと同じ茶色い髪をきっちりまとめて、眠気の一つも覗かせない。

少し肌寒く感じると、エイブラムは僕の肩にブランケットをかけてくれた。そして、温かい湯の張った桶と、ふかふかのタオルを手渡される。

こんな、甲斐甲斐しく世話をされているが、この時代に僕の身分なんて無いのだから、そこまで敬われる訳にはいかない。
それに、元々は身の回りの世話をしてもらう立場ではあったけど、決して自分でできないわけでは無いのだ。

「ありがとうございます。いつも、申し訳ないです。」

僕がそう言うとエイブラムの目がくわっと見開かれた。少し怖い。

「なにを言っているんです、ハロルド様!この、美しい金色の髪!あなた様は、間違いなく神の末裔です。崇め奉らない訳には参りません。あなた様にお仕えできることが!私めの!幸せで!」

「わ、わかったから!落ち着いて!」

フンフンと鼻息を荒げて拳を握り力説するエイブラムを宥める。

「でもね、僕にはそんな自覚が無くて…神様の力というのも全然、分からなくて。だから、エイブラムには従者というより、その、友人として、ハロルド様とか敬語もやめて、僕の側にいて欲しいのだけれど。…だめ、かな?」

僕と同じ歳であるにもかかわらず僕より拳一つ分背の高いエイブラムを見上げて、そう持ちかける。
エイブラムは、動揺したようにゴクリと喉を鳴らした。

少しだけ、本当に少しだけ、エイブラムの盲信が恐ろしかった。もし、僕が神の力を持っていないとわかったら、エイブラムは失望するんじゃないだろうか。そして、とても、悲しむんじゃないだろうか。

こうも純粋に建国史を信じてくれているのだ。その反動がどうなるのか、分からない。

「分かりました…いや、うん、分かったよ、ハロルド。でも、やっぱり身の回りのお世話はやらせて?これは、わた…俺の生き甲斐だから。」

真っ直ぐ見つめられて、生き甲斐だなんて言われたら、頷かないわけにはいかない。

恐る恐るではあるけれど、ひとつ、縦に頷く僕を見て、エイブラムは満足げに、にこりと笑った。

「じゃあ、ハロルド。俺のことはエイブ、ね?」

「だったら、僕もハルだ。」

そう言って、僕たちは笑い合った。
会って5日目。ようやく、心が近づいた。

「そうだ、ハル。家庭教師の先生だけどね、急用で午後にしか来られなくなったんだって。」

エイブがそう言って、僕の身嗜みを整える。エイブは、なぜか、僕の身嗜みを整えるとき、ものすごい気迫と執念を感じるほど、手をかける。

まず、初日に伸びっぱなしの髪を短くしたいと提案したら、例の如くくわっと目を見開いて全力で止められた。しかし、確かに伸びっぱなしでは良くないから、と、毛先を揃える程度に髪を整えた。
その髪を毎朝三つ編みに編む。
そして、王宮内を歩くのに恥ずかしくない、アルバート王が用意してくれた服に着替える。役職があるわけではないから、特に決まりはないらしい。
僕は、今のところ、アルバート王の客人扱いだ。

そして、毎日女の人でもないのに爪を整えられ、全身をくまなくチェックされる。

「では、午前と午後の予定を入れ替えよう。午前は図書館で調べ物だ。」

「また、図書館に行くの?」

エイブが眉を潜めて嫌そうな顔をする。

僕はアルバート王の客人として、この王宮に身を置いている。王宮内はそれぞれの自室以外ならどこでも自由に使って良いと言われており、王城も図書館の利用だけは認められている。
王城の一角にある国立図書館はとても大きく、様々な種類の本が蔵書されている。

そこで僕はこの国について、家庭教師のテル様に教えてもらうこととプラスして調べ物をしているのだ。文字はエイブに教えてもらいながら読んでいる。

「ごめんね、エイブにはまた、文字を教えてもらいながらにはなるけど。」

「俺が嫌なのはそれじゃないよ。新国教徒の奴らの目が嫌なんだ。こんなにも美しいハルをまるで敵みたいに!」

この国、新リーフレンド王国の国民は新王国神殿の教えから、旧リーフレンド王国を滅亡へと追いやった旧王家を敵視している。

そのため、旧王家の象徴である金色の髪を持つ僕を見て、みんないい顔をしないのだ。特に神殿の神官たちは顕著で僕を見つけたら顔を袖口で覆い僕を避けるように道を通る。
それを見て、少数派である旧王家支持派のエイブは怒り心頭。僕よりも怒っているのだ。

それを苦笑いして見つめながら、準備を整えて、朝食を自室でとり、僕たちは図書館へ向けて部屋を出た。

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