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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

ひとつの戦い

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銀髪の青年の腹部を貫いた声の主--アグラスド・ヴェイン。彼は腹部から腕を引き抜く。その際に銀髪の青年を投げ飛ばす。まるで手に付いた汚れを振り払うように。

『あやつの魔法から目覚めた矢先に、貴様を見つけれたのは中々、運がいい。早速、焼き殺させてもらおうか、アクツ・エイタ』

アグラスド・ヴェインは右手に黒焔を生み出して、口元に笑みを刻む。一難去ってまた一難とはこういうことを言うみたいだ。俺は痛む身体を鼓舞しながらずりずりと這いずって逃走を図る。

『逃がすと思--』

アグラスド・ヴェインが黒焔を放った。しかし、俺の方ではなく、横へと投げ飛ばした銀髪の青年に向けてだ。黒焔が青年の身体に触れる瞬間、消滅した。青年に放たれたはずの黒焔が元からなかったかのように消え失せた。それを見たアグラスド・ヴェインが舌打ちを1つ。

『我の黒焔を己が創り出した空間へ収納、そして、この世との繋がりを断ったか。なるほどな。貴様、【禁忌四呪べレナ】の四位に座する【虚空創士ヴィレナズ】のアクトだな?』

その問に対し、腹部を貫かれて息絶えたはずの銀髪の青年・・・いや、アクトは、

「へぇ。【禁忌四呪べレナ】を知ってんのか?  俺らみたいな世界に見捨てられたゴミを知ってる奴がまだいたなんてなぁ。嬉しいねえ」

否定することも無く肯定の言葉を発する。

『当たり前だ。我は数千年を生きる【六神竜セクス・アング】の一体、剣竜【アグラスド・ヴェイン】。 貴様ら、【禁忌四呪べレナ】がここに来た理由は、シエラ・プルーティアの生け捕りと勇者候補三人を殺す事といった所だろう?』

「くっくく、生け捕りは当たりだが、もう1つは惜しかったな」

アクトは腹部に空いた穴の痛みがないかのように相変わらず平然と笑う。ただ、それに驚いたのは俺だけで、アグラスド・ヴェインは驚きもしない。

『ふっ、そういう事か。貴様らが欲するのは、勇者候補の心の奥底に眠りし力【英雄芽アルトゥ・メイヤ】とシエラ・プルーティアの秘めたる力【蒼聖英雄ティアール・メノ】。どちらも貴様らが手に入れれば人間共は破滅を待つだけになる』

「ん~、正解っちゃ正解だけど、別に俺達はこの世の破滅が目的じゃない。そりゃそうだろ? その力に頼って世界を破滅に導くなんて勿体ない。どうせなら、俺達の力で、俺達をゴミ同然に扱ってきたこの腐った世界を!人間を!ぶっ壊す!!そしてこの2つの力を使って世界を創り替える」

そう告げるアクトの異質さと気持ち悪さに俺は嫌悪した。こいつも同じ人間だとはわかる。でもだ。こんなことを簡単に言える奴が、俺と同じ人間?そんな風には思えない。いや、思いたくない。

『あぁ、貴様の言う通り、確かに人間はクソだ。どいつもこいつも己の我儘《わがまま》に理性ではなく本能で従い、奪われては奪い返し、殺られたら殺り返すの負の連鎖。話し合いをした所で互いに譲り合うことはせず、自分の主張ばかりを押し付ける。奪う為に争い、話が合わなければ争う。戦争以外に脳のない阿呆ばかり。数千年見てきてたが、人間は本当に醜い奴らばかりだ』

「へぇ、アンタもそう思うのか? なら、俺ら側に付けよ、剣竜【アグラスド・ヴェイン】」

アグラスド・ヴェインの言葉に、アクトは仲間になれと手を差し出す。しかし--


『だが、それが人間だ。この世に聖人君子は存在しない。人間は我らと違い、不完全だ。でも、それでいい。彼らは己の愚行を他人から注意され、学ぶ。時代が進むにつれて人間は変わる。昔の様に争うだけが全てじゃないと。敵対していても分かり合えるということを。譲り合う大切さを学ぶ』

アグラスド・ヴェインはその手を握らない。

『いいか? 【禁忌四呪べレナ】の四位に座する【虚空創士ヴィレナズ】のアクト。 人間は、失敗を何度も繰り返して、学び続ける生き物だ。そこだけは我が唯一認める人間の良さだ』

自身の背後に数百もの黒焔の剣を生み出して告げた。 

「あァ、そうかよ。ちっ、人間に毒された神使徒は俺らが創る新たな世界には要らない。消してやるよ、剣竜【アグラスド・ヴェイン】」

アクトは舌打ちを1つして、殺気を放つ。

そして--【六神竜セクス・アング】最弱と【禁忌四呪べレナ】四位の魔法が同時に発動し、ひとつの戦いが幕を開けた。
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