愛を知らないパトリオットへ

あず

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第1章 新王国

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簡単に言えば、僕は今日の夜、僕を買った人に抱かれるらしい。

兵士から侍女に引き渡されて、蒸気がいっぱいに霧のように満たされた部屋へと連れて行かれた。
大きな桶にお湯がはってあり、オフロと言うらしい。入るのにためらった僕に抑揚のない声で侍女が教えてくれた。それと、おじさんのことは“旦那様”と呼ぶように、と。

僕はそこで隅々まで綺麗にされた。
全く表情のない侍女たちはメイドと言うらしく、僕の人には見せない恥ずかしいところや、自分でも見たことがないようなところ、最後にはお腹の中にお湯を入れてお腹の中まで綺麗にして行った。
綺麗にしろとは言われてたけど、そんなところまで…?

と思っていたら、メイドの1人に、今日の夜“旦那様”に抱かれると言うことと、その時にそこに入れるのだと言うことを教わった。

頭の先から足の指先までピカピカになった僕は、そのままオフロの隣にあるキラキラした装飾品や服、靴などが並べられた部屋へと連れて行かれた。

メイドはその服の中から、僕に合いそうな服を選ぶため、部屋の奥へと入って行った。

メイドが選んだのは僕の目の色と同じ深い青色の宝石が襟や首元のボタンあたりに装飾された白いドレスシャツに同じような青色のジャケットのようなもの。ズボンは白のピッタリしたものだった。ブーツはジャケットに合わせた青色である。
僕の時代の貴族の正装に近いが、ずっと着心地が良く、ずっと軽かった。

この服に決まる前に男女問わず色々な服を着せられた。
肩から胸元がすっぽり開いたドレスを着せられた時は流石に勘弁してくれ、と思った。

全ての“準備”と言うやつが終わる頃には高かった太陽が傾き、外はほんのり薄暗くなっていた。

僕は先ほどまで薄汚れていた体は本来の肌色に戻り、ゴワゴワとしていた髪はツルツルのサラサラに変わっていた。

そして、僕が4人は裕に寝られそうな大きな天蓋付ベッドのある部屋へと連れてこられた。ここが、“旦那様”とドレイの寝室らしい。
座ったベッドはものすごくふかふかで、こんなところであのねばねば声のおじさんに抱かれるのかと思うとゾッとした。

そして僕は、ここへ来てようやく、1人になることができた。

この部屋には今、僕しかいない。

善は急げ、だ。
足音をなるべく立てないように、大きな窓のある方へと行く。そこは、バルコニーへの入り口となっていて、出れば庭を見下ろせる。そっと窓を開けて、バルコニーに出て周りの様子を見てみると、もう夕方だからか、真下の庭には誰もいない。
横を見ると、どうにか壁を伝って隣の部屋へと行けそうだ。

だけど、メイドの様子からして、他の部屋には鍵がかけられてるに違いない。
庭までは大体3階の高さと思い切れば、飛び降りれないでもないかもしれない。が、さすがに飛び降りて怪我でもして動けなくなったら困る。

どうにか、壁を伝って下りる方が現実的だ。
そして、地下室への通路を探さなければならない。アーシュを助けなくちゃ。

最後に手を伸ばしたアーシュの顔を思い浮かべながら、僕はメイドによってつけられた滑りのいい手袋を取ってポケットへとしまった。取っておけば、今後何かに使えるかもしれない。

壁を真横に少しだけ伝って、雨水を流す管を伝って下りるのが一番いいかもしれない。

頭の中で簡単にシュミレーションをしてから、窓が閉まっていることと周りに人がいないことを確認し、バルコニーの手すりへと乗り上げた。

壁の装飾のに足をかけ、出っ張りを手で掴む。下を見ないように、震える手に力を入れる。
二歩、三歩進んだところで、ガチャリと僕がいた部屋と反対側の部屋の窓が開けられた。

そこから顔を出したのは、“旦那様”だった。
顔を覗かせた“旦那様”は目を見開いて僕を見た。
まずい。
ばれた。
目標の管は“旦那様”の向こう側だ。

「おい!何をしている!?誰か!誰かおらんのか!」

“旦那様”が大きな声で怒鳴り散らすと、僕がいた部屋のバルコニーに僕をここまで連れて来たメイドが出て来た。その顔はやはり驚いた顔だ。

僕はとっさの判断で、今いた場所から飛び、足をかけていたところに指を引っ掛けて、下の階の窓を蹴破った。

割れたガラスの隙間を通って、室内へと侵入する。
割れたガラスの先で所々怪我をしたが、大したことはないと、気にすることなく、周りを見回す。
部屋の中には武器になりそうなものが特にないため、とりあえず、ソファーに置かれたクッションを手に取る。

ドアを開けるとすぐそこまで来ていた先頭の兵士の顔面に向けてクッションを放る。

怯んだ隙に僕は反対方向へと走り出した。

「待て!早く追え!あっちは行き止まりだ!」

兵士の声が後ろから聞こえる。
しまった。反対方向は階段がない。

考えてる暇はない。
廊下の一番角にある窓を開け放って、そこに足をかける。

よく下を確認することなく、僕は地面を蹴った。




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