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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
リレウ・アンティエール ④
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「ひぃああああ!?」
「・・・え?」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
何故、私の目に指を突っ込もうとしていた衛兵の片腕から血が噴出している?
リレウはしばし思考がフリーズする。そんな凍った思考を溶かしたのは、耳に聞こえてきた誰かの声。
『はぁ。リディシア王国の衛兵の中にクズ共がいるとはな。呆れる』
「ははは、彼らも昔はちゃんとしてたんだけどね。残念すぎて反吐が出るよ」
若い少年の声と少し大人びたような男性の声だ。
「・・・ぅ」
全身が痛みに襲われ視界が霞む中、リレウは消えかかる意識を無理矢理引っ張り、声の主の姿を確認する。
「ふっ、まだ意識が残っていたか」
「あぁ。そうみたいだけど、そろそろ限界っぽいね」
若い少年とローブを纏う男性がリレウを見て告げる。
何故、彼らは私を助けた?
彼女の中でそんな疑問が生まれた。今まで誰一人救ってくれなかったというのに。昨日のあの女といい彼らも人間とは違う存在に思えて怖い。
私に『|奇跡』なんてあっちゃいけない。
なのに--
「・・・んで」
微かに漏れた疑問の声。それを最後にリレウの意識は途絶えた。
「意識が途絶えたか」
「みたいだね。さて、彼女の治療をしたい所だけど、彼らが邪魔だね」
ローブを纏う男性は、切断された片腕の傷口を治癒魔法で止血した衛兵とその仲間達を見る。彼らの表情は恐怖に染っている。その理由は圧倒的な力の差では無い。彼らは目の前にいる若い少年とローブを纏う男性が誰かを知っているからだ。
「・・・な、なんで!お前らみたいなのが、こ、こんなとこ…!!?」
「ど、どうして…!!?」
「ざ、罪人をかばうつもりか!? 」
衛兵達は恐怖で震える声で叫ぶ。その姿に、若い少年とローブを纏う男性は人以下のものを見るような目と声音で、
『罪人? ふっ、僕からしてみれば神々が創りしこの世界を汚す貴様らの方が罪人だ』
「まぁ、人間なんてそんなもんさ。彼等みたいにクソみたいな奴らもいる。確かにこの子も罪人かもしれない。でも、そんな彼女を痛ぶる君らはそれ以下の大罪人だと思うね」
そう告げる。そして若い少年とローブを纏う男性は各々得物を取り出す。
若い少年は一冊の本を。
ローブを纏う男性は一本の杖を。
『抵抗するなら抵抗しろ。その足掻きが無駄だと思い知らせてやろう』
「僕的には無駄な抵抗はやめて欲しい所だけどね」
若い少年の本がペラっと開かれ、続けてローブを纏う男性の杖が輝く。その2人に対し、リーダー格らしき衛兵が、他の仲間に大声で叫ぶ。
「お、お前ら! お、俺を守って死ね!!」
「「へ?」」
そして2人を前に押し出すように蹴り、リーダー格らしき衛兵はよろよろとした足取りで逃げ出した。その姿はあまりにも醜く哀れだ。
『【神界裁書】ページ2。【醜悪者に、神の救いは無し】』
「【慈悲なき鎖】」
一言、彼らが発した。その刹那、
「ぎぃ・・・ああああああああぁぁぁ!!?」
逃げ出したリーダー格らしき衛兵の苦鳴が【スレイブ迷道】に響き渡った。その声に反射的に反応した仲間の衛兵達は自分達の目に映る光景に驚愕した。
「・・・ひぃ」
「・・・ぁう」
余りの恐怖にまともな言葉が発せれていない。それも無理はない。彼らの目に映るリーダー格らしき衛兵の姿はないのだから。あるのは、球体のようにぐるぐる巻きになっている鎖とその隙間からポタポタと流れる赤い雫のみ。しかし、その赤い雫は果物の汁とかではない。人の血。見間違える程、衛兵達の目は悪くない。
『神に背を向けた時点で、お前の死は確定していた』
「悪いけど、神の命には流石の僕も逆らえなくてね」
若い少年とローブを纏う男性は悪びれる様子もなく、リーダー格らしき衛兵が死ぬのは当たり前と言う感じで告げる。
『さて、残りを始末といきたい所だが【裁神】様に、始末するよう命じられたのはあの男のみ。命拾いしたな、貴様ら』
「良かったね、君達。ただ、今回の事を覚えられてるとめんどくさいから、頭をいじらせてもらうよ」
ローブを纏う男性は、あまりの怖さになんの抵抗もしない衛兵二人の頭をつかみ、
「【記憶削除】」
今回あった出来事の全ての記憶を抜き出し、全く別の出来事の記憶をその空いた部分へと差し替える。
「よし、暫くは目覚めないだろうけど、生活に支障はないから安心するといいよ。まぁ、聞こえてないと思うけどね」
糸の切れたあやつり人形の様に地面に倒れる衛兵2人にそう告げて、意識のとだえているリレウに手を向け、
「【雲の方舟】」
そう唱える。すると、リレウの倒れている地面からフワフワとした雲が姿を現し、彼女の傷を刺激しないように包み込んだ。
『準備は出来たか? リンゲル』
「あぁ、出来たよ。エル」
ローブを纏う男性リンゲルが準備出来たのかを確認した若い少年エルことエルケイスは、手元にある本をしまう。そして、
『【転移】』
上級移動魔法を発動した。すると、【スレイブ迷道】にいた彼らの姿が消えた。
「・・・え?」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
何故、私の目に指を突っ込もうとしていた衛兵の片腕から血が噴出している?
リレウはしばし思考がフリーズする。そんな凍った思考を溶かしたのは、耳に聞こえてきた誰かの声。
『はぁ。リディシア王国の衛兵の中にクズ共がいるとはな。呆れる』
「ははは、彼らも昔はちゃんとしてたんだけどね。残念すぎて反吐が出るよ」
若い少年の声と少し大人びたような男性の声だ。
「・・・ぅ」
全身が痛みに襲われ視界が霞む中、リレウは消えかかる意識を無理矢理引っ張り、声の主の姿を確認する。
「ふっ、まだ意識が残っていたか」
「あぁ。そうみたいだけど、そろそろ限界っぽいね」
若い少年とローブを纏う男性がリレウを見て告げる。
何故、彼らは私を助けた?
彼女の中でそんな疑問が生まれた。今まで誰一人救ってくれなかったというのに。昨日のあの女といい彼らも人間とは違う存在に思えて怖い。
私に『|奇跡』なんてあっちゃいけない。
なのに--
「・・・んで」
微かに漏れた疑問の声。それを最後にリレウの意識は途絶えた。
「意識が途絶えたか」
「みたいだね。さて、彼女の治療をしたい所だけど、彼らが邪魔だね」
ローブを纏う男性は、切断された片腕の傷口を治癒魔法で止血した衛兵とその仲間達を見る。彼らの表情は恐怖に染っている。その理由は圧倒的な力の差では無い。彼らは目の前にいる若い少年とローブを纏う男性が誰かを知っているからだ。
「・・・な、なんで!お前らみたいなのが、こ、こんなとこ…!!?」
「ど、どうして…!!?」
「ざ、罪人をかばうつもりか!? 」
衛兵達は恐怖で震える声で叫ぶ。その姿に、若い少年とローブを纏う男性は人以下のものを見るような目と声音で、
『罪人? ふっ、僕からしてみれば神々が創りしこの世界を汚す貴様らの方が罪人だ』
「まぁ、人間なんてそんなもんさ。彼等みたいにクソみたいな奴らもいる。確かにこの子も罪人かもしれない。でも、そんな彼女を痛ぶる君らはそれ以下の大罪人だと思うね」
そう告げる。そして若い少年とローブを纏う男性は各々得物を取り出す。
若い少年は一冊の本を。
ローブを纏う男性は一本の杖を。
『抵抗するなら抵抗しろ。その足掻きが無駄だと思い知らせてやろう』
「僕的には無駄な抵抗はやめて欲しい所だけどね」
若い少年の本がペラっと開かれ、続けてローブを纏う男性の杖が輝く。その2人に対し、リーダー格らしき衛兵が、他の仲間に大声で叫ぶ。
「お、お前ら! お、俺を守って死ね!!」
「「へ?」」
そして2人を前に押し出すように蹴り、リーダー格らしき衛兵はよろよろとした足取りで逃げ出した。その姿はあまりにも醜く哀れだ。
『【神界裁書】ページ2。【醜悪者に、神の救いは無し】』
「【慈悲なき鎖】」
一言、彼らが発した。その刹那、
「ぎぃ・・・ああああああああぁぁぁ!!?」
逃げ出したリーダー格らしき衛兵の苦鳴が【スレイブ迷道】に響き渡った。その声に反射的に反応した仲間の衛兵達は自分達の目に映る光景に驚愕した。
「・・・ひぃ」
「・・・ぁう」
余りの恐怖にまともな言葉が発せれていない。それも無理はない。彼らの目に映るリーダー格らしき衛兵の姿はないのだから。あるのは、球体のようにぐるぐる巻きになっている鎖とその隙間からポタポタと流れる赤い雫のみ。しかし、その赤い雫は果物の汁とかではない。人の血。見間違える程、衛兵達の目は悪くない。
『神に背を向けた時点で、お前の死は確定していた』
「悪いけど、神の命には流石の僕も逆らえなくてね」
若い少年とローブを纏う男性は悪びれる様子もなく、リーダー格らしき衛兵が死ぬのは当たり前と言う感じで告げる。
『さて、残りを始末といきたい所だが【裁神】様に、始末するよう命じられたのはあの男のみ。命拾いしたな、貴様ら』
「良かったね、君達。ただ、今回の事を覚えられてるとめんどくさいから、頭をいじらせてもらうよ」
ローブを纏う男性は、あまりの怖さになんの抵抗もしない衛兵二人の頭をつかみ、
「【記憶削除】」
今回あった出来事の全ての記憶を抜き出し、全く別の出来事の記憶をその空いた部分へと差し替える。
「よし、暫くは目覚めないだろうけど、生活に支障はないから安心するといいよ。まぁ、聞こえてないと思うけどね」
糸の切れたあやつり人形の様に地面に倒れる衛兵2人にそう告げて、意識のとだえているリレウに手を向け、
「【雲の方舟】」
そう唱える。すると、リレウの倒れている地面からフワフワとした雲が姿を現し、彼女の傷を刺激しないように包み込んだ。
『準備は出来たか? リンゲル』
「あぁ、出来たよ。エル」
ローブを纏う男性リンゲルが準備出来たのかを確認した若い少年エルことエルケイスは、手元にある本をしまう。そして、
『【転移】』
上級移動魔法を発動した。すると、【スレイブ迷道】にいた彼らの姿が消えた。
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