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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
勇気の焔
しおりを挟むコロシアムを覆う闇の中に赤い光が輝きを放つ。それは焔。全てをやき尽くす灼熱の焔。人が触れれば皮膚が焼け爛れ、骨だけになる。しかし、この焔はその程度の焔とは違う。この焔が焼くのは皮膚だけではない。骨さえをも燃やし尽くす。それは、【死の焔】とも呼ばれる慈悲なき焔。
「さらばだ、 黒銅熾調!!」
私は、繰り出した【焔一閃】の威力を上げて叫ぶ。その度に焔が荒ぶり、腐肉を焼く匂いが鼻腔を突き抜ける。あまりにも不快な匂いだ。ただそれでもこの手を緩めることはできない。一瞬の緩みでこの男を殺しきれないかもしれない。だから、どんな不快な目に合おうが手はとめない。
「ァアアアアアアア!!」
雄叫びを上げる。刀を握る手に力を込める。これで私を縛る過去の亡霊は消える。まだ腐肉を焼く匂いは続いている。燃え盛る焔が私の目の前で揺らめく。
あぁ、燃えている。あの男が…燃えている。
あの男が燃えているとわかると私の心は何故か高揚する。もっと燃えろと。燃え尽きろと。私の心の中を『燃えろ』という思いが蓄積していく。
「まだまだ、足りないなぁ。キリカァ」
揺らめく焔の中から、そんな声と共に焔に包まれた右手が現れ、肩を掴んできた。ジュウッと焦げ臭い匂いと焼ける痛みに私は顔をしかめる。
「・・・くっ。なんで生きて…」
そう呟く私を見て、黒銅熾調は肩を掴む手にさらに力を込めた。
「くっくっく、ははははは!!いいねぇ、その表情!あの時もお前は驚いたような顔をしてたなぁ?たまんねえ。もっと、よぉく見せてくれよ!!キリカァアアアアア!!」
骨を砕くくらいの勢いで力を込める黒銅熾調は笑う。喉が張り裂けんばかりに笑う。身体が燃えていることに痛みを感じていないのか、気にせず笑う。
「燃え尽きろ、亡霊!!」
「はははは!! 我慢比べといこうか!!俺が燃えつきるのが先か、お前が燃えつきるのが先かを!!」
ギリギリと肩を掴む手に力を込めて醜悪な笑みを浮かべる黒銅熾調。引き剥がしたい所だが、今はそっちに気をかける暇はない。それに我慢比べ位余裕だ。この焔より熱い焔を受けたことのある私にとっては軽い火傷と同じだ。
「ふん、私もなめられたものだ。お前が思っているような臆病だった頃の私はもういない!ここにいるのは、この身を勇気の焔に変えた私だけだ!!」
更に刀をくい込ませて叫ぶ。その時、私を中心に蒼い花が芽吹いた。
「ぐ…な、なんだこの力は!?」
私の肩を掴んでいた手が緩む。その隙を逃さない。
「さらばだ、亡霊」
くい込ませていた刀を思い切り押し込み、黒銅熾調の体を真っ二つに斬り裂いた。
「…かはっ。…ま…まさか…えい・・・目覚め」
何かをつぶいた後、灰と化し、風にさらわれていった。
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