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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
【小さな太陽】 ユルゲン・アステイラ ⑤
しおりを挟む『いやぁ、困るんですよねぇ。彼がここで死なれるのは』
自身の魔法で生み出したクソ親父(偽)を消滅させたゼノは汚れを払うような仕草をしながらそう告げる。
「・・・んで、邪魔をした」
右腕を失い目的を果たせなくなった自己満のクソ偽善者である俺を消して貰えるはずだったのに。あと少しで、頭を果実のように潰されて、血をぶちまけ息絶えれたというのに。
「なんで、邪魔したんだよ!!」
痛む右腕の事を忘れるほどの怒りが俺の頭を支配し、ゼノに掴みかかる。
『邪魔した?ええ、邪魔しましたよ。で?それが何か悪いことなんですか? 貴方は勇者候補の一人、こんな所で死んでいい存在じゃない。というか、エルケイス様の命で貴方達を殺さないように言われてるので』
「意味わかんねえ事言ってんじゃねえ! あいつを殺そうとしたお前が言えることじゃねえだろ!狂神が!!」
俺はさらに吠える。しかし、ゼノは表情を変えること無く、俺の手を振り払う。不意の行動に対処できず、ましてや右腕がないことに気づき、地面に無様に倒れる。そんな俺を見下ろして、
『彼ならまだ死んでませんよ』
右手に丸い水晶を顕現させ、俺に見せる。その水晶には、こことは違う部屋(?)のベッドで包帯を巻かれて眠るミレルが映っていた。
「・・・は? 生きて・・・る?」
俺は目を見張った。信じられない。きっと、これはゼノが作り出した偽物だ。そうに違いない。
『なら、あの二人に聞いてみるといいですよ、ユルゲン・アステイラ』
そう言って、ゼノは観客席にいるキリカとシエラを指す。俺は痛む右腕に顔をしかめながら、キリカとシエラの元に近づき、
「あいつの・・・言ってることは・・・本当なのか?」
弱々しい声音で訪ねる。その問いに対して、キリカとシエラは言葉で伝えるのではなく、首を縦に振ることで答える。ゼノに脅されたような様子は感じない。嘘じゃない。真実なんだと。
「・・・良かった」
一気に不安が消え、代わりに安堵により、地面に仰向けで倒れる。そんな俺の横に何かが放られた。
「・・・俺の・・・腕?」
クソ親父に斬られた右腕がそこにはあった。既に死んだ相棒とも言える存在。もう輝きはない。
『さて、貴方は次の試練へと行く権利を得ました。その為に右腕を治すので、その付け根に当ててくれますか?』
「は? 俺が・・・合格? クソ親父に負けた俺が?」
『ええ、確かに貴方は負けました。しかし、私は言ったはずです。これは恐怖を乗り越える試練。貴方はあの男に一撃をお見舞いしました。あんな事は恐怖を乗り越えなくては出来ません』
ゼノはそう言った後、自身で右腕を俺の付け根に当て、
『失われし一部をいま一度、繋たまえ』
そう唱えた。すると、黒い無数のモヤが俺の右腕と付け根を覆い始める。そして、グチュグチュと音をあげながら、右腕と付け根が繋がっていく。痛みはない。何も感じない。荒業に近い方法だというのに。
『治りましたよ、ユルゲン・アステイラ。 違和感は感じませんか?』
その言葉に、俺は起き上がる。 その時に気づく。身体の痛みがない。あのクソ親父との戦いが嘘だったかのように。それに、右腕を回してみるが違和感はない。【太陽ノ右腕』も機能する。
「あぁ、違和感を感じない」
俺は立ち上がり、右手の握り拳を開いたり閉じたりする。
「っで?俺が合格って話だけどさ、納得がいかない」
『まぁ、貴方ならそう言うだろうとは予想していましたよ』
「なら--」
『ですが、貴方が納得いこうが、いかなかろうが関係ありません。私が合格といえば合格、失格といえば失格です。この試練は私がルールですので。という訳で、一足先に貴方を次の試験会場へと転移させます』
俺の言葉を遮り、ゼノはそう説明した後、指を鳴らした。すると、俺の足元に魔法陣が浮かび上がり、そして--次の試験会場へと飛ばされた。
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